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正義の味方はブラック業務  ——転生って異世界がテンプレじゃないの?(涙)——-  作者: 中林 旭G3


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犯人 被告人 罪人

第四十三話



机の上に広げられた資料。


ノアは無言でページをめくる。


これまで一連の事件は――


連続通り魔殺人として処理されてきた。


被害者同士に、明確な関連性が見つからなかったからだ。


共通点といえば、


浮気、不倫といった――


男女間のトラブル。


だが、それも決定打にはならない。


「……薄いのよね」


小さく呟く。


どれも後付けのような繋がり。


偶然と言われれば、それまでだった。


だが――


「今回は違う」


指先が、二つの資料で止まる。


松田聡美。


柴崎直也。


「この二人は、繋がっている」


明確な関係性。


これまで“点”だったものに、


初めて“線”が引かれた。


「連続通り魔、ね……」


小さく吐き捨てるように呟く。


その見方が、揺らぎ始めている。


そして――


もう一つ。


ノアの視線が、別の記録へと移る。


「例外が一つ」


朝倉大河。


異質。


そして――


明確に“犯人と接触し殺害された”人物。


現場付近の目撃者は、他にもいる。


だが――


誰一人として、被害には遭っていない。


「……なのに」


視線が落ちる。


「朝倉大河だけが、殺されている」


偶然か。


それとも――


必然か。


「助けに入ったから?」


あの夜の状況をなぞる。


(本当に、それだけ?)


わずかに目を細める。


「……違う気がするのよね」


思考が、一段深く潜る。


朝倉大河に救われた女性。


その存在は、既に把握している。


「ここも……繋がる可能性がある」


小さく呟く。


そして、資料を閉じた。


「もう一度、全部洗い直す必要があるわね」



——————————



午後。


教習所の建物を出た瞬間、むわっとした熱気が身体にまとわりつく。


「……あっつ」


思わずぼやく。


さっきまでコースに出ていたせいで、全身に熱が残っている。


アスファルトの照り返しと、エンジンの熱。


思い出すだけで、もう一度汗が滲みそうだった。


(マジでこの時期はキツいな……)


軽く肩を回しながら、ポケットからスマホを取り出す。


未読の通知が一件。


――澪。


「終わったら電話して」


短い一文。


それだけなのに、なぜか少し目が止まる。


(……なんだよ)


特に深い意味は無いはずだ。


そう思いながらも、指はそのまま通話ボタンを押していた。


数コール。


「……もしもし」


すぐに繋がる。


「おう、終わったぞ」


「あ、ちょうどいいタイミングだったね」


少し弾んだ声。


それだけで、さっきまでの暑さが少しだけ和らぐ気がした。


「今、駅の方にいるんだけど」


「駅?」


「うん。時間あるかなって思って」


(またかよ)


心の中でツッコむ。


だが、不思議と嫌じゃない。


「……まぁ、あるけど」


「じゃあ、待ってるね」


通話はそこで切れた。


しばらく画面を見つめてから、


「……行くか」


小さく呟く。


ロードバイクにまたがる。


ペダルを踏み込むと、身体が前に出る。


風が頬を抜けていく。


(……なんなんだろうな)


自分から向かっているくせに、


どこか落ち着かない。


それでも――


ペダルを踏む足は、自然と速くなっていた。





駅前。


人の流れの中に、見慣れた姿を見つけて――


大河は、思わず足を止めた。


「……は?」


澪。


……と、


その隣に、霧島と小春。


(結局いつものメンツじゃねぇか)


軽く眉をひそめながら、ゆっくり近づく。


その時。


澪がこちらに気づき、ぱっと表情を明るくした。


「タイガくん」


「――!?」


一瞬、思考が止まる。


そして。


その一言を、聞き逃すはずもない奴がいた。


「……は?」


小春の目が、ぐるりと大河と澪を往復する。


ゆっくりと、霧島の腕をつつき――


「ちょっと、奥さん。今聞きました?」


「!?奥さん?」


「“タイガくん”って言いましたよこの子」


「……は?」


霧島も固まる。


小春は腕を組み、探偵のように頷いた。


「この二人……何かあったザマスよ」


「!?ザマス?」


語尾にまでツッコむ霧島。


大河は頭を押さえた。


「何もねーよ!」


即否定。


だが、小春はニヤニヤと笑うだけだ。


「怪しいザマスねぇ〜」


「やめろそのキャラ」


「急に距離感縮まってるしぃ?」


「だから違うって言ってんだろ!」


騒がしくなる空気の中で、


澪だけが、少しだけ楽しそうに笑っていた。



例のカフェレストラン。


昼下がりの店内は、ほどよく賑わっている。


案内された四人掛けのテーブル席。


だが――


(……なんだこの配置)


霧島の隣に小春。


その向かいに、俺と澪。


いつもと微妙に違う並び。


というか、


(完全に対面尋問スタイルなんだが)


嫌な予感しかしない。


水が運ばれた、その直後。


小春が、コホンとわざとらしく咳払いをした。


「それでは――」


両手を組み、ゆっくりと大河を見据える。


「被告人は、正直に答えること」


「誰が被告人だ」


即ツッコミ。


だが小春は意に介さない。


「被告人は、朝比奈澪さんの友人が不在の時を狙い……」


「だからそのキャラやめろ」


「接近し――」


「やめろって」


「夏休みという、女子高生の心のスキをつき……」


「人聞き悪すぎだろ!」


びしっと指を突きつけられる。


「これは計画的犯行の可能性が高いザマス」


「戻ってきてんじゃねーかその語尾!」


隣で霧島が小さく吹き出す。


「いや、ちょっと面白ぇなそれ」


「やめろ、小春が調子に乗る!」


小春は満足げに頷き、さらに畳みかける。


「被告人、質問です」


「だから被告人じゃねーって」


「本日、“タイガくん”と呼ばれた件について」


「いいだろ別に!」


「これは従来の関係性を逸脱した重大な変化と見られますが」


「なんだその分析」


ちらり、と澪を見る。


すると。


「……心のスキ、あったのかなぁ?」


ぽつり、と。


「澪、乗るな!」


即ツッコミ。


澪は少しだけ肩をすくめて、


「えっ、ダメ?」


と、意味深に笑った。


(こいつ……)


小春が机を軽く叩く。


「はい今の発言、重要証言として記録しましたー」


「記録すんな!」


「これはもうクロでザマスねぇ」


「だからやめろって言ってんだろそのキャラ!」


店内に、くだらないやり取りが響く。


その中心で、


澪が――


うれしそうに笑っていた。



テーブルの上に、わずかな沈黙が落ちる。


さっきまでの騒がしさが、ふっと途切れた、その瞬間。


霧島が、何の前触れもなく口を開いた。


「付き合ってんのか?」


「「「!?」」」


霧島以外、全員が固まる。


空気が、一気に変わった。


小春がゆっくりと顔を向ける。


「……タクちゃん」


低い声。


「いきなり豪速球すぎるよ」


「なんで?」


霧島は首を傾げる。


「小春が一番気になってんだろ」


「……まぁ」


あっさり認める小春。


(認めんのかよ)


大河は思わずツッコみかけて、先に口を開いた。


「ちげーよ」


全員の視線が集まる。


「最近、二人で……何回かここらで時間潰してただけだ」


一応、説明。


だが――


小春の口元が、ゆっくりと吊り上がる。


「……つまり」


間。


「デートしてたと……」


指を突きつける。


「語るに落ちたな、白川大河!」


「だから誰だよお前!」


思わず立ち上がりかける。


その横で。


「えっ、デートだよー」


さらっと。


澪が言った。


「そう言ったよね」


「!?」


大河の動きが止まる。


(おい)


ゆっくりと振り向く。


澪は、悪びれもなくこちらを見ている。


むしろ、少し楽しそうだ。


小春が机を叩く。


「はい確定ー!」


「確定すんな!」


「被告人は正直に答えるように」


「だから被告人じゃねーって!」


霧島が、腕を組みながら小さく笑う。


「……まぁ、デートって認識はあるんだな」


「お前も乗るな!」


ツッコミが追いつかない。


騒がしいやり取りの中で、


澪だけが、くすくすと笑っていた。



小春が、ぐいっと身を乗り出す。


「正直に言えー、タイガー」


「だから、何を?」


「澪ちゃんのこと、好きなんでしょー」


「は?」


間髪入れずに続く。


「最初からなんかエロい目で見てたもん」


「はぁ!?」


「澪ちゃん、超絶美少女だもんねー」


腕を組み、得意げに頷く。


「紹介した小春に感謝しなさいよねー」


「だから、そんなんじゃねぇって」


少し強めに否定する。


その瞬間。


「……そんなんじゃ無い事ない方がいいな」


ぽつり、と。


澪の声。


「?」


全員の視線が集まる。


澪は、いつもの落ち着いた表情のまま、


少しだけ首を傾げて――


「私は、タイガくんのこと、好きだよ」


「「「‼️」」」


一瞬、時間が止まる。


誰も、言葉を出せない。


大河も、完全に固まっていた。


(……は?)


思考が追いつかない。


テーブルの上に、奇妙な沈黙が落ちる。


そして――


「……」


小春が、ゆっくりと姿勢を正した。


コホン、と咳払い。


「主文」


静かに言い放つ。


「被告人、白川大河は――」


指を突きつける。


「原告、朝比奈澪に、一生尽くすことを命じる」


「なんだそれ!?」


ようやく我に返る。


霧島が、小春の隣で肩をすくめた。


「大河、小春のヤツ」


「最近、法廷モノのドラマにハマってるらしいゾ」


「いらねぇよそんな情報!」


ツッコミが追いつかない…リターンズ。


だが――


視線の先。


澪は、変わらず穏やかにこちらを見ていた。


冗談じゃない。


あの目は――


本気だ。



結局。


霧島がバイトの時間だと言い出し、場はそのままお開きになった。


店を出るまでの間も――


小春のテンションは、最後まで高いままだったが。


「ほら、行くぞ」


霧島が軽く声をかける。


「えー、まだ話足りないんだけど」


不満げに頬を膨らませる小春。


だが霧島は、少しだけ苦笑して肩をすくめた。


「小春、二人のことだ」


ちらりと、大河と澪を見る。


「後は二人で、ゆっくり考えればいいさ」


その一言で、


小春も、さすがに少しだけ落ち着いた。


「……まぁ、そうなんだけどサ」


口ではそう言いながらも、


(納得してなさそうだな……)


顔に出ている。


だが、小さく息をついてから、


「タクちゃんが言うことも、もっともだね」


と、素直に引いた。


そして。


ふいに、大河へ視線を向ける。


さっきまでのふざけた調子とは違う、


少しだけ真面目な目。


「……タイガー」


「ん?」


「澪ちゃんのこと……お願いね」


短い一言。


それだけで、十分だった。


(……ああ)


小春は、全部知っている。


澪の過去のこと。


だからこその言葉。


ただの冷やかしじゃない。


親友としての、本音。


「……おう」


軽く返す。


それ以上は、言わなかった。


「ほら、行くぞ小春」


霧島が歩き出す。


「はーい」


手をひらひら振りながら、小春もついていく。


二人の背中が、少しずつ遠ざかっていく。


(……助かった)


大河は小さく息を吐いた。


(さすが霧島)


あの流れを、自然に切った。


絶妙なタイミング。


(将来の小春の旦那は伊達じゃねーな)


そんなことを考えながら――


ふと、横を見る。


そこには、澪がいる。


さっきの言葉。


「好きだよ」


まだ、耳に残っていた。



店を出て、少し歩く。


さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、静かな空気。


澪が、ぽつりと呟いた。


「羨ましいよね。あの二人」


「何が?」


「なんか、自然で。……わかり合ってる感じ」


前を歩く霧島と小春の背中が、少しずつ遠ざかっていく。


「幼馴染だもんな」


「うん。でも、それだけじゃないと思う」


澪は小さく笑う。


「二人とも、お互いのこと大好きなんだよ」


「霧島も?」


少し意外で聞き返す。


「もちろん」


あっさりと返ってきた。


「へー。そんな態度見せないけど」


「そういうところも含めて、だよ」


柔らかい声。


少しだけ間があって。


「……一緒に帰りそびれちゃったな」


「だな」


短く返す。


「まだバイトまで時間あるし、送るよ」


「ありがと」


そのまま、二人はバスに乗った。



揺れる車内。


窓の外、流れていく街並み。


人もまばらで、会話も自然と小さくなる。


しばらくして。


「……さっきの」


澪が、少しだけ視線を落とす。


「気にしなくていいからね」


「は?」


「……好きってヤツ」


「ああ……」


曖昧に返す。


どう反応していいか、分からない。


澪は続ける。


「似てるんだよね」


「……誰に?」


「前に言ったでしょ。助けてくれた人」


「……」


(前世の、俺だな)


言葉には出さない。


出せるはずもない。


「もちろん、見た目も年齢も全然違うんだけど」


「そっか」


「なんか……安心感、みたいな」


静かな声。


否定する気には、なれなかった。



バスを降りる。


見覚えのある住宅街。


澪の家の前。


「タイガくん、ありがと」


「おう。じゃあな」


踵を返しかけた、その時。


「タイガくん」


呼び止められる。


「ああ?」


振り向く。


澪は、少しだけ躊躇ってから――


「気にしなくていいって言ったけど……」


一歩、間。


「本当だよ」


まっすぐに見てくる。


「好きなのは」


「……」


言葉が出ない。


澪は、ふっと微笑んだ。


「またね」


軽く手を振って、家の中へと入っていく。


残された大河は、


しばらくその場に立ち尽くしていた。



————————



夜の街は、静かに息をしている。


昼間の喧騒が嘘のように引き、


ネオンの光だけが、路地の奥をぼんやりと照らしていた。


湿った風が、ゆるく流れる。


人の気配はある。


だが、それはどれも薄く、曖昧で、


誰もが“他人”のまま、すれ違っていく。


その中に――


紛れ込む影が一つ。


立ち止まることなく、


ただ歩き、思考する。


柴崎直也に裁きを与えたことで、


警察も、さすがに気づき始めているはずだ。


連続通り魔――


そんな曖昧な枠では、もう収まらない。


報道には出ていないが、


私は“主張”も残してきた。


――天誅。


これで、完全に無差別ではないと理解しただろう。


だが――


次の標的までは、読めない。


私は街を歩き、


自分の目で見て、


裁くに値するかを見極めている。


そこに規則は無い。


あるのは、選別だけだ。


「……だが」


一人。


裁ききれなかった者がいる。


あの夜。


途中で、邪魔が入った。


「……あの男」


脳裏に、顔がよぎる。


だが、すぐに思考を切り捨てる。


今は関係ない。今は….。


優先すべきは――


逃した対象。


「あれは、未完だ」


静かに呟く。


当然、警察も目を光らせているだろう。


だが――


関係ない。


「罪人は、確実に裁く」


それだけだ。




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