表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、すべては九年前から始まっていました  作者: 若松りこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/17

第二話 初恋

九年前――。


アルディス公爵家の正門に、一台の馬車がゆっくりと停まった。

九歳のエレノアは、父の隣でその馬車を見つめていた。


「エレノア。」


父は優しく微笑む。


「今日から、新しい家族を迎える。」


馬車から降りてきたのは、一人の美しい女性と、小さな女の子だった。


「初めまして。」


「アンナと申します。」


アンナは穏やかに頭を下げる。

その後ろから、緊張した面持ちの少女が、おずおずと前へ出た。


「……セシリアです。」


「よろしくお願いいたします。」


一生懸命に覚えたのであろう淑女の礼に、エレノアは自然と笑みを浮かべる。


「私はエレノアです。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


その笑顔を見たセシリアは、少しだけ安心したように息を吐いた。

そして、小さく両手を握り締めながら尋ねる。


「あの……。」


「はい?」


「お姉様って、お呼びしてもよろしいですか?」


思いもよらない言葉だった。

エレノアは目を丸くし、それから柔らかく微笑む。


「もちろんです。」


その瞬間、セシリアの表情がぱっと明るくなった。


「ありがとうございます、お姉様!」


その日から、二人はいつも一緒だった。

朝は庭を散歩し。

午後は書庫で本を読み。

勉強も、刺繍も、お茶の時間も。

セシリアは何をするにもエレノアの隣にいた。


「お姉様みたいな淑女になりたいです。」


それはいつしか、セシリアの口癖になっていた。

エレノアもまた、血の繋がりを忘れてしまうほど妹を可愛がっていた。

そんな穏やかな日々は、五年の歳月を重ねた。


五年前。


王家主催の春の茶会。

未来の王太子妃として王妃教育を受けていた十三歳のエレノアは、十二歳になったセシリアを初めて王宮へ連れて行くことになった。


「緊張していますか?」


馬車の中でエレノアが尋ねる。


「少しだけです。」


「でも、お姉様が一緒なので安心しています。」


その言葉に、エレノアは優しく微笑んだ。


「私もずっとそばにいますから。」


王宮へ到着すると、庭園では色鮮やかな花々が咲き誇り、多くの貴族たちが歓談していた。


やがて侍従の声が響く。


「第一王子アレクシス殿下のお成りです。」


その場にいた全員が一斉に頭を下げる。


「楽に。」


穏やかな声だった。

セシリアはおそるおそる顔を上げる。

春の日差しを受けて輝く金色の髪。

澄み渡る青い瞳。

十五歳とは思えないほど凛とした立ち姿。

それでいて、人を威圧するような冷たさはない。


年配の貴族には敬意を払い、幼い子どもには自然に目線を合わせて微笑み掛ける。


その優しい振る舞いに、庭園全体の空気まで柔らかくなるようだった。


(……なんて素敵な方なの。)


胸が、静かに高鳴る。


「エレノア。」


アレクシスは自然な笑顔を向けた。


「久しぶりだな。」


「お久しぶりでございます、殿下。」


二人の会話には、長年婚約者として歩んできた穏やかな信頼が感じられた。


「殿下。」


エレノアはセシリアへ視線を向ける。


「こちらは妹のセシリアです。」


セシリアは一歩前へ出て、美しく一礼した。


「セシリア・アルディスと申します。」


アレクシスは優しく頷く。


「話は聞いている。」


「エレノアから、努力家の妹だと。」


思いがけない言葉に、セシリアは目を丸くした。


「私のことを……。」


「王宮は慣れない場所でしょう。」


「肩の力を抜いて楽しんでください。」


柔らかな微笑み。


それだけで胸が熱くなる。


初めて会ったはずなのに、もっとこの人のことを知りたいと思った。


茶会が終わり、帰りの馬車の中。


セシリアは窓の外を眺めながら、何度もアレクシスの笑顔を思い返していた。


その横顔を見つめるアンナだけが、娘の胸に芽生えた小さな恋心に気付いていた。


そして、その恋が公爵家の運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ