第26話「幽霊にまぶたはない」
眩しい輝きが部屋に溢れ出した。シスターさんはヴェールで目を守っているはずなのにそれでも手が自然と目の前に動いた。リアナさんも手で目を守ってた。魔法陣に守れた俺は…この光には害がないと判断されたか、光が容赦なく入って来た!これは俺も目を手で覆おうと思ったら
(手がない!いや、目もない!いや、まぶたもない!これは眩しい光を受けるしかない!幽霊はこれが弱点だったか!?)
俺は苦しみながら考えた。
(どうりで映画に出てくる幽霊は暗いところにいるわけだ)
そんなどうでもいい事を考えると、光の中に影が見えた。
あの光の中で芸術家の姿がかすかに見えた。
「テオ、上手くなったな。こんなにも大人にもなって、母さんにも見せてあげたい。」
芸術家は背を向け、そのまま光の中へ歩いて消えていった。
後ろでリアナさんは片手で神殿からもらったアクセサリーを強く握りしめると、部屋の光はそのアクセサリーに流れて消えた。
一瞬の出来事だったが、霊感が全くないテオさんは不思議そうにシスターさんとリアナさんを見つめながら描いた絵を持ち続けた。
「あの、なにか宗教的な祈り?教会に殆ど行けないから、知らないけど...」
テオさんは二人に尋ねた。
「ええ、そのような事です。テオさんのお父さんに冥福をお祈りいたしました」
にっこりとリアナさんが返した。
「そうですね。テオさんの絵を見ていたら、お父さんも一緒にこの部屋にいたような気がして…」
シスターさんが優しく半分本当の事を言った。
「こんな下手な絵には勿体ない言葉だ」
「全然下手じゃない。温かい絵。ブリトニーちゃんにも見せて欲しい。」
シスターさんの褒め言葉でテオさんは苦笑いしたが、すぐに恥ずかしそうに笑った。内心は本当に嬉しそうだった。
「そういえば、そろそろ夕食の支度をするべき時間だろう。アンちゃんには悪いが、もう仕事に戻りますね」
テオさんはシスターさんに会釈を送ると、続いてリアナさんに向かって深々と頭を垂れた。シスターさんはそれを見て、リアナさんに不思議そうに首を傾げた。
「もう大丈夫だから、魔法陣から出てもいいよ」
リアナさんは俺を乗せていた手の上の魔法陣を顔の前に持って囁いた。
俺は彼女の手のひらから浮かび上がり、壁の絵の前に移動した。暗い雰囲気が完全に消えた。どちらかというとふわっとした柔らかい雰囲気が絵から出ていた。残滓は確かに消えた。テオさんは部屋を出た前に客室の机の上に絵を残した。その絵を見ると二つの絵の微笑みが似ていた事に感動した。
シスターさんは俺を見て話しだした。
「テオくんの奥さん、ブリトニーちゃんも私達の幼馴染で一緒に教会で学んでいた。長い間テオくんには会ってなかったが、今でもブリトニーちゃんと仲がいい。よく教会にも通っている。彼女からの話ではテオくんは子供の頃からずっと絵を描き続けていた。でも描いたかと思えば、すぐに捨ててしまうんです。」
「彼はお父さんの死のトラウマで絵への自信を失ってしまったんですね」
「そうだと思います。これは、ここだけの話ですけど、ブリトニーちゃんの話に長い間無理だと思っていたらしいんですが、子供を授かったそうです。テオくんにどう伝えるか悩んでたところ。この絵はきっかけになると思います。」
ヴェール越しでも、その声の調子からシスターさんが微笑んでいることが分かった。
「二人に感謝している。残滓は危害がないなら放っておいてもいいのかと思っていましたが、消えると綺麗ですね。知り合いの方の怨念だと、なおさら嬉しいものです」
「霊感が少しでもある人もこの部屋が気味悪く感じていたらしいな。テオさんは幸いそれがなかったみたいだが、これで商売もよくなるといいね」
俺も付け加えた。
「そうね。テオくんとブリトニーちゃんも幸せになってほしい」
それを言ったシスターさんは俺達の先頭で部屋を出た。宿屋の前に出たらシスターさんはリアナさんに向かって手を差し伸べた。
「そういえば、私達は自己紹介さえもしなかったね。テオくんはあなたをリアナ様と呼んでいたけど...」
「リアナでいいよ」
「うん、前にも言ったが、大丈夫、敢えてそれ以上は聞かないようにしますから。教会に報告するときも、知らなかったということで通せますから。私の名前はアンジェリカ。また会えたらアンとでも呼んでいいです」
リアナさんと握手したらシスターさんは俺の方にも向いた。
「悠真さんは生き返ったら『アンジェリカさん』でお願いしますね。出会ったばっかりの男と親しい間柄と思われたら面倒な事になるからね!」
そう言ったアンジェリカさんは背を向いて、手を振って帰った。もう日が沈んでいた時間だったため、夕焼けのその背中は何故か寂しくみえた。見送った後、俺たちも自分たちが泊まっている宿屋へ向かった。
部屋に戻ったらリアナさんは疲れた感じで椅子に座り込んだ。
「あんな強い残滓の怨念に遭うと朝起きた時全然想像もしなかった。まあ、悠真さんの魂の力も吸い込まれたからね。もう疲れているから、アクセサリーにため込んだ力を悠真さんに渡したらもう寝るね。今夜も夕食抜きにするね」
本当に今でも眠れそうな声で話した。
「無理にしなくてもいいよ。明日でも大丈夫でしょう」
「いいえ、朝起きた時、また悠真さんが消えかけていたら…」
リアナさんは首を振って返した。
彼女はアクセサリーを出して、握りしめた。
「これは、思ったより凄い量ね。もしかしてこれで蘇生できるかも!」
「それならもう一部屋が必要になるんだね」
あまり期待しすぎないようにしながら俺が突っ込んだ。
「そうね、じゃ、行きますね!」
リアナさんはいつものように歌いだした。アクセサリーから月明かりのような銀色の光が溢れた。
(本当に眩しい。この前の浄化に続いてまた避けられない光…)
そう思って、俺は反射的に目を手で覆った。
(え…?俺に手が?!)
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