③
「まずは、ベットコールする順番を決めます」
ディーラーは、そう言いながら2人に1枚ずつカードを配る。
「数字が高いほうが、最初のゲームで先にベットできます。数字が同じ場合は、スートがスペード、ハート、ダイヤ、クローバーの順で強いものとします」
ベットコールする順番とは、即ちゲームの先攻・後攻を決めるようなもの。最初に流れを作る権利を得られる、比較的重要な取り決めであった。
ディーラーの掛け声と同時に、2人はトランプを表側にひっくり返す。
現れたカードは、ミカがハートの9。そして少女がクローバーの2。数字の高い、ミカが先手となる。
「やりました! 幸先良いですね!」
「……」
喜ぶミカに対し、少女は特に興味もない、といった様子だ。
双方は、順番決めに使ったカードを使い終わったカードエリアに流した。
「それでは、ファーストゲームを始めます」
再度、ディーラーは流れるような手捌きでカードをシャッフルする。
そして、2人に2枚ずつカードを配った。
配られたカードを、双方確認する。
確認次第、プリフロップ、つまり、最初の掛け金を動かす(ベッティング)ラウンドが始まる。
「はい、まずはアンティ50ベットです」
「ベット」
テーブルに、二人分のチップが賭けられる。
ギャンブルの匂いを嗅ぎつけたのか。2人のテーブルの周りには、チラホラと観戦する人々が集まり始めていた。
「あ、そういえば、自己紹介がまだでしたね。僕、ミカって言います。ミカ・サスペインです。レイズ50」
にこにことした笑顔は絶やさず、ミカはテーブルに賭け金を追加する。
「イザよ。それ以上名乗るつもりはないわ。コール」
対する少女も、唐突なレイズには全く反応せず、粛々と名乗った。
そして、ミカと同額になるようチップを追加する。
「じゃぁ、イザさんって呼ばせていただきますね!」
イザのコールと共に、プリフロップは終了。
ディーラーは、テーブルに3枚の表向きのカードと、2枚の裏向きのカードを出す。
クローバーの3とエース、ハートの3。
この、表向きのカードと手札の5枚構成で、一時的な役が完成することになる。
ポーカーの役は、11種あり、その中で強弱が定められている。
弱い順に紹介すると。
最も弱い役である、ハイカード(通称、ブタ)。スーツも数字もバラバラで規則性のない役だ。
ワンペア。スーツはバラバラだが、2枚だけ数字が揃った役である。
ツーペア。スーツはバラバラだが、数字が揃った2枚組が2つ存在する役だ。
スリーカード。数字が揃ったカードが3枚あるが、残り2枚は不揃いで作られる役。
ストレート。スーツはバラバラでも、5枚の数字が連続している役だ。
フラッシュ。数字はバラバラだが、5枚ともスーツが一緒の役。
フルハウス。数字が一致した3枚と、それとは別の数字が一致した2枚から構成される役だ。
フォーカード。名前の通り、同じ数字が4枚の役。
ストレート・フラッシュ。数字が連続し、なおかつスーツも同一の役。
ロイヤル・ストレート・フラッシュ。ストレートフラッシュの中でも最も強い役。10、ジャック、クイーン、キング、エースの5枚のストレート・フラッシュに限られる。
ファイブカード。ジョーカーが含まれるポーカーにのみ出来うる役。同じ数字のカード4枚とジョーカーで構成される。
――――さて。
今回のフロップは、クローバーの3とエース、ハートの3である。つまりは、最低でもワンペアは確定した。手札がスペードとダイヤの3であればフォーカードが確定となるし、エースが2枚やエースと3の場合はフルハウスが確定となる。
また、ポーカーにおけるジョーカーは、好きなスーツ・数字に変換できる、ワイルドカードと呼ばれる扱いである。
手札にジョーカーがあれば、役がワンランク上がる可能性もある訳だ。
「さぁ、どんどん行きましょう! レイズ50です」
「50レイズ」
「レイズです! 50チップ」
「……コール」
2度目のベットラウンドが終了する。
2人の前に積まれた賭け金は、それぞれ200。開始時の実に4倍の金額が積まれていた。
ディーラーは、裏向きのカードを1枚、表にする。ダイヤのジャックがフロップに加わった。
後から現れるフロップにより、構成される役が変動することもある。それを予想するのも、重要なファクターだ。
「ふむ……チェックです」
「チェック」
2人ともチェックで、3度目のベットラウンド終了。出たフロップが手札に影響がなかったのか。2人は、レイズせずそのまま次のターンに回す、チェックを選択する。
そうして、最後の裏向きのフロップを、ディーラーがめくる。
現れたカードは、ハートの6。
「レイズ。200チップ」
じゃらり、と。
ミカのテーブルに、これまでのベットラウンドで賭けられた金額と同等のそれが、追加される。
急激なレイズに、観客達がどよめく。イザも同様に、驚きの表情を隠せなかった。
この行為の真意として考えられるのは、2つ。最後のフロップで役が高くなり、勝てると確信したから。もしくは、相手にプレッシャーをかけ、ゲームを降りるよう誘導したいかだ。
「……どうします?」
にやりと、ミカはイザに問う。
「……」
思考するイザ。無表情を貫きながらも、手元へと視線を落とす。
そこに映るのは、彼女の手札。ダイヤの3とスペードの2が映っていた。
(……私の手札。あまり強い手とは言えないわね。ただ、相手がラストの3を持っている可能性は低い。注意するべきは、ジョーカーとどれかが揃った手札のフルハウス……。けれど、最初にジョーカーが手札に来る確率は高いとは言えないわ。少し、様子をみてみるべきね……)
彼女にとっては、熟考。しかしその思考時間は、2秒にも満たなかった。
「レイズよ。100チップ」
ミカの勝負に、イザが乗った。
それにより、観客達の歓声もヒートアップする。
イザの前に、チップが積まれる。
彼女のレイズにミカがコールすれば、双方の賭け金は各500チップとなるわけだ。
ミカの挙動に、観客の視線が集まった。
「――――レイズ。500チップ」
巨額のチップが、彼の前に積まれる。
彼がこのゲームで掛けた総額は、1,000チップ。手持ちの4分の1近い金額がそこに積まれていた。
そのいようとも言える光景に、観客達もざわめく。
イザも同様に、その冷静な思考を大きく乱されていた。
(この子、正気……? それで負けたら賭け金の4分の1を失うのよ? ……やっぱり、初手でジョーカーを持っていた? いや、それは考えにくい。初手にジョーカーが来る確率は約3%。であれば、6、ジャック、エースのどれかを2枚持っている? それも非現実的。ーーーーで、あれば。この状況下で急激なチップのつり上げ。降りてくださいと言ってるようなもの! ならば……っ!!)
ミカを睨みながら。視線を動かさずにチップを掴む。
「私は! コー……」
――――しかし、その手は。
チップを掴んだまま、動かない。
彼女の瞳に映る、その少年の表情は……。
まるで、仕掛けた罠に獲物が掛かるのを見る狩人の様であった。
「……っ!?」
高揚した意思が、まるで瞬間冷凍されたかのように冷える。
焦りと、不安。それは彼女の思考を混迷させた。
イザは、それをなるべく悟れられないように意識しながら、視線を落とす。
(……いや、冷静になるの。クリスティ・フリート・イザベリア!! 万一ここで負けでもして1000チップも失えば、かなり大きな痛手よ! ――そもそも、彼はラストオープンまではちまちまとしたレイズだった! つまり、私が乗ることを確認して、大幅レイズした可能性もある! ……そうよ、相手はこちらがいい手でもなお勝てる手だと確信しているなら、無理なレイズにも納得がいく! もともといい手なら、私が乗ろうが降りようがあちらが侵すリスクはゼロ……! ここは、敗北してでも無理な勝負は避けるのが無難だわ……!)
柱時計の振り子が2往復する間、彼女は思考を巡らせた。
そして、ゆっくりと。手札をテーブルに伏せた。
「……フォールドするわ」
「……いいんですか?」
「えぇ」
彼女がゲームから降りたのを確認すると、ミカは持っている手札を表側に倒す。
「な、なによ、この手札……!?」
そのカードに。イザも、そして観客も。
騒然とならざるを得ないのであった。




