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 ミカが公開した手札に、多くの視線が集中する。

 そんな中、ミカは頭をぽりぽりと掻きながら、


「3のワンペアですね。えへへ……」


 と、照れくさそうに笑った。

 そう。彼の手札は、ダイヤの4と、スペードの8。フロップと何一つ被ることの無い手札だった。


「なっ、なにそれっ……!? 実質ブタみたいなもんじゃない!」


 唖然とするイザ。

 想定できる中でも、最弱の手。彼はそれに1000チップも賭けたのだ。無理もないのかもしれない。


「いやー、助かりました。内心はひやひやしてましたよー」


 てれてれとした様子のミカを、イザは無言で睨む。


(よくもぬけぬけと……! 今回のゲーム、完全に、策に嵌められたわ! チャンスに踏み込む意思を折られ、ミスリードに誘われてしまった。――――いや。でもとりあえず、“そんなことはどうでもいい”。……問題は。何故・・手札・・せたのか・・・・。相手がフォールドしたのだから、手札は公開せずそのまま流すのが鉄則……! さり気無くやっていたから、普通ならそのまま勝負の余韻に呑まれて気づかないでしょうけど……。あの行為、絶対に何かある!!)


「次のゲームに移ります」


 各々熱量高まるテーブルとは裏腹に、ディーラーは淡々とゲームを進行する。

 テーブルの上を滑りながら、手札が2人に配られた。


「今度は私が先ね。とりあえず、ベットよ」

「同じくベットです」


 手札を手に取り確認する。

 イザは、冷静さを取り戻しつつあった。


(さて……。再びお手並み拝見といこうかしら。私の手札はダイヤの2とクローバーのキング。悪くないわ。ただ、流れは完全にあっちにある。ここはひとつ、様子見と行こうかしら)


「チェック」


 イザはテーブルを人差し指でとんとんと軽く叩き、主導権を少年に譲る。


「……僕も、チェックです」


 対するミカは、少し考えた様子を見せた。しかしか、何事も無かったかのように次を促す。


 最初のベットラウンドが終了した事を確認し、フロップが並べられる。

 スペードの3、クローバーの7、ハートのキング。それが、最初のフロップだ。


「レイズ! 50チップ」


 イザの声が響く。鬼迫の込められた声だ。


 キングは手札とフロップにしか見えていないカードだ。それがミカに行っていなければ、プロップかデッキに2枚あるということになる。よって、キングが重なれば勝機は十分と、イザは考えた。

 とはいえ、問題は初めて見えた7。

 さて、ミカの動きも見逃せなかった。


「50レイズです」


 ミカもさらにレイズする。

 手札のどれか一枚が被り、もしくは現段階ですでに2ペア確定が濃厚だ。


「さらに50レイズ」

「……コール」


 イザのレイズに、ミカは少し考えた後コールする。

 現在の賭け金は200。ここまでは前回と同じ流れだ。


 2度目のベットラウンドが終了する。ディーラーはフロップを捲った。

 出てきたカードは、ハートの2。


 そのカードに、ぴくりとイザの眉が反応する。


(きた!! これはうれしい当たりね! 2はこれで最後だから、次のフロップがKならフルハウス! ……相手は、賭け方から見るに7かKのどちらかを持っているとみて間違いなさそうね。200でコールしたところを見ると、どちらも持っていたり、ジョーカーを持っていたりは考えにくいけれど……。まだ油断はできないわ)


「レイズよ。50チップ」

「……。50、レイズです」

「さらに50レイズ」

「……コール 」



 立て続けのレイズに、ミカは苦い顔をして唇を噛んだ。


 最後のフロップが公開される。クローバーの10だ。結果として、スーツも数字もバラバラのフロップになってしまった。


(フルハウスならず、か。それでもこのツーペアなら上出来だけれど。……さっきのベットラウンドの反応では、相手がキングを持っている可能性は低いと言っていいでしょう。ただ気になるのは、ここにきて初めて見えた10。この子が厄介。相手が2枚持っている可能性も捨てきれないわ。10のスリーカードか、7と10のツーペア、もしくはそれ以下か……)


「50レイズよ」

「同じく50レイズです」

「レイズ。100チップ」

「…………」


 どんどんと積まれる掛け金に、ミカは沈黙する。手札を伏せ、俯いた。


(いよいよ、10の3カードの線は薄くなってきたわね。十中八九、7と10のツーペアで間違いないでしょう。このゲーム、勝たせてもらうわ)


 勝利を確信しながらも、イザは無表情を貫く。ミカのプレイを待つのみだ。

 先程のゲームのように、ミカの一挙手一投足がブラフの可能性もある。彼女は、油断してはいなかった。思考は止めず、頭の中で様々なパターンを模索し、その対処を考察する。


「……ふふっ。――楽しい、楽しいですよ、イザさん」

「……?」


 恍惚とした、笑み。

 顔を上げるミカ。その表情を端的に表すならば、まさにそれだった。

 イザはその表情の真意を読めないまま、怪訝な表情で彼を見る。


「なかなかに! なかなかに素晴らしいです! レイズ!! 150!」


 まるで、新しいおもちゃの箱を開ける子どものような顔で、少年は掛け金を吊り上げる。

 その様子に、またもや周囲はどよめきに包まれた。


 だが、イザはブレない。

 無表情を崩し、微笑までもを浮かべながら、彼のレイズに応える。


「100、レイズ」


 歓声。

 予測不可能の結末への期待が、見るものの胸を高鳴らせた。


「200チップ、レイズ!!」


 さらにミカは掛け金を追加する。

 双方、笑みを崩さない。純粋にゲームとしてのギャンブルを楽しむ姿が、そこにはあった。


 ミカのレイズにより、提示された掛け金は1,000チップ。おおよそ、2ゲーム目で張るような金額ではなかった。


(……1000、か。勝ちを確信している手札、つまりはあちらにジョーカー、もしくはKが7が二枚揃ったスリーカードであるならば、このゲーム、私の負けは仕方ない……)


 一度瞼を閉じ、一瞬の逡巡。だがしかし。


(――――だけど! 私の読みが正しければ、この勝負、勝てるっ!! ここで引いて悔いを残すか、さらに高みを目指すのか。それとも……)


 彼女に用意された、3つの選択肢。その中から、イザは最後の1つを選んだ。


「コール!」


 覇気のこもった声とともに、チップをテーブルに叩きつける。


(――それとも、自分を信じ、運を信じたうえで、相手の煽りに乗らず確実に勝利し流れを変えるのか!! 答えは明確!私は勝つわっ!!)


 総額2,000チップが、テーブルの上に提示された。


 しん、と。

 場は静寂に包まれる。

 誰かの喉を鳴らす音が、どこかで聞こえたような気がした。


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