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正義の味方はブラック業務  ——転生って異世界がテンプレじゃないの?(涙)——-  作者: 中林 旭G3


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嫌すぎて滅

第二十話




警棒を握る。


思ったより、重い。


でも程良い重さだ。


――ちょっとワクワクしてる自分がいる。


マジックアイテムだろ?


特別製って言ってた。


黒い霧を纏った異形者が唸る。


その前で、俺はふと昔を思い出す。


小さい頃から、じいちゃんの道場にいた。


無理やりじゃない。


半分は、自分からだ。


じいちゃんっ子だった。


稽古のあとは一緒にアイス食って、


テレビ見て、


将棋でボロ負けして。


でも道場では厳しかったし、容赦はなかった。


護身術。


基本は素手。


投げ。


受け。


崩し。


格闘技を始めたのは、その延長だ。


攻撃は嫌いじゃない。


でも土台は、じいちゃん仕込みだ。


そして。


唯一、素手じゃなかった稽古。


短い木刀。


ただの棒。


あれは嫌だった。


「守れ」


じいちゃんの声。


「攻める前に、守る」


受けて、逸らして、流す。


正直、苦手で嫌すぎた。


守り続けるのは性に合わない。


でも。


体は覚えている。


今、手の中にあるのは。


木刀じゃない。


ノアが投げてよこした、特別製の警棒。


脳内再生を止める。


……最高じゃねぇか。


異形者の腕が唸りを上げる。


来る。


俺は半身になる。


警棒を斜めに構える。


攻撃を交わし、攻める。


「じいちゃん、見てろ」



———————



右腕が痺れている。


さっきの一撃。


ガードは間に合った。


だが衝撃は抜けきらなかった。


骨に異常はない。


動く。


でも――精密射撃は無理。


今、拳銃は使えない。


異形者は大河に狙いを定めている。


いい判断だ。


一番不確定なのは彼。


だから潰しに来る。


大河は受けている。


上手い。


荒いけど、崩れていない。


体が覚えている動き。


あれは仕込まれている。


でも、まだ足りない。


速度と質量が上がれば、押し切られる。


ノアは短く息を吐く。


「トラ」


低く呼ぶ。


足元で唸っていたトラが、顔を上げる。


「限定解除」


一瞬の静寂。


次の瞬間。


トラの輪郭が歪む。


骨が鳴る音。


毛並みが逆立つ。


体躯が膨らむ。


二回り。


いや、それ以上。


犬の姿が崩れ、


狼に近いシルエットへと変わる。


目が、金色に光る。


空気が張りつめる。


異形者の視線が、わずかに揺れる。


ノアは視線を大河へ向ける。


「大河のサポートしてあげて」


低く、明確に。


トラが地面を蹴る。


黒い霧へ一直線。


大河が一瞬だけこちらを見る。


「……?」


そして、トラを見る。


「トラ、デカくなった?」


状況が状況なのに、その一言。


ノアはわずかに口元を緩める。


「成長早いって言ったでしょ」


異形者が吠える。


霧が荒れる。


狼の影が牙を剥く。


これで、盤面は整った。



———————



痛ぇ。


撃たれた脚が、まだ痛ぇ。


あの女の弾。


傷は塞がってるのに、熱が残ってやがる。


クソが。


ガキがちょこまかと動く。


受けて、逸らして、流す。


鬱陶しい。


殺させろよ。


俺は力を得たんだ。


選ばれた。


最強だ。


それなのに。


なんだコイツら。


女は冷静で。


ガキは崩れねぇ。


挙げ句の果てに。


犬までデカくなりやがった。


狼みてぇな目で睨んでくる。


俺だけが特別だ。


……楽しくねぇ。


胸の奥で黒い霧が暴れる。


自我を保つのも、面倒くせぇ。


本当なら。


ガキを始末して。


あの女を楽しんで、なぶり殺すはずだった。


順番に。


丁寧に。


だが。


もうどうでもいい。


霧が噴き出す。


輪郭が崩れる。


「全員――」


「ぶっ殺してやる」



———————-



伸びた腕みたいなものが唸る。


鞭みたいにしなる。


速い。


重い。


だが――


見える。


警棒を斜めに滑らせる。


逸らす。


受けるんじゃない。


流す。


じいちゃんの声が、頭の奥で響く。


もう一撃。


弾く。


体勢を崩させる。


キリがない。


腕は何本も伸びる。


霧が形を変え続ける。


だが。


この警棒の打撃は、効いている。


叩くたび。


黒い霧が弾ける。


悲鳴みたいな振動が、空気を震わせる。


中にいる“何か”が、軋んでいる。


押さえ込まれていた呪いの本体。


少しずつ。


体の外へ滲み出てきている。


いける。


ノアの声が飛ぶ。


「リミッター解除!」


叫び。


命令じゃない。


合図だ。


「わかってる!」


踏み込む。


警棒で腕を弾き上げる。


懐が空く。


一瞬。


拳を叩き込む。


グローブ越し。


だが――


重い。


深い。


芯に届く。


(これ、効いてる)


異形者の体がのけ反る。


同時に。


トラが跳ぶ。


一直線。


さっきノアが撃ち抜いた脚へ、牙が食い込む。


霧が爆ぜる。


異形者が吠える。


その瞬間。


見えた。


胸の奥。


黒い塊。


脈打つ“核”。


鼓動。


そこだ。


俺は地面を蹴る。


警棒を逆手に握り替える。


狙いは一点。


「終わりだ」


拳に意識を集中させる。


呼吸が一点に集まる。


心臓の鼓動が、拳へ流れ込む。


バチ……と、空気が軋む。


踏み込む。


叩き込む。


触れた瞬間。


衝撃が遅れて炸裂した。


爆発のような反動。


黒い霧が内側から吹き飛ぶ。


核に亀裂が走る。


次の瞬間――


砕け散った。



—————————



核が消滅。


衝撃の余波が、空気を震わせる。


黒い霧が一瞬、膨張し――


次の瞬間、霧散した。


中心にいた異形者の輪郭が崩れる。


膝から落ちる。


肉の重みだけが残る。


もう、動かない。


……終わった。


ノアはゆっくりと息を吐く。


視線を横へ。


大河が、その場に膝をついている。


警棒を握ったまま。


呼吸が荒い。


無茶をさせた。


トラが静かに近づく。


体躯が縮み、元の姿へ戻る。


小さく鼻を鳴らす。


大河の頬を軽く舐める。


生きている。


佐藤。


視線を走らせる。


少し離れた場所で倒れている。


脈はある。


肋骨に損傷はありそうだが、致命傷ではない。


救急を呼べば説明が面倒になる。


呪い痕跡は消えた。


だが、大河の消耗は隠せない。


――静香に気づかれるのは避けたい。


警棒を回収する。


「立てる?」


大河を見る。


答えは分かっている。


今夜は、ここまでだ。


家まで送らないと。


何事もなかった顔を作らせる。


それも、役目。


夜は静かに、元の形へ戻っていく。

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