第19話 「幽霊より怖いのは宿主の警戒心でした」
リアナさんが宿の中に入っていくのを、俺は必死に音に集中して聞き耳を立てていた。
本当は俺も一緒に中に入りたかったんだけど……昨夜と比べものにならないくらい、残滓の怨念の力が強まってるのが、外からでもビシビシ感じられたんだ。
ドアが閉まる音がした後でも、中からベルの音がちゃんと聞こえた。
「すみません!」
彼女がカウンターの前に立って、宿主を呼んでいる声が聞こえた。
「はい、ちょっと待ってください!」
昨日、宿屋の前で聞いた宿主と同じ声が響いた。
「あの、ここに泊まった友達から聞いた話なんですけど……ある部屋には素敵な木炭絵が飾られているって聞いてるんです。それについてちょっとお尋ねしたいんですけど……」
(リアナさんの設定じゃ、俺があの部屋に一泊したことになってるらしい。ある意味本当のことだけど……一泊で早くにも幽霊屋敷に変わる。)
「この宿に飾られている木炭絵が気にかかっているのは嬉しいですが、売るつもりは一切ありませんので、その目的で来店されたならお引き取りをお願いいたします。」
宿主の声は丁寧だけど、きっぱり拒絶。亡くなった芸術家の絵は、よっぽど大事にしているらしい。俺は元々芸術には詳しくないし、異世界の絵の技術がどの程度か評価できる立場でもないけどさ。
「お気を悪くしてしまったなら謝りますが、私は見ての通りの旅人なので、別に芸術品を買うほどのお金は持ち合わせていません。ただ、旅をしながらその町の芸術品を見て回るのが趣味なので、一泊分の料金はお支払いしますから、ご案内いただけると嬉しいです。」
リアナさんの声は自然で、演技してる感じが全然しない。さすがだな……って、俺にはその「趣味」が本当かどうかも分からないけど。
「泊まっているお客さんの部屋にはご案内できません。」
正論すぎる。
「それでしたら、空いている部屋があるなら、その部屋の絵だけでもお願いできますか?」
彼女はまだ食い下がった。
「怪しいですね~。あとで盗みに入るつもりじゃないでしょうね?」
宿主の丁寧さが少し剥がれてきた。これは危ない方向だ。確かに、会話の流れが下見に来た怪盗みたいになってる。リアナさんがどう切り抜けるのか、俺、心臓があったら今ドキドキしてたぞ。
「私は盗人ではありませんが、怪しく感じられたなら仕方ありません。本当に不安にさせてしまって、ごめんなさい。本当に大事な絵なんだと強く感じます。」
引く感じもなく、ちゃんと謝った。
「まあ、そうですが……もう引き返せないなら、町の衛兵を呼びますよ。」
宿主も引く気ゼロっぽい。
「本当にすみません。これ、身分証明書なんですけど……」
リアナさんが密かに言った声が、外にいる俺にも聞こえた。幽霊の力って便利だな。
「これは失礼しました! すぐに空きの部屋にご案内しますが、本当にこの宿の絵はお渡しできる物でもないので……」
一瞬で態度がコロッと変わった。身分証明書に何が書いてあったんだ? めっちゃ気になる。
「大丈夫、本当に見たいだけです。」
リアナさんはちょっと悲しげな声で返した。
二人が移動する足音が聞こえてきた。
「運よく、こっちの部屋に泊まっていたお客さんは朝に宿を出たので、お見せできます。この木炭絵はこの町の教会を描いたものです。」
男の説明からすると、俺が見た木炭絵とは違う、別の部屋の絵らしい。
「上手いものですね。神秘的な風景なのに、温かく感じる絵です。」
彼女が丁寧に感想を述べた。
「ところで、友達が泊まった部屋には男の子の木炭絵が飾られていたと思うんですけど……その部屋が空いているなら、次はそっちでもいいですか?」
「もちろん! なぜかその部屋は人気がないんですが、私もその絵が気に入っているんです。見れば分かるでしょう。」
二人はまた移動した。リアナさんが大きな声で話すモードに戻ったおかげで、遠くに行っても会話がちゃんと聞こえきた。
「この部屋ですね。これがその木炭絵でしょう? 実は、これが私の子供の頃、父が私を描いてくれた絵なんです!」
「え!?」
びっくりしたリアナさんの声が響いた。
俺もまたびっくりした。
……芸術家の息子さんは、亡くなっていない!?
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