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正義の味方はブラック業務  ——転生って異世界がテンプレじゃないの?(涙)——-  作者: 中林 旭G3


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良い先輩、悪い先輩、普通の先輩

第四十六話




人で溢れる祭りの中、


待ち合わせ場所で立っていると、


すぐにそれらしい声が飛んできた。


「美月さぁん」


甘えるような声音。


振り向けば、結衣が小走りで近づいてくる。


――ああ、この子も。


自分の“武器”をちゃんと理解してるタイプだ。


「遅くなってすみませーん」


「別にいいよ」


軽く手を振る。


結衣は、すぐ隣にいた男の腕に自然と触れた。


「サトルくんです」


にこっと笑う。


「そこの税理士事務所で働いてるんです」


――はい、出た。


さりげない“アピール”。


年収、安定、将来性。


全部ひっくるめて、


“ちゃんとした彼氏”ですって顔。


「はじめまして」


男が頭を下げる。


「結衣が、いつもお世話になってます」


爽やかな笑顔。


言葉遣いも丁寧。


いかにも、って感じ。


「こちらこそ」


表面上だけ、同じ温度で返す。


――で。


(ルックス、中の上)


(仕事、まぁ上)


(性格……爽やか。今のところは、まぁ上かな)


一瞬で、頭の中で並べる。


減点方式じゃない。


ただの、確認。


「……」


ふと、視線が合う。


そのまま、少しだけ長く見られる。


――やっぱり。


(この男も、同じか)


例外なんて、ほとんどいない。


「どうかしました?」


サトルが、少しだけ首を傾げた。


「別に」


小さく笑って、視線を外す。


「なんでもない」


――とりあえず。


悪くはない。



———————



北条の一言で、


空気が一気に変わる。


「霧島ぁ、そろそろお前とはケリつけないとならねぇな」


低く、粘つく声。


「……あぁ」


霧島が、静かに応じた。


「中学からのな」


一歩、前に出る。


それに呼応するように、


北条の後ろで取り巻きたちも動いた。


江田、尾藤、椎葉。


じわりと距離を詰めてくる。


「なんだ、霧島。因縁ありだったんか?」


横から軽く声をかける。


「まぁ。そんなトコだ」


短い返答。


「んじゃ、モブは引き受けた」


肩を鳴らす。


「やれんのか?目覚めたばっかの、もやしっ子なんだろ」


霧島が小さく笑う。


「いけんだろ」


「モブって誰のことだよ!」


取り巻きが噛みつく。


「アンタらしかいねーだろ」


適当にいなす。


「タクちゃん……」


小春の声が、少しだけ揺れる。


「拓実くん、タイガくん……ケンカ、ダメだよ」


澪も不安げに視線を向けてくる。


――その時だった。


「北条」


静かな女の声が、場を割った。


「!?」


北条が振り向く。


「ダサいからやめたら」


淡々とした口調。


だが、それだけで十分だった。


「国沢っ……」


北条の顔が強張る。


「女連れのヤツに絡むなんて、モテない男の典型だよ」


腕を組み、冷ややかに言い放つ。


言葉に、無駄な力みがない。


だからこそ、刺さる。


「……」


「それに」


視線が小春へと向く。


「二年の子、追い回してるって噂、聞いてるけど――その子?」


小春が、露骨に嫌そうな顔をする。


「困ってんじゃん」


一拍。


「脈ないっぼいよ」


逃げ場を与えない。


「……っ」


北条の拳が、わずかに震えた。


「辛辣」


大河は思わず呟く。


「ウケる」


小さく笑う。


「……行くぞ」


吐き捨てるように言い、


北条は背を向けた。


「あっ、待ってよ北条くん!」


取り巻きたちも慌てて続く。


足音が遠ざかり、


張り詰めていた空気が、ゆっくりとほどけていった。



北条たちの背中が、人混みに紛れて見えなくなる。


「……はぁ」


小さく息を吐く音。


誰とはなく、肩の力が抜ける。


その中で――


霧島が一歩、前に出た。


「国沢先輩、助かりました」


素直に頭を下げる。


「かまわんよ〜っと」


国沢は、さっきまでの鋭さが嘘みたいに、


軽い調子で手を振った。


「霧島くんも大変だねー、変なのに絡まれて」


どこか他人事のような言い方。


けれど、その視線はしっかり状況を見ている。


「……中学ん時からっスから、慣れましたよ」


霧島は苦笑混じりに答える。


「なんだそれ」


国沢が思わず呟く。


「霧島、知り合いか?」


「ああ」


短く頷く。


「ウチの三年。国沢先輩」


「へぇ」


改めて、視線を向ける。


さっきの一言で場を止めた女。


ただ者じゃないのは、見て分かる。


「国沢薫でぇす」


少し砕けた調子で、


ひらりと手を上げた。


さっきまでの張りつめた空気を、


軽く流すような仕草。


――けれど。


只者ではない雰囲気が確かにあった。



————————-



祭りの喧騒を離れ、


三人は早々に場所を移した。


イタリアンバル――ロッソ。


落ち着いた照明と、


グラスの触れ合う音が心地いい。


「やっぱり、こういうとこの方が落ち着くよね〜」


結衣が、上機嫌でワインを揺らす。


「サトルくん、こういうお店よく知ってて」


「いや、たまたまだよ」


照れたように笑うサトル。


「仕事帰りに寄ったりしてさ」


「えー、かっこいい」


結衣が、少し大げさに目を輝かせる。


――はいはい。


内心で軽く流しながら、


美月はグラスに口をつける。


話は、ほとんど結衣とサトルのものだった。


仕事の話、


将来の話、


それっぽい“ちゃんとしたカップル”の会話。


「すごいね」


適度に相槌を打つ。


「いいなぁ、そういうの」


少しだけ、羨ましがるような声も混ぜる。


――もちろん、全部計算だ。


「いや、そんな……」


サトルは照れながらも、


どこか満更でもなさそうだった。


そして時折――


視線が、こちらに流れてくる。


一瞬だけ、


胸元に落ちる視線。


すぐに逸らすが、


気づかないほどではない。


(分かりやすい)


グラスを傾けながら、


小さく笑う。


時間が、ゆっくりと過ぎていく。


ワインも進み、


結衣の頬が、ほんのり赤くなる。


「ちょっと、お手洗い行ってくるね〜」


ふらりと立ち上がり、


席を外す。


――二人きり。


わずかな沈黙。


その隙間を、


サトルが埋めた。


「……美月さんってさ」


少しだけ、声のトーンが変わる。


「なんか、雰囲気あるよね」


曖昧な言い方。


だが、意図は分かる。


「そう?」


視線を合わせる。


ほんの一瞬だけ、


意味を含ませて。


「結衣とは、また違うっていうか……」


言葉を選びながら、


距離を測るような目。


(来た)


内心で、静かに呟く。



サトルの視線が、探るように揺れる。


(分かりやすいな)


美月は、グラスを軽く回しながら、


ほんの少しだけ距離を詰めた。


「どう違うの?」


静かに問い返す。


逃げ場を与えない距離。


サトルの喉が、小さく動いた。


「いや、その……」


言葉に詰まる。


視線がまた一瞬、


こちらに落ちる。


「……キレイ系、っていうか。モテそうだなぁって」


「ふーん」


くすっと笑う。


「そう見えるんだ」


意味を含ませたまま、


視線を絡める。


ほんの少しだけ、


“近い”。


それだけで十分だった。


サトルの呼吸が、


わずかに乱れる。


(簡単)


内心で、冷めた声が響く。


結衣の彼氏。


“ちゃんとした男”。


それでも――


こうして揺れる。


(ホント単純)


グラスに口をつける。


視線は外さない。


(先にこっちを味見しなくちゃね)


そのあとでいい。


可愛い後輩も、


その“関係”も。


どう扱うかは――


自分で決める。



—————————-



祭りの喧騒の中。


人混みをかき分けながら、


ノアの後ろをついて歩く。


(……祭り、か)


仕事とはいえ、


ノアと二人で回っているこの状況。


正直――


最高だ。


テンション爆上がりだぜ。


(この後、飲みにでも……)


頭をよぎる。


(いや、待て)


すぐに打ち消す。


露骨すぎるのはダメだ。


まずは、軽く予定を聞くくらいなら――


(それなら、自然だよな?)


小さく息を整えて、


声をかける。


「……あのぅ、ノアさん」


「何?」


振り向きもせず、


いつもの調子で返ってくる。


「この後なんですが……」


一瞬の間。


「署に帰るわよ」


即答だった。


「……ですよねぇ」


思わず苦笑いが漏れる。


ノアは気にした様子もなく、


そのまま人混みへ視線を向けている。


(……まぁ、そうなるか)


祭りだろうが何だろうが、


この人は変わらない。


「ほら、ぼーっとしない」


「了解っス」


軽く返しながら、


小さく息をつく。


(ノアさん、いつも通りだな)


普通だ。


平常運転。


祭りくらいじゃ、


このクールビューティーの心は動かない。


――そこが、またいいんだけど。




お読みいただきありがとうございます。


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