第三十一話 未来への誓い
澄み渡る青空の下、隣国の王都は祝祭の空気に包まれていた。
王城の一室では、純白のウェディングドレスに身を包んだエレノアが静かに窓の外を眺めている。
柔らかな陽光を受けたその姿は、穏やかで、美しかった。
控えめなノックの音が響く。
「入ってもよろしいか。」
「はい、お父様。」
部屋へ入ってきたレイモンドは、娘の姿を見ると足を止めた。
しばらく何も言えず、ただ見つめている。
「……どうかなさいましたか。」
エレノアが少し照れながら尋ねると、レイモンドは穏やかに微笑んだ。
「……綺麗だ。」
「ありがとう、お父様。」
その笑顔を見て、レイモンドも自然と笑みを浮かべる。
「お前が生まれた日のことを思い出していた。」
「腕の中に収まるほど小さかったお前が、今日こうして花嫁になる。」
「父として、これほど嬉しい日はない。」
エレノアは静かに父を見つめた。
「ここまで来られたのは、お父様が私と向き合ってくださったからです。」
「本当に、ありがとうございました。」
レイモンドは首を横に振る。
「いや。」
「礼を言うのは私だ。」
「もう一度、お前の笑顔を見ることができた。」
「それだけで十分だ。」
少しだけ沈黙が流れる。
レイモンドは娘の肩にそっと手を添えた。
「幸せになりなさい。」
「今度こそ、お前自身の人生を歩むんだ。」
エレノアは力強く頷く。
「はい。」
「行ってまいります。」
「ああ。」
「行っておいで。」
二人は笑顔を交わした。
やがて結婚式が始まる。
大聖堂には各国の来賓が集い、色鮮やかな花々が祭壇を彩っていた。
厳かな音楽が流れる中、レイモンドにエスコートされたエレノアはゆっくりとバージンロードを歩く。
祭壇ではレオンが優しい笑みで待っていた。
レイモンドは娘の手をそっとレオンへ託す。
「レオン殿下。」
「娘を、よろしくお願いいたします。」
レオンは深く頭を下げた。
「必ず幸せにいたします。」
その言葉を聞き、レイモンドは安心したように頷き、席へ戻っていった。
神官の前で誓いを交わし、指輪を交換すると、大聖堂は大きな拍手に包まれる。
鐘の音が高らかに鳴り響き、新たな夫婦の誕生を国中へ告げていた。
式が終わると、国王夫妻が二人の前へ歩み寄る。
王妃はエレノアの手を優しく包み込んだ。
「ようこそ、我が国へ。」
「そして、ようこそ私たちの家族へ。」
国王も穏やかに頷く。
「この国は、あなたを心から歓迎する。」
「どうか肩の力を抜いて過ごしてほしい。」
エレノアの瞳から、涙が静かにこぼれ落ちた。
「ありがとうございます……。」
レオンはそっとエレノアの隣に立つ。
何も言わず、その涙が落ち着くまで静かに寄り添っていた。
エレノアはレオンを見上げ、小さく笑う。
レオンもまた、穏やかに微笑み返す。
その笑顔だけで十分だった。
大聖堂の扉が開く。
外には大勢の人々が集まり、二人を待っていた。
「おめでとうございます!」
「レオン殿下、万歳!」
「エレノア様、ようこそ!」
祝福の歓声とともに、無数の花びらが空を舞う。
レオンはエレノアへそっと手を差し伸べた。
エレノアはその手を握り返す。
二人は並んで歩き出した。
その先には、愛する人がいる。
新しい家族がいる。
そして、自分の帰る場所がある。
もう、自分の居場所を探す必要はない。
エレノアは春風の中で穏やかに微笑んだ。
祝福の鐘は、新たな人生の始まりを告げるように、いつまでも澄んだ音色を響かせていた。
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