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婚約破棄された公爵令嬢ですが、すべては九年前から始まっていました  作者: 若松りこ


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第十八話 動かぬ証拠

翌朝。

公爵は昨夜届けられたレオンからの書簡を、静かに読み返していた。

元料理人。

元配膳係。

元使用人。

そして、自ら教師から聞いた証言。

誰一人として示し合わせたものではない。

それでも、その証言は驚くほど一致していた。

公爵はゆっくりと書簡を閉じる。

「……王宮へ申し立てるには、あと一歩だ。」


その日。

公爵は王都での所用を終え、帰路につこうとしていた。

「公爵閣下。」

聞き覚えのある声に、公爵は振り返る。

王家御用達の仕立て屋の主人だった。

「ご無沙汰しております。」

「久しいな。」

店主は懐かしそうに微笑んだ。

「以前は、エレノア様のドレスを何着も仕立てさせていただきました。」

「そういえば……。」

「あのクリーム色のドレスをお召しになったエレノア様を、私も一目拝見したかったものです。」

公爵の足が止まる。

「……クリーム色のドレス?」

「はい。」

「王太子殿下からエレノア様へ贈られた特別な一着でございます。」

「職人一同、とてもお似合いになるだろうと楽しみにしておりました。」

婚約破棄の日。

そのドレスを身にまとっていたのは――

セシリアだった。

公爵の胸がざわつく。

(どういうことだ……。)

(まさか……。)

(セシリアも知っていたというのか。)


屋敷へ戻ると、ちょうどアンナとセシリアは王妃教育のため外出していた。

公爵はグラハムを呼び寄せた。

「使用人全員を広間へ集めなさい。」

「承知いたしました。」

ほどなくして、使用人たちが広間へ集まる。

張り詰めた空気の中、公爵は静かに全員を見渡した。

「エレノアが長年、この屋敷で虐げられていた事実が判明した。」

広間がざわめく。

「この屋敷の者たちも、その事実に深く関わっていることが分かっている。」

「私は、この件を王宮へ申し立てる。」

「裁判は避けられない。」

「もう、言い逃れはできない。」

広間は静まり返った。

しばらくの沈黙が流れる。

やがて、公爵は穏やかな口調で続けた。

「だが、アンナの命令に逆らえなかった者もいるだろう。」

「正直に真実を語るのであれば、その事情は私から王宮へ申し添える。」

「今ここで、偽りなく話してほしい。」

グラハムが一歩前へ出る。

「これより、お一人ずつお話を伺います。」


最初に執務室へ通された使用人は、胸元で両手を固く握り、懺悔するように俯いていた。

「……申し上げます。」

「王太子殿下からのお届け物は、私がお預かりしておりました。」

「髪飾りも、ドレスも、お手紙もでございます。」

公爵は静かに尋ねる。

「エレノアへ届けたのか。」

使用人は首を横へ振る。

「お届けしようといたしました。」

「ですが、奥様が『こちらで預かります』と仰り、すべて奥様へお渡しいたしました。」

「後日、お部屋へ伺った際……。」

使用人は苦しそうに唇を噛む。

「セシリアお嬢様が、そのドレスをご覧になり――」

『このドレスは私の物よ。』

「そう仰っておられました。」

「奥様も何も否定なさらず、『大切にしまっておきなさい』と……。」

「髪飾りも、箱ごとセシリアお嬢様のお部屋へ運ぶよう命じられました。」

公爵は静かに問いかける。

「箱の中のカードは見たのか。」

使用人は申し訳なさそうに首を横へ振った。

「申し訳ございません。」

「内容までは分かりかねます。」

少し考えるように俯く。

「……ただ。」

「セシリアお嬢様がお読みになった途端、それまで見たこともないほど恐ろしいお顔をなさいました。」

「そして、カードを強く握り潰されていたことだけは、今でもよく覚えております。」


続いて別の使用人が証言した。

「王妃様や王太子殿下からのお手紙も、その都度奥様へお渡ししておりました。」

「ある日……。」

「暖炉へ封も開けず、お手紙を投げ入れられる奥様のお姿を見てしまいました。」

「私は何も申し上げることができませんでした。」

「逆らえば屋敷を追われると分かっておりましたので……。」


公爵は静かに立ち上がった。

「グラハム。」

「セシリアの部屋を調べなさい。」

「髪飾りの箱を持ってきてほしい。」

「承知いたしました。」

しばらくして、グラハムが一つの小箱を抱えて戻ってきた。

「ございました。」

公爵は静かに蓋を開いた。

中には、美しい髪飾り。

その下には、王家の紋章が刻まれたメッセージカードが挟まれていた。

何度も握り潰された跡が残り、皺だらけになっている。

公爵は慎重にカードを広げた。

エレノアへ

王妃教育に励む貴女へ。

ささやかではありますが、この髪飾りを贈ります。

アレクシス

公爵は静かに目を閉じた。

使用人たちの証言。

そして、王家の紋章が刻まれたメッセージカード。

互いに矛盾することなく、一つの真実を示していた。

もう、疑う余地はない。

公爵はカードを丁寧に箱へ戻す。

「グラハム。」

「証拠は揃った。」

「王宮へ向かう準備を。」

「はっ。」

公爵はゆっくりと立ち上がる。

その瞳には、揺るぎない決意と、静かな怒りが宿っていた。


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