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死神の隠し子  作者: 沖延龍弥


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第12話 なんで俺たちなんだよ

「そんな……」

 震えた声で、八尋が言った。


「祝! 八尋!」

 狛犬姉弟が、険しい顔でガバリと祝たちを振り仰いだ。

「どうかわっちゃらに、力を貸してほしいですの! 死神どもからカグツチの首を取り戻し、富士山の噴火を止めてほしいですの!」

「ですぞ!」


 今の祝のなかに、狛犬姉弟への疑念は一切なかった。ここ最近になって頻発する地震と、富士山の噴火と山体崩壊――その真因となるものが、確かに目の前に存在していて、今すぐにでも手立てを講じなければならない危機感もすでに肌身でもって思い知らされている。

 死神からカグツチの首を取り戻すことで、迫り来る未曾有の危機を回避することができるのならば、誰かが果たさなくてはならないこともよくわかった。

だけどーー


「なんで、俺たちなんだよ」

 率直な疑問を、祝はぶつけた。「おまえらの言ってることは、よくわかったよ。でも……なんで俺たちなんだ? 死神がどんな奴らで、どれほど強いのかもわからないけど、そんな大事なことなら、高校生ふたりとひとりの医者に頼るようなことじゃないだろ。たとえば、さっきのニュースに出てた気象庁の奴らとか、警察とか、政治家とか――そういう奴らに相談するのが普通だろ」


 即座に、狛犬姉弟がかぶりを振った。

「そんな連中に、このお方を託すわけにはいかないですの。権力を欲する者は、時として災いすらも利用する。真実を伝えたところで、力を貸してくれる保証はないうえに、このお方が奪われる恐れだってあるですの」

「ですぞ」


 祝は言葉に詰まった。確かにそうだ。神の実在を知って、権威をもつ大人たちが放っておくなんて考えられない。カグツチはもちろんのこと、狛犬姉弟だって無事でいられる保証はない。

 しかし、だからといって、よし、わかった! と奮起するような気分には決してなれない。

(だって、俺と八尋じゃなきゃいけない理由はどこにもないだろ……)


 大人というのは、大概が卑怯(ひきょう)で、姑息(こそく)で、狡猾(こうかつ)だ。少なくとも、俺のまわりにいる奴らは、みんなそうだったと祝は思う。この国のために、自ら率先して犠牲になろうなんていう義心(ぎしん)を抱く者なんて、草の根わけてもいやしない、と。

 だけど、自分が知っている世間からかけ離れたどこかではきっと、我こそはと死神に挑んでくれるような質実剛健(しつじつごうけん)な大人もいるはずだ。そう多くはないだろうけど。

 だから、こんな陰気な高校生と世間知らずなお嬢様なんかに頼ってないで、とっととそういう奴らを探しに行くべきだ。


 なのに、こちらを見上げてくる狛犬姉弟の真っ直ぐすぎる眼差しからは、

〈お主らしかいないんですの!〉

〈ですぞ!〉

 という、無言の叫びが聞こえてくる。


 祝は、ばっさりと切り捨てることはできず、結局は二匹の視線から逃げるようにして、瀬城に助け舟を求める目を投げた。

 そうだ、また忘れるところだったが、そもそもここに来たのは、此葉の今後についての話し合いをするためだ。この国を未曾有の危機から救うための作戦会議では決してない。なんで、こんなことになったんだ。


(先生、こいつらに何とか言ってくれよ!)

 心の中で祝は叫んだ。しかし、その想いは届かない。瀬城は、険しい表情でじっと鬼灯の中を凝視している。

 

 何事かと、祝も釣られて中を覗いた。

 寝ていたはずのカグツチだったが、どうやら今は目を覚ましているようだった。なぜなら、身体は横たわったままであったが、むっちりとした右腕を持ち上げ、とある一角を指差していたからだ。

 

 祝は、その指の先を目で追った。ただの腰高窓があるだけだった。

 外に、何かがあるのだろうか。しかし、辺りはすっかり闇に包まれていて、見通すことはできなかった。

 いやな予感が、診察室に吹き渡る。


「――いる」

 瀬城が、低く、小さくつぶやいた。


「は?」と、祝は聞き直した。「いるって、何がいるんだ――」

 よ、と言い切ろうとした声は、弾けるように割れた窓ガラスの破砕音に遮られた。

 時を移さずして、腰高窓の反対側にある壁からも、何かが撃ち当たる音がした。

 

 祝は首をすくめた状態で硬直して、心臓も、きゅっと縮こまるようだった。

 八尋も、狛犬姉弟も、真っ青な顔で凍りついている。


「死神だ! 近くにいるぞ!」

 

 瀬城の鋭い叫びに、祝ははっと我に返った。

「し、死神って、なんでだよ!? い、いったい、何が起きてんだよ!?」


 直後、祝のすぐ目の前を何かが掠めて、ほぼ同時にまたもや壁から衝突音が轟いた。

 前髪の一房(ひとふさ)がパラリと散って、祝はヒイッと息を引く。

 窓の外から、何かがとてつもない速度で飛来して、壁にぶち当たったようだった。

 けれど、祝の目には何も映らなかった。眼前を、細長いものが唸り過ぎてゆく感触はあったのに。


「とにかく頭を下げるんだ! 窓よりも低く!」

 瀬城が床に手をつき、声を飛ばした。


 祝と八尋、それに狛犬姉弟も、慌ててそれに倣って床に伏せた。


 誰かが、外から狙撃しているのは明らかだった。しかも、瀬城の言が正しければ、祝は死神に射殺されるところであった。


(なんで……? それにどうやって……?)

 祝は首をよじって、壁を仰いだ。弾痕のような穴が、二つポッカリと空いている。

 やはり銃か――とも思ったが、銃声らしきものは、一切聞こえてこなかった。

 では、いったい何によって狙撃され、壁に穴を開けたのか……祝は、その二つの穴を交互にじっと睨みつけて考えた。


 そこへ、またしても壁から衝突音が轟いた。しかも、今度は一度ではない。幾度となく矢継ぎ早に、窓の外から何かが飛来しては、容赦なく壁を撃ち抜いている。

 その音に合わせて、穿たれる穴も数を増す。

 目には見えない怒涛の猛射に、八尋は絹を裂くような悲鳴をあげ、祝は穴だらけになってゆく壁に、ただ唖然とするばかりだった。


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