第二十一話 王宮裁判
厳かな鐘の音が法廷に響き渡る。
国王と王妃が見守る中、裁判長が静かに告げた。
「これより、アルディス公爵家に関する審理を開始する。関係者は着席。」
レイモンドはエレノアへ穏やかな眼差しを向け、小さく頷いた。
「行こう。」
「はい、お父様。」
二人は左側の席へ進み、静かに腰を下ろす。
その向かいにはアンナとセシリアが座った。
(……おかしいわ。)
レイモンドがエレノアと並び、自分たちの正面へ座る。
婚約破棄に関する形式的な確認だけなら、このような席順になるはずがない。
(何かある。けれど……今はまだ分からない。)
扇子を持つ手にわずかに力が入る。
(焦ってはいけない。)
(不用意に口を開けば、こちらが不利になる。)
アンナは何事もないように微笑み続けた。
一方、セシリアは落ち着かない様子でエレノアを見つめていた。
北方へ送られたはずの姉は、以前のまま痩せてはいるものの、その瞳から怯えは消えていた。
まっすぐ前を見据える姿には、かつて王太子妃教育を受けていた頃の気品が戻っている。
(どうして……。)
(どうしてそんな顔ができるの……。)
法廷後方では、参考人席に着いたレオンが静かに成り行きを見守っている。
「なお、本件の解明に尽力した隣国第二王子レオン殿下には、参考人として臨席いただく。」
法廷がどよめく。
「静粛に。」
裁判長の一声で静寂が戻った。
「本件は、レイモンド・アルディス公爵より申し立てのあった婚約破棄について、その事実関係を明らかにするための審理である。双方の主張ならびに提出される証拠、証言を審理し、その結果をもって陛下にご裁定を仰ぐ。」
国王は静かに頷いた。
「王太子アレクシス殿下。婚約破棄に至った経緯を述べられよ。」
アレクシスは立ち上がる。
「私は長年、エレノアを王太子妃として見守ってまいりました。しかし、礼儀作法、教養、社交性、そのいずれにも著しい不足が見られました。
私は婚約者として幾度となく話し合いの場を設けようといたしました。しかし、エレノアがその場へ現れたことは一度もありませんでした。
婚約者として歩み寄ろうと努めましたが、その思いが届くことはありませんでした。
幾度となく改善を期待しましたが、その努力は見受けられませんでした。王太子妃として国を支える資質に欠けると判断し、婚約を解消いたしました。」
「アンナ夫人。」
アンナは静かに一礼する。
「私は母として礼儀作法や学問を学ぶ機会を幾度も設け、王太子妃教育も受けられるよう努めてまいりました。しかし、エレノアは期待に応えてはくれませんでした。もっと良い母であれば、このような結果にはならなかったのかもしれません。」
「セシリア嬢。」
「私も、お姉様には立派な王太子妃になっていただきたいと、ずっと願っておりました。だからこそ、このような結果になってしまったことが、とても悲しいのです。」
法廷にはアンナ母娘へ同情する空気が流れた。
裁判長は申立人席へ視線を向ける。
「申立人レイモンド公爵。ただ今の証言について、反証があれば述べよ。」
レイモンドは静かに立ち上がる。
一度だけエレノアを見る。
エレノアは小さく頷いた。
レイモンドは正面を向き直り、静かに口を開く。
「ただ今の証言は、いずれも事実ではありません。」
いよいよ反撃ターン
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