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死神の隠し子  作者: 沖延龍弥


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第43話 天瑞鏡の破片の囁き

 駆けつけた祝が、半ば体当たりで八尋を押し倒し、覆いかぶさった。


 その真上を光線砲が、唸りをたてて掠め過ぎる。

 紙一重で躱したものの、衝撃波が祝たちを巻き包む。ブレザーと髪の毛の焦げた匂いが鼻を突き、首裏は削られているかのような熱が走る。


 直後、夜空が瓦解して落ちてきたのかと思うほどの響動(どよ)めきが、祝の耳を劈いた。


 振り返れば、光線砲が直撃したらしいメリーゴーランドが、濛々(もうもう)と立ち込める土煙に覆われ、木っ端微塵に爆砕(ばくさい)していた。


 面影を一切失くして崩壊してゆくそれを眺め、発狂しなかっただけでも上出来だと、祝は自分を褒めてやりたかった。

 それでもあまりの驚懼に八尋の上で打ち震え、退いてやることすらできずにいた。


(勝てるわけないだろ、あんな化け物……)

 頼りにしていた瀬城は、もう闘えない。八尋も祝の下で、すっかり竦みあがってしまっている。


(ーー逃げるしかない)

 自分が瀬城を背負って、八尋が全速力で長槍を飛ばせば、きっとみんなで逃げ切れるはずだと祝は思った。

(こんなところで死んでたまるか……!)

 激っていた闘志は、すっかり吹き散らされてしまったが、いつまでも縮こまっている場合ではない。

「八尋、逃げるぞ」

 言ってすぐさま立ち上がると、震える八尋の手を取り、引っ張り上げて立たせてやった。

「天瑞鏡は、もう諦めよう。こんなんじゃ、命がいくらあっても足りやしない」

 すぐに八尋が、「そ、そうね」と蒼白の顔色でうなずいた。

 

 そうして、祝は八尋の手を握ったままで瀬城のいる場所へと向かおうとした。

 ところが直後ーー


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 卒然として、祝へと囁く声があった。


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 青鹿毛炸靭を斃したあの日、輝く天瑞鏡の破片から聞こえた声だった。錆帯びた氷のように、ひどく冷たく、やけに嗄れた、祝自身の声だった。

 

 だけど今、天瑞鏡の破片はそばにはない。


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 聞こえてきたのは、祝の破れた心からだった。中身が流れ出ていった隙間から湧いて、理性を侵食するように囁いてくる。


「そうだった」

 祝が、嗄れた声でつぶやいた。

「俺は、死んでも天瑞鏡を手に入れる。死神どもは皆殺しだ」


 その言葉に、八尋が「ええっ!?」と困惑の声をあげた。  

「逃げるんじゃないの!? どうしたのよ、祝?」


 右方向から、ガンッと豪快に何かが落ちる音がした。見れば、お龍が自らを貫く長槍を引き抜き、着地した音だった。長槍を放り捨てると、お龍はゆらりゆらりと歩を進め、祝たちに目を据えた。


「何してるのよ!? ほら、早く!」

 八尋が、祝の腕を引っ張った。


 しかし、祝は動かない。それどころか、八尋の手を振り払らい、お龍へと向き直って挑むような目を投げた。

「おまえは、ここから離れろ。そんで、俺があいつを引きつけるから、隙を見つけて、もう一度あいつの動きを止めてくれ」

 お龍から一時も目を逸らさずにそう告げると、背後から八尋の当惑しきった声が返ってきた。

「な、なんで? いったいどうしたっていうのよ、祝」

「いいから、早く行けッ!」

 鋭い怒号で撥ねつけると、八尋のビクリと震える気配を感じた。そのあとに何かを言おうとしたのか、息を吸い込む音も聞こえたが、結局は何も言わず、走り去ってゆく足音だけを背中で聞いた。


 お龍が地を蹴り、祝へと迫る。

 電光石火の爆走ぶりに、祝は怯みそうになるものの、勇を鼓こして三日月刃を撃ち放つ。


 お龍は、それを双刃刀で容易く撥ね返す。あっという間に詰め寄るや、(かが)剛刀(ごうとう)(ふる)って、怒涛の連撃を祝へと見舞った。

 

 祝はなんとか、それを躱し続けた。しかし、とてもではないが反撃の余地は与えてはもらえない。双刃刀の切っ先がこの身に届かぬよう、ひたすら跳びしさるばかりだった。

 そして、限界はすぐに訪れた。


 足がもつれてよろめくと、お龍はすかさず二本の双刃刀を振り上げた。これを渾身の一撃とするためか、祝の脳天をカッと見据え、力を溜めるべくほんの一瞬動きを止めた。


 八尋は、その隙を見逃さなかった。長槍を三本翔けさせて、お龍の右の脇下を刺し貫いた。


「あの、小娘ぇぇッ」

 炉慈丸が、枯れた植え込みの陰に隠れて、恨みがましい声をあげている。


 八尋が、持ち上げた両手を左へと滑らせた。長槍はお龍を凧のように高々と舞い上げ、二十メートルほど離れたサイクルモノレールの線路の柱に激突した。


 お龍は、またもや横向きの状態で磔となる。

「何やってるのお龍! あんなガキども、さっさと片付けてしまいなさいッ!」

 炉慈丸が金切り声を飛ばして、お龍の首がグルングルンと回転した。


「こっちだ、ガラクタ!」 

 祝が、鋭く呼びかける。

 

 お龍の首がピタリと止まって、祝と視線をかち合わせた。

「とっととその口から、レーザーでもなんでもぶっ放してみろよ! 俺はここでじっとしといてやるから、遠慮すんな! さあ、やれよ!」

 挑発を目一杯に込めて、祝は叫ぶ。

   

 お龍の瞳が祝を凝視したままで、照準を絞るように縮小した。


「なに言ってるのよ、祝!」

 腕を上げたままで踏ん張る八尋が、責めるような声を張りあげる。


 お龍の口が開かれた。顎が外れ、口の端は口裂け女のように耳まで届いて、今までのはずいぶん控えめだったんだと思えるほどに、洞然として開かれた。

 

 そのおぞましい形相に、祝はぞっと怖気をふるう。けれど、足をその場に釘付けにして、挑むような目でひたすらお龍を睨み続けた。


 お龍の口から、鮮烈な光が渦巻きはじめる。


「祝、逃げて!!」

 八尋の切迫した声が飛ぶ。


 それでも祝は動かない。本音を言えば、すぐにでも逃げたい。だけど今は、そのときじゃない。霊力を極限まで右手に溜め込み、そのときを寸とも動かずに、ただ待った。


「ほーりぃぃッ!!」 

 八尋の絶叫が響き渡る。


 そこへ、炉慈丸の高笑いが重なった。

「大見栄きっておきながら、あまりの恐ろしさに動けなくなったようね!」

 まったく、スットコドッコイな糞ガキなんだから、と痛快そうに言い放ち、

「さあ、お龍!」と自身の最高傑作を振り仰いだ。

「アタシの心を傷つけたあの糞ガキに、超特大砲をブチかましておやりなさぁい!」


 その声に応えて、お龍が深く息を吸うように、大きく顎を反り上げた。

  月光を浴びて、白鷺(しらさぎ)のような白くて細い、長い首が、夜闇に浮き彫りになったその刹那ーー


 渾身の力を込めて、祝が右腕を薙ぎ払った。

 飛び出した三日月刃が、お龍めがけて疾駆する。


 お龍は、気づかない。顔を仰ぎ、白目を剥き、全身全霊の一撃とするがため、口の中いっぱいに光を溜め込んでいるさなかである。

 

 その一瞬こそが、炉慈丸が操る人形兵器たちの、唯一にして最大の隙だった。

 いっそ刎ねてくれといわんばかりに反り返ったその首に、三日月刃が食い込み両断した。

 

 まるでトスを上げられたバレーボールのように、お龍の首が舞い上がる。


「お、お龍ーーッ!!」

 炉慈丸の、野太い悲鳴が轟いた。


 お龍の首は最高点に達して、落下を始めた。よく見れば、これまたバレーボールのようにゆっくりと回転しているようだった。

 正面から右の横顔へ、右の横顔から後頭部へ、そして、後頭部から左の横顔へと巡り回ったその瞬間ーー祝の心臓は、氷結した。


 首だけになったお龍は、固く固く口を閉ざし、頬をパンパンに膨らませ、横目でギラリとこちらを睨み据えていた。

 いや、違う。あれは、標的を狙い定める眼差しだ。

 

 お龍は、待っている。中にあるモノを吐き出すまいと必死に耐えて、今か今かと待っている。


 顔が巡って、祝へと向き直る一瞬を。

 祝めがけて、光線砲を吐き出す最後の好機(チャンス)を。


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