世界が彼女を書き換えた日
「またお会いしましたね、山田蓮さん」
俺の背筋が凍る。どういう訳か、このNPCは俺の本名を知っているらしい。
ともかく、俺の中では警戒心MAXだ。
「あ、アンタ……一体なんなんだ?」
「それはまだ明かすことはできません」
一体このNPCはなんなんだ……?考えるほど謎が深まっていく。
俺の本名を知っていて、素顔はよく見えず、常に若干の不気味な笑みを浮かべている。
しかもこの様子だと、他のプレイヤーにこのNPCは見えてなさそうだ。
「ヤマ、何独り言言ってるんだ?」
「そういう時期なんだろうね」
うるさい。俺はもういい歳した大学生なんだぞ。決して厨二病ではない。
「……話はこちらでしましょう」
そう言うとNPCは俺を路地裏まで連れていってくれた。どうやらこいつも空気は読めるらしい。
……にしてもAIに空気読む機能なんてあるのか?
「さて、早速本題に入りますが、あなたはこの世界についてどう思いますか?」
「え?」
「耐えることのない戦争、いつまで立っても解決しない社会問題、消えない犯罪、などなど……。私はこの世界に疑問を抱いています」
なんだ?このゲームの話じゃなさそうだぞ…?
俺は完全にこいつに興味を持った。少しだけでもいいから話を聞いてみよう。
「そ、それがどうした……?」
「私はこの腐った世界を変えたい。でもそのためには、選ばれた"あなた"の協力が必要です」
俺の協力……?一体なんのためにいるんだ?
それに、話してる話のスケールがデカすぎる。世界の話?いやいや、俺にとってそれは大規模と言わざるを得ない。ましてやそれらを解決するなんて、俺には到底できるわけ━━
……選択肢?
【シナリオ:(文字化けして読めない)を開始しますか?】
はい いいえ
俺は初めて不気味さを覚えた。こんなクエスト今までなかったぞ。なんかのバグか?
俺は興味本位で「はい」を選択した。しかし、それが運の尽きだった。
「ご助力、ありがとう。そして、"同意してくれて"ありがとう」
「……は?」
俺はその言葉に違和感を覚えた。もっと早く気づくべきだったかもしれない。これは、いや、この最悪な選択に同意するべきではないと。
「あなたは、既に適合しています」
【強制ログアウトを開始します。】
待て待て、理解が追いつかない。なんだ、適合?同意?どういうことだ。
……そして、ログアウトした後、初めて違和感を覚える。
「……ん、なんだったんだ……?」
あれ?なんか声高くね?女声出してるわけでもないのに。
というか、不思議と体が軽い。
「あーあー、やっぱ高いよな…」
これはまさか、と、股間の方を触ってみる。
ビンゴだった。"アレ"が明らかに無くなっている。
ベッドから降りてPCを開こうとした時、それが目に映り込んだ。
「だ、誰だ……!?」
そこに映ったのは、赤と青のオッドアイで、つり目の、白髪ツインテールをした美少女だった。というか、これ━━
「俺のアバター……!?」
そう、WLOで作り込んだ俺のアバターだったのだ。どうやら俺はそのアバターになってしまったらしい。
「……服がダボってるのが妙にやらしい……」
「ていうかこれ、家族にどうやって説明すればいいんだ……?」
見た目的に年齢は10代前半、といったところか。キャラクリ時に設定した年齢が14歳だから、おそらくそれくらいの年齢だ。
俺はしばらく混乱していた。ゲーム内の意味深な発言……もしかしてあいつのしわざか?
でもどうやって……いや、あいつは俺の本名を何故か知っていた。となれば、リアルの俺に干渉することもできなくはないはずだ…多分。
だがここで当然の疑問が浮かぶ。どうやって俺のアバターにTSさせたのか。女体化薬?いやそんな漫画じゃあるまいし……。
いいやどうせ考えても答えは出ない。でもこれから先どうしよう。
「とりあえず大学に電話……いやいや、『TSしたんで大学休みます』だなんて言えるわけねぇ!」
どうしよう、と悩んでいたら、ガチャン、と、扉が開く音が聞こえた。おそらく妹が帰ってきたのだろう。
まずは恵にこの状況を話すべきだ……。




