第二十話 開かれる法廷
第二十話 開かれる法廷
数日後。
北方別邸とアルディス公爵家へ、それぞれ王宮からの出廷命令が届けられた。
アルディス公爵家。
レイモンドは執事グラハムを執務室へ呼び寄せた。
「皆には伝えてあるな。」
「はい、公爵様。」
グラハムは深く一礼する。
「使用人一同には、これまで通りに振る舞うよう申し伝えております。」
「アンナ様やセシリア様に悟られるような言動は慎み、本件については他言無用であることも徹底いたしました。」
レイモンドは静かに頷く。
「それでいい。」
「真実は王宮の法廷で明らかになる。」
「それまでは、誰にも悟らせるな。」
「承知いたしました。」
屋敷は何事もないかのように時が流れていた。
使用人たちも普段と変わらぬ様子で主人たちに仕え、誰一人として余計な素振りを見せない。
その静けさは、レイモンドの指示によって保たれていた。
だからこそ、アンナもセシリアも何一つ疑うことはなかった。
アンナは王宮から届いた封書をゆっくりと開いた。
「王宮への出廷命令……。」
隣から覗き込んだセシリアが首を傾げる。
「何かございましたか、お母様。」
アンナは書状を静かに畳み、穏やかな笑みを浮かべた。
「心配はいらないわ。婚約破棄に伴う形式的な確認でしょう。王家としても、関係者から一通り事情を聞いておきたいだけです。」
その言葉に、セシリアも安心したように微笑む。
「そうですわね。
婚約は正式に破棄されましたもの。
今さら何をお話しすることがあるのでしょう。」
アンナは娘の肩へ優しく手を置いた。
「堂々としていなさい。」
「あなたは未来の王太子妃となる身です。」
「いつも通り振る舞えば何も問題ありません。」
「はい、お母様。」
二人は、それが自分たちの罪を裁くための召喚であることなど、夢にも思っていなかった。
そして迎えた当日。
王宮の大広間には、王族、貴族、関係者、そして許可を得た傍聴人たちが静かに集まっていた。
正面には国王と王妃。
その傍らには王太子アレクシスが立っている。
数日前、国王から告げられた言葉が脳裏をよぎる。
『アルディス公爵家に関する審理を行う。』
詳細は当日明らかにする。
それ以上の説明はなかった。
(審理……?)
(婚約破棄は終わったはずだ。)
(今さら何を審理するというのだ……。)
胸に残る疑問を抱えたまま、アレクシスは静かに法廷の扉へ視線を向けた。
やがて、重厚な扉がゆっくりと開かれる。
最初に姿を現したのは、アルディス公爵家当主、レイモンド・アルディス。
その後ろには、隣国第二王子レオン。
そして最後に、一人の令嬢が静かに姿を現した。
エレノアは気品ある藍色の礼装に身を包み、大広間へ足を踏み入れる。
その身体は、まだ細い。
長年の暮らしが残した痛ましい痩せ方は、すぐに消えるものではなかった。
それでも以前とは違う。
頬にはわずかに血色が戻り、その表情には穏やかさが宿っていた。
北方別邸で十分な食事と穏やかな日々を過ごし、温かな人々に支えられたことで、少しずつ健康を取り戻し始めていたのだ。
かつての青白く儚い印象は薄れ、その細い身体には確かな生命力が宿り始めていた。
その瞬間、大広間の空気が揺れた。
「……あれは。」
「エレノア様ではないか。」
「婚約を破棄された令嬢が、なぜここに?」
「しかも、レオン殿下とご一緒だ……。」
傍聴席から驚きの声が漏れ、小さなどよめきが広がっていく。
婚約破棄の後、公の場から姿を消したはずの令嬢が、隣国第二王子と並び、この法廷へ姿を現したのである。
誰もが目を奪われていた。
「……え?」
セシリアの顔から笑みが消えた。
「お、お姉様……?」
アンナも目を見開く。
「どうして……。」
「どうして、あなたがここに……!」
二人の狼狽など意に介さず、エレノアは静かに歩みを進める。
その姿を見たアレクシスも息を呑んだ。
(エレノア……。)
(なぜ彼女が、この場に……。)
困惑だけが胸に広がっていく。
やがて役人が一歩前へ進み出る。
「これより、アルディス公爵家に関する審理を執り行います。」
その厳かな宣言とともに、大広間は静寂に包まれた。
物語も終盤になってきました
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