第二十五話 涙の告白
法廷を包む静寂の中、誰一人として口を開かなかった。
アレクシスの問いだけが、重く響く。
「君は私を欺いていたのか。」
セシリアは俯いたまま、小さく肩を震わせた。
やがて、一筋の涙が頬を伝う。
「……はい。」
その小さな返事だけで、法廷はどよめいた。
「アレクシス様に認めていただきたくて……私なりに、ずっと努力してきました。」
「けれど、どれだけ頑張っても、アレクシス様の隣に立つことは叶わない……。」
「それが、悔しくて……苦しくて……。」
嗚咽をこらえながら、セシリアは続ける。
「お母様は、何度も『あなたの方がふさわしい』と言ってくださいました。」
「『努力を続ければ、きっと殿下もあなたを見てくださる』と……。」
「私は、その言葉を信じてしまいました。」
アンナの顔色が変わる。
「セシリア!」
思わず声を上げたアンナを、裁判長が鋭く制した。
「静粛に。」
法廷は再び静まり返る。
セシリアは震える声で続けた。
「髪飾りも……ドレスも……。」
「お姉様のものだと分かっていました。」
法廷がざわめく。
「それでも私は、欲しかったんです。」
「宝石が…ドレスが、ではありません…。」
「アレクシス様のお傍に…隣に立つためなら、お姉様から奪うことも間違いじゃないと、自分に言い聞かせていました。」
「……全部、私の罪です。」
セシリアは深く頭を下げた。
「私は、お姉様から大切なものを何度も奪い……アレクシス様のことも欺いておりました。」
「本当に申し訳ございませんでした……。」
法廷は水を打ったように静まり返る。
やがて、レイモンドが静かに口を開いた。
「裁判長。」
「証拠品であるメッセージカードの確認をお願いいたします。」
裁判長は静かに頷く。
「証拠品を。」
係官が、しわだらけになったメッセージカードをアレクシスのもとへ運んだ。
アレクシスは乱れた紙をゆっくりと伸ばした。
そこには、自らエレノアへ贈った言葉が、確かに残されていた。
「……間違いありません。」
アレクシスはカードから目を離さぬまま、静かに告げる。
「これは、私がエレノアへ贈ったメッセージカードです。」
法廷は再び静まり返る。
手紙は届かなかった。
贈り物も届かなかった。
そして、このカードさえも。
それなのに、自分は一度もエレノア本人の言葉を信じようとはしなかった。
なぜ、本人に確かめなかったのか。
なぜ、噂ばかりを信じたのか。
胸の奥を、後悔が静かに蝕んでいく。
アレクシスは、しわだらけになったカードを握りしめた。
お読み下さりありがとうございました
物語も終盤になって参りました。
また次回もよろしくお願いします。




