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「まずは、ベットコールする順番を決めます」


 ディーラーは、そう言いながら2人に1枚ずつカードを配る。


「数字が高いほうが、最初のゲームで先にベットできます。数字が同じ場合は、スートがスペード、ハート、ダイヤ、クローバーの順で強いものとします」


 ベットコールする順番とは、即ちゲームの先攻・後攻を決めるようなもの。最初に流れを作る権利を得られる、比較的重要な取り決めであった。


 ディーラーの掛け声と同時に、2人はトランプを表側にひっくり返す。

 現れたカードは、ミカがハートの9。そして少女がクローバーの2。数字の高い、ミカが先手となる。


「やりました! 幸先良いですね!」

「……」


 喜ぶミカに対し、少女は特に興味もない、といった様子だ。

 双方は、順番決めに使ったカードを使い終わったカードエリアに流した。


「それでは、ファーストゲームを始めます」


 再度、ディーラーは流れるような手捌きでカードをシャッフルする。

 そして、2人に2枚ずつカードを配った。

 配られたカードを、双方確認する。

 確認次第、プリフロップ、つまり、最初の掛け金を動かす(ベッティング)ラウンドが始まる。


「はい、まずはアンティ50ベットです」

「ベット」


 テーブルに、二人分のチップが賭けられる。

 ギャンブルの匂いを嗅ぎつけたのか。2人のテーブルの周りには、チラホラと観戦する人々が集まり始めていた。


「あ、そういえば、自己紹介がまだでしたね。僕、ミカって言います。ミカ・サスペインです。レイズ50」


 にこにことした笑顔は絶やさず、ミカはテーブルに賭け金を追加する。


「イザよ。それ以上名乗るつもりはないわ。コール」


 対する少女も、唐突なレイズには全く反応せず、粛々と名乗った。

 そして、ミカと同額になるようチップを追加する。


「じゃぁ、イザさんって呼ばせていただきますね!」


 イザのコールと共に、プリフロップは終了。

 ディーラーは、テーブルに3枚の表向きのカードと、2枚の裏向きのカードを出す。


 クローバーの3とエース、ハートの3。

 この、表向きのカードと手札の5枚構成で、一時的な役が完成することになる。


 ポーカーの役は、11種あり、その中で強弱が定められている。


 弱い順に紹介すると。

 最も弱い役である、ハイカード(通称、ブタ)。スーツも数字もバラバラで規則性のない役だ。

 ワンペア。スーツはバラバラだが、2枚だけ数字が揃った役である。

 ツーペア。スーツはバラバラだが、数字が揃った2枚組が2つ存在する役だ。

 スリーカード。数字が揃ったカードが3枚あるが、残り2枚は不揃いで作られる役。

 ストレート。スーツはバラバラでも、5枚の数字が連続している役だ。

 フラッシュ。数字はバラバラだが、5枚ともスーツが一緒の役。

 フルハウス。数字が一致した3枚と、それとは別の数字が一致した2枚から構成される役だ。

 フォーカード。名前の通り、同じ数字が4枚の役。

 ストレート・フラッシュ。数字が連続し、なおかつスーツも同一の役。

 ロイヤル・ストレート・フラッシュ。ストレートフラッシュの中でも最も強い役。10、ジャック、クイーン、キング、エースの5枚のストレート・フラッシュに限られる。

 ファイブカード。ジョーカーが含まれるポーカーにのみ出来うる役。同じ数字のカード4枚とジョーカーで構成される。


 ――――さて。

 今回のフロップは、クローバーの3とエース、ハートの3である。つまりは、最低でもワンペアは確定した。手札がスペードとダイヤの3であればフォーカードが確定となるし、エースが2枚やエースと3の場合はフルハウスが確定となる。


 また、ポーカーにおけるジョーカーは、好きなスーツ・数字に変換できる、ワイルドカードと呼ばれる扱いである。

 手札にジョーカーがあれば、役がワンランク上がる可能性もある訳だ。


「さぁ、どんどん行きましょう! レイズ50です」

「50レイズ」

「レイズです! 50チップ」

「……コール」


 2度目のベットラウンドが終了する。

 2人の前に積まれた賭け金は、それぞれ200。開始時の実に4倍の金額が積まれていた。


 ディーラーは、裏向きのカードを1枚、表にする。ダイヤのジャックがフロップに加わった。

 後から現れるフロップにより、構成される役が変動することもある。それを予想するのも、重要なファクターだ。


「ふむ……チェックです」

「チェック」


 2人ともチェックで、3度目のベットラウンド終了。出たフロップが手札に影響がなかったのか。2人は、レイズせずそのまま次のターンに回す、チェックを選択する。


 そうして、最後の裏向きのフロップを、ディーラーがめくる。


 現れたカードは、ハートの6。



「レイズ。200チップ」



 じゃらり、と。

 ミカのテーブルに、これまでのベットラウンドで賭けられた金額と同等のそれが、追加される。


 急激なレイズに、観客達がどよめく。イザも同様に、驚きの表情を隠せなかった。


 この行為の真意として考えられるのは、2つ。最後のフロップで役が高くなり、勝てると確信したから。もしくは、相手にプレッシャーをかけ、ゲームを降りるよう誘導したいかだ。


「……どうします?」


 にやりと、ミカはイザに問う。


「……」


 思考するイザ。無表情を貫きながらも、手元へと視線を落とす。

 そこに映るのは、彼女の手札。ダイヤの3とスペードの2が映っていた。


(……私の手札。あまり強い手とは言えないわね。ただ、相手がラストの3を持っている可能性は低い。注意するべきは、ジョーカーとどれかが揃った手札のフルハウス……。けれど、最初にジョーカーが手札に来る確率は高いとは言えないわ。少し、様子をみてみるべきね……)


 彼女にとっては、熟考。しかしその思考時間は、2秒にも満たなかった。


「レイズよ。100チップ」


 ミカの勝負に、イザが乗った。

 それにより、観客達の歓声もヒートアップする。


 イザの前に、チップが積まれる。

 彼女のレイズにミカがコールすれば、双方の賭け金は各500チップとなるわけだ。

 ミカの挙動に、観客の視線が集まった。



「――――レイズ。500チップ」



 巨額のチップが、彼の前に積まれる。


 彼がこのゲームで掛けた総額は、1,000チップ。手持ちの4分の1近い金額がそこに積まれていた。


 そのいようとも言える光景に、観客達もざわめく。

 イザも同様に、その冷静な思考を大きく乱されていた。


(この子、正気……? それで負けたら賭け金の4分の1を失うのよ? ……やっぱり、初手でジョーカーを持っていた? いや、それは考えにくい。初手にジョーカーが来る確率は約3%。であれば、6、ジャック、エースのどれかを2枚持っている? それも非現実的。ーーーーで、あれば。この状況下で急激なチップのつり上げ。降りてくださいと言ってるようなもの! ならば……っ!!)


 ミカを睨みながら。視線を動かさずにチップを掴む。


「私は! コー……」


 ――――しかし、その手は。

 チップを掴んだまま、動かない。


 彼女の瞳に映る、その少年の表情は……。


 まるで・・・仕掛・・けた・・獲物・・かるのを・・・・狩人・・であった・・・・


「……っ!?」


 高揚した意思が、まるで瞬間冷凍されたかのように冷える。

 焦りと、不安。それは彼女の思考を混迷させた。


 イザは、それをなるべく悟れられないように意識しながら、視線を落とす。


(……いや、冷静になるの。クリスティ・フリート・イザベリア!! 万一ここで負けでもして1000チップも失えば、かなり大きな痛手よ! ――そもそも、彼はラストオープンまではちまちまとしたレイズだった! つまり、私が乗ることを確認して、大幅レイズした可能性もある! ……そうよ、相手はこちらがいい手でもなお勝てる手だと確信しているなら、無理なレイズにも納得がいく! もともといい手なら、私が乗ろうが降りようがあちらが侵すリスクはゼロ……! ここは、敗北してでも無理な勝負は避けるのが無難だわ……!)


 柱時計の振り子が2往復する間、彼女は思考を巡らせた。

 そして、ゆっくりと。手札をテーブルに伏せた。


「……フォールドするわ」

「……いいんですか?」

「えぇ」


 彼女がゲームから降りたのを確認すると、ミカは持っている手札を表側に倒す。


「な、なによ、この手札……!?」


 そのカードに。イザも、そして観客も。

 騒然とならざるを得ないのであった。


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