第二十四話 崩れゆく仮面
法廷を包む静寂は、誰一人として破ることができなかった。
裁判長は静かに口を開く。
「被告、セシリア。先ほどまでの証言について、何か申し開きはあるか。」
名を呼ばれたセシリアは、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には涙が滲んでいる。
「……違います。」
震える声が法廷に響いた。
「私は、お姉様から譲っていただいたのです。」
ざわめきが広がる。
「お姉様は『私は派手なものは好みではないから』とおっしゃって……だから私が受け取っただけです。」
涙をこぼしながら必死に訴えるセシリア。
「私は、決して奪ってなどおりません。」
その姿に同情の表情を浮かべる者もいた。
しかし、その空気を断ち切るように一人の声が響く。
「……エレノア。」
レイモンドだった。
「証言を。」
「はい。」
エレノアは静かに一礼し、証言台へ進み出る。
視線はセシリアへ向けることなく、まっすぐ裁判長を見据えて口を開いた。
「私は、アレクシス様から頂いた髪飾りも、ドレスも、一度たりとも受け取っておりません。」
法廷がざわめく。
「そのような贈り物を頂いていたことさえ、今初めて知ったのです。」
誰も息を呑んだ。
「王妃教育のお茶会にも参加できず、お手紙も届きませんでした。」
「贈り物だけが届くはずもございません。」
その言葉に、法廷は再び静まり返る。
アレクシスは静かに目を閉じた。
何度も手紙を書いた。
返事が来ないたびに、忙しいのだと思った。
何度も茶会へ招いた。
来られない事情があるのだと、自分に言い聞かせた。
髪飾りを贈った。
ドレスを贈った。
きっと喜んでくれる。
そう信じて疑わなかった。
だが、そのどれ一つとして、エレノアには届いていなかった。
ゆっくりと目を開いたアレクシスは、セシリアを見据える。
その瞳に宿るのは怒りではない。
深い失望だった。
「セシリア。」
静かな呼びかけに、セシリアの肩が震える。
「君は私を欺いていたのか。」
その一言だけで十分だった。
セシリアは唇を震わせる。
言葉が出ない。
法廷中の視線が一斉に彼女へ注がれる。
もはや「姉から譲り受けた」という言葉を信じる者はいない。
沈黙だけが、法廷を支配していた。
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