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婚約破棄された公爵令嬢ですが、すべては九年前から始まっていました  作者: 若松りこ


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第七話 憧れの終わり

十五歳になったエレノアは、誰もが認める淑女へと成長していた。

王妃教育では常に高い評価を受け、公爵家の誇りと称えられる存在だった。

その隣で、十四歳になったセシリアもまた、努力を重ねていた。


礼儀作法。

学問。

音楽。

ダンス。


エレノアに少しでも近づこうと、誰よりも懸命に励んでいた。


それでも――。


「さすが未来の王太子妃ですね。」

「エレノア様は本当に素晴らしい。」


賞賛の声は、いつも姉へ向けられる。

セシリアも笑顔で拍手を送りながら、その胸の奥では小さな痛みが広がっていた。


ある日、王宮で開かれた小規模な茶会。

庭園を歩いていたセシリアは、偶然、令嬢たちの会話を耳にする。


「アルディス公爵家のお二人は、どちらも素敵ですわね。」

「ええ。でも、未来の王太子妃はやはりエレノア様しか考えられませんわ。」

「セシリア様も努力家ですけれど……。」

「お気の毒ですわね。」

「どれだけ努力しても、お姉様には敵いませんもの。」


悪意のない言葉だった。

だからこそ、深く胸に突き刺さった。


帰りの馬車の中。


セシリアは一言も話さなかった。

その様子を見たアンナが、静かに問いかける。


「今日は元気がないのね。」


しばらく沈黙が続く。

やがてセシリアは、小さな声で呟いた。


「……私は。…私も努力しています。」

「お姉様と同じくらい勉強もしています。」


「なのに……。」


声が震える。


「誰も私を見てくれません。」


アンナは何も否定せず、ただ娘を優しく抱き寄せた。


「あなたは本当によく頑張っているわ。」


その一言で、張り詰めていた感情が溢れ出す。


「でも……。」

「どれだけ頑張っても、お姉様がいる限り……。」


言葉は途中で止まった。

アンナは静かに続ける。


「エレノアさんは、公爵家の長女。

そして未来の王太子妃。

その立場はあなたの努力では変えられないもの。」


セシリアは俯いたまま、何も答えなかった。

頭では分かっている。

お姉様は優しい。

何も悪くない。


それでも。


アレクシスの隣で微笑むエレノアの姿が頭から離れない。

私は、どれだけ努力しても。

…あの場所へは立てない。

その現実だけが、胸を締め付ける。


その夜。


セシリアは自室の窓から、向かいにあるエレノアの部屋を見つめていた。

まだ灯りが消えていない。

今日も王妃教育の復習をしているのだろう。

昔なら、その部屋へ駆け込んでいた。


「お姉様。」


そう呼びながら、今日あった出来事を話していた。

けれど、その足は動かない。

代わりに胸の奥から、消したいはずの想いがゆっくりと浮かび上がる。


――お姉様さえ、いなければ。


その瞬間。

誰よりも慕っていた姉への憧れは、初めて嫉妬へと姿を変えた。

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