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正義の味方はブラック業務  ——転生って異世界がテンプレじゃないの?(涙)——-  作者: 中林 旭G3


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NTR

第二十五話



 カフェの窓に、夕焼けが滲んでいた。


 向かいの席は空いたまま。


 テーブルの上の水は、もうぬるい。


 スマートフォンが震える。


『少し遅れる』


 それだけのメッセージ。


 既読をつける指が、少しだけ迷う。


 彼女は、左手に触れた。


 細い跡だけが、そこに残っている。



————



県警本部庁舎、地下。


 一般職員の立ち入りは制限されている区画。


 資料保管室3。もとい異形対策室。


 窓はない。

 照明は一定。

 壁一面のモニターが、街の断片を無機質に映している。


 正式な組織図には載らない部署。


 だが、確かに存在している。


 その一角。


 モニターの光に照らされながら、ノアは椅子にもたれた。


 壁一面の画面には、事件資料と現場写真が並んでいる。


 連続通り魔殺人。


 被害者は女性が多い。

 だが、男性もいる。


 年齢も、職業も、生活圏もばらばら。


 共通点は――見つかっていない。


 無差別か。


 それとも。


 選別しているのか。


 ノアは指先で机を軽く叩いた。


 背後では、退院したばかりの佐藤が資料をめくっている。


 静かな部屋に、紙の音だけが続いた。



——————



昼休み。

教室は、弁当の匂いと雑談の声でごちゃごちゃしていた。


霧島が机に肘をついて雑誌をめくっている。

妙に真剣な顔だ。


大河は横から、ぬっと覗き込んだ。


バイク雑誌だった。

しかもかなり渋めのやつ。


「古いバイクばっかだな。おってNSR250、死亡率高かったらしいな」


小春とんでも発言。


「NTR?」


小春よ。大きな声で言うなよ。


「前さ、金貯めてるって言ったろ」


ページをめくりながら、霧島が言う。


「単車買うのか?」


「免許」


あっさり返ってきた。


「バイクはある」


「?」


大河が首を傾げる。


霧島は雑誌から目を離さないまま、軽く言った。


「死んだオヤジの」


一瞬だけ、大河の動きが止まる。


「……」


霧島がページをめくる。


ぱらり。


「そんな顔すんな」


ちらっとだけ大河を見た。


「お前も一緒だろ」



——————



ホテルの部屋は、まだ少しだけ湿った空気が残っていた。


シャワーの水音が止まり、数秒後、浴室のドアが開く。


柴崎直也がタオルで髪を拭きながら出てきた。


聡美はベッドの上に寝転んだまま、ぼんやり天井を見ている。

シーツを胸元まで引き上げ、動く気配はない。


直也がちらりと彼女を見る。


「旦那さん、大丈夫?」


聡美は目線だけを向けた。


「問題無いわよ、あの人バカだから…」


あっさり言う。


直也は苦笑した。


「ひでぇ女」


聡美の口元がわずかに歪む。


「よく言うわ今更」


少し間を置いて続ける。


「人妻に手出しといて」


直也は肩をすくめた。


「否めねぇな」


ベッドの横の椅子に置いてあったシャツを拾い、袖を通す。

その仕草は慣れたものだった。


聡美はその背中を見ていた。


何度目だろう。


ふと、そんなことを思う。


最初はもっと緊張していた。

ホテルに入るだけで心臓がうるさかった。


今はもう、ただの習慣みたいになっている。


直也が腕時計をつける。


「今度いつ会える?」


聡美が言った。


声は軽い。


直也はスマホを手に取る。


「LINEするヨ」


短い返事。


聡美は少しだけ黙った。


……またそれ。


そう思う。


でも口には出さない。


直也は財布をポケットに入れながら言う。


「先に出るな」


聡美は鼻で笑った。


「わかってる」


ドアが開く音。


閉まる音。


部屋が急に静かになる。


聡美は天井を見上げたまま、しばらく動かなかった。


エアコンの風が、シーツの端をわずかに揺らしている。


「….そういうとこよね」


小さく呟く。


だから聡美は、直也ではなく安定した人生を選んだ。



————————-



学校帰りの学生や仕事終わりのサラリーマンが出入りする、住宅街の小さなコンビニ。

朝倉大河は自動ドアをくぐり、ビニール袋をぶら下げて店を出た。


袋の中には雑誌が一冊。


「さて、帰ってゴロゴロ――」


言いかけた瞬間だった。


店の外灯の下、電柱にもたれかかる女の姿が目に入る。


長い黒髪。無表情。どこかこの世のものじゃない空気。


大河は眉をひそめた。


「出たな、ストーカー」


ノアはちらりと袋を見た。


「エロ本でも買ったか、青少年」


「霧島曰く、時代はデジタルだ」


ノアはその言葉を完全にスルーした。


「モブ狩りに行くわよ」


「強制労働キタコレ」


「トラ連れてきて」


「探すのか?」


「チームNTR」


大河が固まった。さっき聞いたような。


「……はいっ?」


「だから、チームNTRよ」


「AVじゃねぇか」


ノアは淡々と指を三本立てる。


「ノア、トラ、大河」


「だったらNTTだろ」


「それじゃ通信会社じゃない」


「ていうか何で大河なのにRなんだよ」


「リバーのR」


「……並び変えろよ」


ノアは即答した。


「序列順よ」


大河は目を見開いた。


「犬より下!?」


「当たり前よ。トラは天界の由緒正しき狼。あんた、中身ただのオッサンじゃん」


大河は空を仰いだ。


「世の中のオッサンに謝れ」


コンビニの自動ドアが、ウィーンと気まずそうに開いて閉じた。


ノアは歩き出す。


「ほら、行くわよR」


「その呼び方やめろ!」


大河は文句を言いながら、結局その後ろをついていった。


袋の中の雑誌が、がさりと音を立てた。

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