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正義の味方はブラック業務  ——転生って異世界がテンプレじゃないの?(涙)——-  作者: 中林 旭G3


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夏休み前のクズ

第三十九話



期末テストが終わった。


結果は――


(まぁ……いいや)


今日は終業式。


明日から夏休み。


浮かれた空気の教室で、大河はぼんやりと思い出す。


――あの夜。


近藤の事件。


ノアに送られて、家に戻った。


山瀬も来た。


別の車で。


(なんでついてくんだよ、あの人)


そんな事を考えている間に、家の前に着いた。


玄関の灯りはついている。


ドアが開く。


「タイガくん」


静香の声。


駆け寄る、というより――


確認するような足取り。


「無事なのね」


落ち着いている。


だが、その奥に張りつめたものがある。


警察に駆け込んだ時点で、ある程度の事情は聞かされている。


それでも。


実際に目で見るまでは、安心出来ない。


「……あぁ」


大河が短く返す。


静香は一瞬だけ目を閉じ、息を吐いた。


わずかな安堵。


そしてすぐに――視線が鋭くなる。


「あとでちゃんと説明してね」


完全に“親”のそれだった。


そこへ、ノアが一歩前に出る。


「生活安全課の神代です」


名刺を差し出す。


(……ノア、カミシロって名字なんだ)


大河は内心で驚く。


(初めて知ったわ)


静香は名刺を受け取り、軽く目を通す。


すでに話は通っている。


だが、本人を前にして確認する。


そんな仕草。


その横で――


「白川先生。久しぶり」


山瀬が口を開いた。


空気が変わる。


静香の視線がそちらへ移る。


「……山瀬さん」


驚きはある。


だが、それ以上に“認識している相手”への反応。


完全な初対面ではない。


「今回はうちの案件でね」


山瀬は穏やかに続ける。


「息子さんには少し、協力してもらった」


ノアが補足する。


「人を助けようとして巻き込まれた形です」


静香は大河を見る。


頭から足先まで。


ケガの有無を確認するように。


それから、小さく頷く。


「……そう」


短い一言。


だがそこには


納得と、そして――


「無茶しないで」


抑えた声。


怒りではない。


心配が、滲んでいた。


あの時の表情が、ふと頭に残る。


(……まぁ、無事だったしな)


都合よく片付ける。


考えすぎても仕方ない。


大河は小さく息を吐いた。


その時――


ガラッ、と教室の扉が開く。


担任が入ってくる。


ざわついていた空気が、少しずつ落ち着いていく。


「はい、席つけー。ホームルーム始めるぞ」


日常の声。


何事もなかったかのように、時間が進む。


大河は椅子に深く座り直した。


(……夏休み、か)


さっきまでの記憶が、少し遠のいていく。


だが――


完全に消える事は、なかった。



——————



終業式が終わり、放課後。


校舎の空気は一気に緩んでいた。


解放感。


夏休み前特有のざわつき。


廊下を歩きながら、大河は軽く肩を回す。


(やっと終わったか……)


その時。


「小春ちゃん、今日こそ時間くれよ」


聞き慣れた、軽薄な声。


(……来たな)


三年の北条。


後ろには、いつもの取り巻き。


小春が露骨に顔を歪める。


「うげ……」


北条は気にした様子もなく、距離を詰める。


「いいかげん、話くらいいいだろ?」


逃げ場を塞ぐような立ち位置。


「あんたも懲りないなぁ先輩」


霧島が一歩前に出る。


自然に、小春の前へ。


北条の視線が細くなる。


「……またお前かよ」


空気が張る。


その空気を、わざと崩すように――


「霧島くん、ケンカはいかんヨ、ケンカわっ」


大河が軽く茶化す。


「うるせぇ」


霧島が小声で返す。


取り巻きが前に出ようとするが、


大河が一歩ずれるだけで、なぜか止まる。


踏み込みづらい空気。


小春が一歩引きながら、はっきり言う。


「あのぅ、ホント勘弁してください。全然タイプじゃないんで。ごめんなさい」


間。


容赦のない拒絶。


空気が一瞬、凍る。


取り巻きがざわつくが、


北条は手で制する。


視線は霧島に固定されたまま。


「……」


一拍。


それから、ふっと笑う。


「まぁいい」


踵を返す。


去り際――


「……邪魔なんだよ、お前」


霧島にだけ届く声。


取り巻きと共に去っていく。


静けさが戻る。


小春が大きく息を吐いた。


「はぁ……マジで疲れる」


「モテる女は大変だな」


大河が軽く言う。


「全然嬉しくない!」


即答。


霧島は無言で、北条の背中を見ていた。


その目だけが、わずかに鋭い。



駅前のカフェ。


ガラス張りの店内は、夏休み前の浮かれた空気でそこそこ混んでいる。


先に来ていたのは、小春と澪。


バス組は余裕の到着だ。


少し遅れて、ロードバイク組の大河と霧島が入ってくる。


「おっせー」


小春がストローをくわえたまま言う。


「チャリ勢なめんな」


大河がトレーを置きながら返す。


四人、なんとなくいつもの配置で座る。


軽い昼食。


そして、話題は当然――さっきの件。


澪が少し心配そうに口を開く。


「小春ちゃん、そんなにはっきり断ったんだ。大丈夫そう?」


「うーん……あんまりしつこいから、つい」


あっけらかん。


霧島が肩をすくめる。


「あのクズにはあんくらいはっきり言ったほうがいいんだよ」


「そうそう」


小春が即乗っかる。


「なんかあったらタクちゃんが守ってくれるから」


「当てにしすぎだろ」


間髪入れずに否定。


「将来の妻がピンチになったら当然でしょー」


「誰が妻だよ」


被せ気味。


小春は気にしない。


くるっと澪に向き直る。


「澪ちゃん、最近主人が冷たいの。他に女がいるのよー」


「小春ちゃん、主人って……」


澪が困ったように笑う。


大河が横から口を挟む。


「なんだよ小春。霧島は兄ポジじゃねーのかよ」


小春がぴたりと止まる。


それから、ため息。


「……タイガー、分かってないね、女を」


「!?」


急にダメ出し。


「幼馴染が兄妹みたいに育って、最終的にくっつくのは――」


ビシッ、と人差し指を立てる。


「太古の昔から決まってんのよー」


「決まってねぇよ」


霧島、即否定。


「こらーっ、タクちゃん!否定すんなぁ!」


テーブルをバンバン叩く小春。


「うるせぇって」


「否定したからでしょ!」


「理不尽すぎんだろ」


完全に巻き込まれ事故。


澪はというと――


くすくすと笑っていた。


楽しそうに。


(平和だな……)


大河はコーヒーを一口飲みながら思う。


さっきまでの緊張が、嘘みたいに遠い。


――まぁ、悪くない。



カフェで、気づけば数時間。


どうでもいい話で笑って、どうでもいいことで盛り上がって。


「このあとペントハウス行く?」なんて流れになりかけたが――


霧島が「バイト」と言い出した。


それに便乗する形で、大河も手を挙げる。


「俺も明日からバイトだからな」


適当な理由。


だが十分だった。


なんだかんだで、そのまま流れは解散。


(危ねぇ……)


軽く息を吐く。


普通の高校生の放課後。


それを“回避した”自分に、少しだけ苦笑する。


(……いや)


一拍。


(普通に楽しんでんな、俺)


ふと、そんな実感が湧いた。


駅前からマンションへロードバイクを押しながら歩く。


その時。


「大河」


背後から声。


振り返りざま。


「出たな」


「その出たなはやめて」


いつもの調子で、ノアが立っていた。


「なら、アポ取れよ」


「……検討するわ」


即却下のニュアンス。


ノアは軽く腕を組む。


「あれから結構時間経ったけど、白川静香。大丈夫そう?」


一瞬だけ、間。


「……あの日の事には触れてこない」


大河は肩をすくめる。


「やっと目が覚めた息子だから、そりゃ心配だわな」


「……そうね」


ノアも小さく頷く。


「上手くやる方法、考えるさ」


「……」


ノアは少しだけ視線を落とす。


何か言いかけて――やめた。


大河が話題を切り替える。


「それより……俺、明日からバイトすんだよ」


「へぇ。何の?」


「居酒屋坂本」


ノアの眉がわずかに動く。


「……あんたの親友の店じゃない」


「……ああ。成り行きでな」


少しだけ曖昧に濁す。


それから、ふと思い出したように。


「ところで、俺の正体バレたらヤバい?」


ノアがちらりと見る。


「なんかペナルティとかある?最悪、死ぬとか……」


「……そうね」


わざとらしく間を取る。


「動物とか虫に再転生になるわね」


「まさかパー◯ンのパターンか……」


「……冗談よ」


「?」


一拍。


ノアが肩をすくめる。


「別にバレてもペナルティなんかない」


あっさり。


「実際、室長や私のまわりには知ってる人もいる」


「確かに」


納得は早い。


だが、ノアは続ける。


「ただ――」


少しだけ、声のトーンが落ちる。


「あんまりあんたに近い人間には言わない方がいいと思う」


「……あぁ」


「生き辛くなるわよ」


間。


「特に白川静香」


ノアの視線が、まっすぐになる。


「あの人にはバレないほうがいい。受けるダメージが大き過ぎる」


大河は小さく息を吐く。


「だよな」


「やっぱ、バレない様気をつけないとな」


少し考えて――


ぽつり。


「翔太……昔から感だけはいいんだよなぁ」


「偏差値は低いのに」


ノアが、わずかに笑う。


「あんたが言う?」


夕方の風が、少しだけ涼しくなっていた。


夏休みは、もうすぐそこだ。



———————-



夜。


街のネオンが、やけに明るい。


柴崎直也は、スマホを弄りながら歩いていた。


メッセージ画面。


いくつかの女の名前。


(……さて、と)


軽く指を滑らせる。


一人、また一人。


曖昧な言葉で距離を取る。


「仕事が忙しくてさ」

「落ち着いたらまた連絡する」


便利な言葉。


(好きな女のタイプは口が堅くて、尻の軽い女)


そういうのは卒業だ。


(まぁ、しゃーないよな)


小さく息を吐く。


松田聡美。


元カノ。


そして――セフレ、不倫。


(死んじまったもんは、どうしようもねぇ)


罪悪感は、ほとんどない。


むしろ。


(ラッキー、だろ)


口元がわずかに緩む。


これで全部、綺麗に終わった。


面倒な関係も、証拠も、リスクも。


何もかも。


(あとは――)


頭に浮かぶのは、別の女。


島津綾香。


大地主の娘。


家柄、金、将来性。


全部揃っている。


(ここはちゃんと、ミスらずいかねぇとな)


そのためにも――


余計な火種は消しておく。


それだけの話だ。


足を止める。


信号待ち。


赤。


ぼんやりと前を見る。


その時。


ふと――


違和感。


(……あ?)


背後。


気配。


誰かに見られているような。


振り返る。


だが――


誰もいない。


気のせいか。


「……疲れてんのかね」


小さく笑う。


青に変わる。


歩き出す。


――その背後。


街灯の影が、わずかに揺れた。


直也は、気づかない。


お読みいただきありがとうございます。


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