第三十話 新たな季節
北の庭では、満開の花々が咲き誇っていた。
柔らかな春の日差しの中、エレノアはゆっくりと庭を歩いていた。
以前ここを訪れた時には、まだ小さな蕾だった花々。
それが今は、美しく咲き誇っている。
自然と頬がほころんだ、その時だった。
「――あの時の蕾が、満開になりましたね。」
聞き覚えのある穏やかな声。
エレノアははっと振り返る。
「レオン様……!」
思わず声が弾む。
そこには、優しい笑みを浮かべたレオンが立っていた。
「どうして、こちらに……?」
驚きを隠せないエレノアに、レオンは静かに一礼する。
「突然お伺いして申し訳ありません。」
「ですが、どうしてもお会いしたくて参りました。」
エレノアはまだ信じられないというようにレオンを見つめる。
「お父様は……何も仰っていませんでした。」
「ええ。」
レオンは優しく頷く。
「公爵には、あえてエレノア様にはお伝えしないでいただきました。」
「私自身の言葉で、お話ししたかったのです。」
エレノアは小さく微笑んだ。
「ありがとうございます。」
「私も、お会いできて嬉しいです。」
二人は並んで庭を歩き、穏やかな時間を過ごした。
春風が花々を揺らし、小鳥のさえずりが静かな庭園に響いている。
やがてレオンは静かに足を止めた。
「エレノア様。」
その真剣な声音に、エレノアも足を止める。
レオンは真っ直ぐにエレノアを見つめる。
「あなたの優しさに…」
「どんな苦しみの中でも、人を憎むことなく前を向こうとする強さに。」
「私は心から惹かれました。」
一呼吸置くと、レオンはゆっくりとエレノアの前へ歩み寄る。
そして、その場で静かに片膝をついた。
まっすぐにエレノアを見上げる瞳には、揺るぎない決意が宿っている。
「以前、私は申し上げました。」
「『あなたは、ご自分で前へ進むことを選ばれました。……私は、その隣を歩いているだけです。』と。」
「そして、『その道の終わりまで、ご一緒することをお約束します。』とも申し上げました。」
レオンは穏やかに微笑む。
「その想いは、今も変わりません。」
「ですが今は、それだけではないのです。」
「これから先の人生も、あなたの隣を歩くのは私でありたいと願っています。」
「エレノア様。」
「どうか、私と結婚してください。」
穏やかな風が吹き抜け、花びらが二人の間を舞う。
辛く苦しかった日々。
それでも前を向くことを選び続けた自分。
そして、その隣にはいつもレオンがいてくれた。
込み上げる気持ちに視界がかすかに滲むが、
その瞳に迷いはなかった。
「……はい。」
「喜んで、お受けいたします。」
その言葉に、レオンは安堵したように微笑んだ。
静かに立ち上がると、そっと右手を差し出す。
エレノアはその手を見つめ、小さく微笑む。
そして迷うことなく、その手を重ねた。
二人は穏やかに微笑み合う。
長い冬は終わりを告げた。
これから紡がれていく日々は、きっと穏やかで、温かなものになる。
そう信じられる未来が、二人の前には確かに広がっていた。
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次回、最終話となります




