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「で、坊主はどうするんだい? 見てくか?」


 ジャスティンの問いに、ミカが答える。


「いえ! 僕はポーカー卓に向かってみます。がんばってくださいね!」

「あんがとさん。……んじゃ、ディーラーのねぇちゃん、よろしくおねがいしますわ!」


 バニー姿のディーラーが、すっとテーブルの横に立つ。慣れた手つきでトランプをシャッフルしながら、ふたりのギャンブルのルールを設定しだす。



 それを尻目に、ミカは自分の座るテーブルを探して、歩き出した。


「さて……。どこかいい人はいないでしょうか。……ん?」


 各々がそれぞれのギャンブルで盛り上がる中、ひとつだけ、ぽつんと空いたテーブルがあった。

 そこには、片方の席にひとり、少女が座っている。エメラルド色の腰まで伸びた髪、その前髪を指で弄んでいた。

 つまらなそうに外を眺める少女は、その整った顔立ちも相まって、とても美しく見える。


「こんばんは! 向い、よろしいでしょうか?」


 周りの人々とは違った雰囲気に惹かれ、少女に声をかけてしまった。

 少女は、ちらりと視線だけをミカに飛ばし、ぶっきらぼうにどうぞ、と返事をする。


「ありがとうございます。あまり見ない顔ですが、もしかしてここは初めてですか?」


 テーブルに着いたミカを見ようともせず、彼女は頬杖をつきながら会話を続けた。


「初めてではないわ。と言っても、あまり来はしないけれど」

「そうですかー。見たところ、かなりお若い」

「あら、あなたにそれを言われるとは思わなかったわ。おいくつ?」

「12です。そちらは15歳くらいでしょうか」

「18よ」

「おっと、失礼しました」


 少女は、ゆっくりとした流れでミカへと向き直る。そのまま、テーブルの上に膝をつき、そこに頭を乗せた。そして、悪戯を提案するかのような笑みを浮かべる。


「それで? するの、ギャンブル」

「いいんですか?」

「そのために座ったんでしょう?」


 そうですけど……、と、漏らすミカ。

 可憐、という言葉がとても似合う彼女には、どうにもギャンブルというものは不釣り合いな気がしてしまうのだ。


「言っとくけど、甘く見てると痛い目見るわよ。私、お遊びの勝負はしたくないの」


 じっと、少女は彼を見つめた。

 その瞳に映る熱量、闘争心に、ミカも焚き付けられる。


「へぇ……」

「やるの? やらないの?」


 再度問いかける彼女に、ミカは満面の笑みを浮かべて答える。


「いえ、やりましょう! ワクワクしてきました! ディーラーさーん!! お願いします!」


 ミカの呼び掛けに対し、気づいたバニーガールが恭しくお辞儀する。

 ジャスティンの時同様、ディーラーがテーブルの横につくのだが、ゲームの準備をするようだった。



 このカジノでは、基本的に卓上で行われるゲームは、必ずディーラーがつく。

 彼女達の存在は、ゲームの進行をスムーズにしてくれるだけではない。ギャンブルではトラブルの元である、“イカサマ”を防止する事も、大きな役割を担っていた。


 このカジノにおいて。

 イカサマの行使は、賭博場への出入りが禁止になるだけではなく、入場時受け取ったチップの10倍近い金額が、罰金として支払わされる。

 その為、独自の構成を持つ組織が運営し、外部の如何なる影響力があっても絶対的な中立性を保つ。それこそが、この賭博場の1番の魅力であった。


 ――ただし。

 その絶対力は、別のベクトルでも発揮される。この賭博場では、自分に所有権があるものであれば、文字通り“なんでも”チップに変えることが出来る。逆に言えば、ここで負債ができた場合、それ相応の金額の物が強制的に差し押さえられる、ということだ。

 実際、酒に溺れ、無理な賭け片をし、所有する物“全て”を失った者を、ミカは知っていた。


「お待たせしました。勝負は?」


 準備を終えたディーラーが、テーブルにつく。


「んーと……」

「テキサス・ホールデムポーカー」


 どのゲームで競おうか考えるミカより先に、食い気味で少女は口を開いた。


「おぉ、なかなか楽しそうなものを出してきますね! それにしましょう!」


 テキサス・ホールデムポーカー。

 普通の、5枚の手札を使うポーカーがクローズド・ポーカーと呼ばれるのに対し、今からミカたちが行うゲームは、フロップ・ポーカーと呼ばれる。


 まず、手札がお互いに2枚づつ配られる。その手札は、通常のポーカー同様、配られたプレーヤーにしか見ることが出来ない。

 そして、配られた段階でベットラウンド、つまり、賭け金を追加するラウンドが行われる。

 1度目のベットラウンド終了後、場にフロップと呼ばれる、3枚の表向きのカードと2枚の裏向きのカードが出される。これが、このゲームの肝だ。


 そして、3枚のカードが見えた時点で2度目のベットラウンドが行われる。その後、裏向きのカードを一枚めくって3度目のベットラウンドをする。そして残りの一枚をめくって、最後のベットラウンドを行う。

 賭け金が決定した時点で、お互いの手札を公開し、役を競い、ワンゲームが終了となる。


 つまり、このテキサス・ホールデムポーカーは、場に出た5枚のカードと手札の2枚のカードを組み合わせ、任意の5枚の役を作って競うゲームという訳だ。


 勿論、ポーカーの醍醐味である、心理戦で相手を如何にゲームから降ろさせるかも、このゲームにおいても重要であった。


「オリジナルルールは如何致しますか?」


 ディーラーがカードをシャッフルしながら伺う。ミカはそれに淀みなく返答した。


「では、提案を。親はなし。ジョーカー1枚を加えて、リシャッフル無しのワンデッキゲーム。金額上限は4500チップでどうです?」


 ミカの提案に、少女はこくりと頷く。


 通常、テキサス・ホールデムポーカーはジョーカー抜きで行う。しかし、それにあえてジョーカーを加えることで、更に戦局が読みづらくなるわけだ。そして、一度使用したカードを使用しない、リシャッフル無しのルール。これはつまり、5回のゲームで勝敗が決まる、短期決戦であることを意味していた。


「ここの規定どおり参加費アンティは50チップ。ベットリミットは無しのテーブルスクーテスです。要するに手持ち以上はかけられません。こちらについては変更なしでいいですか?」

「問題ないわ」


 1ゲーム事に50チップづつ賭博場へ支払う、というのは、全てのギャンブルにおいて共通の、ここのルールである。

 加えて、1つのゲームの中で、手持ちの範囲内であれば幾らでも掛け金を釣り上げることが出来るルールも、この賭博場では必要だった。


「そして最後に。大事なルールを提案します。ショーダウンになったとき、5カードならば賭け金の5倍、ロイヤル・ストレート・フラッシュならば2倍の支払いになる、というのはいかがでしょう?」

「あら、聞いたこともないルールね」

「はい。テキサス・ホールデムポーカーはクローズド・ポーカーに比べ、高い手が出やすいです。だからこそ、賭け金が跳ね上がるルールがあったほうが、緊張感が高まって面白いでしょう?」


 にやり、と笑うミカに、相手も同じ表情で答える。


「……確かにね。なら、そのルール受けましょう」


 ミカの提示した独自の追加ルールが相手も承諾したことを確認し、ディーラーは恭しくお辞儀をした。

「では、それで合意ということで。当カジノの規定通り、アンティは徴収となりますが

両者よろしいですね?」


 ディーラーがゲームを開始する前の、お決まりの確認をする。

 両者とも、お互いに視線をぶつけ会いながら、それに頷き同意した。


「……それでは、ゲームを始めます!」


 ディーラーが、高らかにギャンブル開始の宣言をする。


 ――――こうして。

 1人の少年と少女の闘いが、幕を開けたのだった。


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