表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、すべては九年前から始まっていました  作者: 若松りこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/18

第十話 届かない想い

王妃の私室。


「最近、あなたとエレノアのことが気になっています。」


王妃は静かに紅茶を口へ運んだ。


「城では様々な噂を耳にするようになりました。

ですが噂だけで判断してはなりません

九年間、共に歩んできたのでしょう?」

ならば一度、二人で話をなさい。

それでも互いの心が離れているのなら、

その時に答えを出せばよいのです。」


アレクシスは深く頭を下げた。


「ありがとうございます、母上。

私は最後まで、エレノアを信じたいと思います。」


その日、アレクシスはエレノアへ手紙を書いた。


『明日の午後、庭園で一緒にお茶を飲まないか。

最近、ゆっくり話ができていないと思う。

君自身の言葉を聞かせてほしい。


――アレクシス』


「これをエレノアへ届けてくれ。」


側近は一礼し、公爵家へ向かった。


しかし、その手紙はアンナの手によって暖炉の炎へ投げ込まれる。


「まだ話し合いを望まれるのですね。」


白い紙は灰となって消えた。


翌日。

庭園の東屋。

約束の時間になっても、エレノアは現れない。

代わりに姿を見せたのはセシリアだった。


「申し訳ございません。お姉様がお伺いできず

お詫びだけでもと思い参りました。」


アレクシスは寂しそうに微笑む。


「そうか。せっかくだ。

お茶に付き合ってくれないか。」


「……はい。」


短いお茶会。

他愛ない話を少しだけ交わし、別れた。


帰り際、セシリアは一言だけ口にする。


「どうか、お姉様を嫌いにならないでください。」


数日後。

二通目の手紙。


『前回は残念だった。

もう一度、お茶に誘ってもよいだろうか』


その手紙もアンナに燃やされた。

東屋に現れたのは、またセシリアだった。


「また私で申し訳ありません。」


アレクシスは苦笑する。


「謝るのは君ではない。」


その日は少しだけ長く話をした。

幼い頃の思い出。

王都に咲く花。

王妃教育の話。


そして、昔のエレノアの話。


「お姉様は、昔から本当に努力家だったんです。

誰よりも頑張っておられました。」


アレクシスは懐かしそうに笑った。


「ああ。」

「私の知るエレノアも、そういう人だった。」


その笑顔を見たセシリアは、少しだけ胸が痛んだ。


さらに数日後。

三通目。


『これが最後だ。

どうか一度会って話がしたい』


返事はなかった。

東屋へ来たのは、またセシリアだった。


「……また私です。申し訳ございません。」


アレクシスは静かに首を横へ振る。


「もう謝らなくていい。」


しばらく二人は黙ったまま紅茶を口にする。

やがてセシリアは、小さく息を吸った。


「殿下…私は、お姉様が大好きです。」

「だから、お二人が幸せになることを、ずっと願っていました。今でも、お姉様を責める気持ちはありません。」


「きっと、お姉様には理由がおありなのだと思っています。」


少しだけ声が震える。


「ですが……。」


「何度も、お一人で殿下がお待ちになる姿を見て…

殿下が…

苦しまれているお姿をみるのが辛かった…」


「いつしか私は………

殿下をお慕いするようになってしまいました。」


アレクシスは驚いたように目を見開く。


「申し訳ございません。

お姉様から殿下を奪いたいわけではありません。

ただ……。」


セシリアは辛そうに目を伏せる

そして意を決したように口を開く


「ただ……。殿下がお苦しみになるのなら。

その苦しみを分け合える存在になりたい。

殿下のおそばで私がお支えしたいと……

そう願ってしまいました。」


静かな沈黙が流れる。

アレクシスはゆっくりと口を開く。


「……ありがとう。」


「だが、…私はまだエレノアを信じたい。

九年間ともに歩んだ人だ。

簡単に諦められるはずもない。」


セシリアは涙を浮かべながら微笑んだ。


「はい。それでこそ、殿下です。」



立ち去ろうとした、その時。


「……セシリア。」


アレクシスは思わず彼女を呼び止めていた。


「君には、礼を言わなければならない。」


「私が三度待った間。

…三度とも、君だけは来てくれた。」


「私が苦しい時。話を聞いてくれたのも君だった。

気づけば……。」


アレクシスは自嘲するように笑う。


「今日は君が来るのだろう、と考えている自分がいた。そんな自分に戸惑っている。」


セシリアは目を潤ませながら首を振る。


「それは違います。

殿下がお待ちになっていたのは、お姉様です。

私は、その代わりにはなれません。」


うるんだ瞳から涙がこぼれないよう耐えながら、

そっと微笑んだ


「……ああ。」


アレクシスは静かに頷く。

その先は言葉にならなかった。


東屋を後にしたアレクシスは、その足で王妃のもとを訪れた。


「会えましたか。」


王妃の問いに、アレクシスは静かに首を横へ振る。


「三度、お茶へ誘いました。」


「ですが、一度も来てはくれませんでした。」


「私は最後まで信じようとしました。」


「ですが……。」


「彼女の意思は、もう私にはないのでしょう。」


王妃は悲しそうに目を伏せる。


長い沈黙の後、アレクシスは静かに告げた。


「母上。」


「次の夜会で、この婚約に終止符を打ちます。」


王妃は何も答えなかった。


その決断が、噂ではなく、何度も歩み寄った末に出した苦渋の結論だと分かっていたからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ