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正義の味方はブラック業務  ——転生って異世界がテンプレじゃないの?(涙)——-  作者: 中林 旭G3


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ただ少し、ツイてないだけ。

第十五話





朝。


「母さん」


呼ぶのはまだ少し慣れない。


静香は振り向く。


「なあに、タイガくん」


「今度、友達来るかも」


箸が止まる。


一秒。


二秒。


静香、平静を装う。


「……そう」


トーンは普通。


だが目は明るい。


「学校帰り?」


「たぶん」


「何か用意する?」


早い。


「まだ来るか確定じゃない」


「確定じゃなくても準備はできるわ」


完全に前向き。


静香は穏やかに大河を見つめている。


“友達”という単語が出たことが、嬉しいらしい。


「どんな子?」


「霧島」


静香、すぐ反応。


「ああ。霧島さんの息子さん?」


「そう」


「同じ学校って言ってたわね」


トラ、足元でごろん。


静香は自然に撫でながら言う。


「いい子なんでしょうね。お母さん、しっかりしてるもの」


「母親基準なんだ」


「だいたい間違いないわ」


トラ、しっぽぱたぱた。


大河はふと、静香の横顔を見る。


少し安心している顔。


(……息子に友達がいるか、心配だったんだな)


トラが、急に耳を立てる。


玄関でも窓でもない。


“外”のどこか。


一瞬だけ低く唸る。


静香は気づかない。


大河だけが見る。


「……どうした」


トラはすぐに何事もなかったように丸くなる。


何も起きていない。


今は、まだ。



—————————



朝。


県警本部・地下、異形対策室。


案内板に載っていない一室。

表札は「資料保管室3」資料もあるし、保管もしている。間違いでは無い。


若手が言う。


「最近、軽い事故報告増えてません?」


ノアはファイルをめくる。


・交差点で追突(軽傷)

・信号一時誤作動

・足場ゆるみ(落下なし)

・EVズレ停止(怪我なし)


「全部、運が悪いって感じ」


「ですよね」


ページを閉じかけて、止まる。


「場所」


「え?」


「半径二キロ。夕方前後」


若手が固まる。


「偶然っすよね?」


ノアは少し考える。


「偶然は3回まで」


「今いくつです?」


「4」


ノア、データを自分の端末へ。


「念の為、巡回」


「理由は?」


「交通安全意識向上」


若手が笑う。


「便利すぎる」



同時刻。


大河の部屋。


トラが窓を見る。


耳が動く。


低く唸る。


理由はない。


ただ、嫌な感じがする。


「トラ、行ってくる。お利口さんにしとけよ」



————————-



ロードバイクに跨ったまま大河はうなだれた。


赤。


また赤。


次も赤。


さらに赤。


(嘘だろ)


ありとあらゆる信号に捕まる。


加速した瞬間に黄色、そして無情の赤。


結局、遅刻ギリギリで教室に入る。


霧島がにやりと笑った。


「大河、重役出勤か?」


「信号という社会の圧力に屈しただけだ」


「言い訳、大げさっ」



昼休み。


食券機の前。


ポケットを探る。


探る。


もう一度探る。


ない。


(財布……)


霧島が横から覗く。


「どうした」


「俺としたことが、人として最も初歩的なミスを犯してしまったようだ」


「……要は財布忘れたんだな」


「………..」


図星。


霧島は笑いながら千円札を入れる。


「愉快なサ◯エさんめ、バイト代出たばっかだから、奢ってやる」


横から小春がすっと現れる。


「えー、小春も」


「お前は調子乗るな」


それでも霧島はもう一枚千円札を入れた。


大河は静かに頭を下げる。


「霧島殿、かたじけない。この御恩は必ず…」


あえて時代劇風に感謝を表した。


「言い回し、古っ」


小春がくすっと笑う。



放課後。


晴れていたはずの空。


校門を出た瞬間。


ぽつ。


ざああ。


「嘘だろ?」


一気に本降り。


霧島が空を見上げる。


「春雨じゃ、濡れて参ろう」


大河が即座に返す。あえて…まぁいいか。


「言い回し、古っ」


霧島が笑う。


今日は少しだけツイていない。


けれど。


誰も不幸ではない。


ただ、ちょっとツイてないだけだ。




———————




木下は、あの時の出来事を思い出していた。


(俺、ホントに最強になれたのかな)


帰り道、横断歩道で前に立つサラリーマンの背中を見つめる。


(今日くらい、ついてない日になればいい)


ほんの軽い悪意。


青信号。


男は一歩踏み出し、足を滑らせる。手にしていたコーヒーが胸元に広がる。


「最悪……」


木下の心臓が、小さく鳴った。


――まただ。


駅前。笑い声を上げる大学生たち。


胸の奥がざらつく。


(楽しそうにしやがって)


今度は、はっきりと嫉妬を込めた。


鼓動が一段強く鳴る。


次の瞬間、自転車が横から突っ込み、一人が転倒した。膝から血が滲む。


ざわめき。


木下の喉が乾く。


(やっぱり俺が……?)


夜。


酔ってふらつく男と肩がぶつかる。


「どけよ」


舌打ち。


劣等感が、怒りに変わる。


木下は男の腕を掴んだ。


強く。


心臓が、爆ぜる。


男の身体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。


「な、んだ……これ……」


意識はある。だが立てない。


木下は手を離す。


身体が軽い。


視界が、異様に澄んでいる。


全身が熱を帯びる。


(吸った……?)


部屋に戻る。


ポストには不採用通知。


スマホには残高不足の通知。


何も変わっていない。


それでも。


胸の奥だけが、妙に満ちていた。


鏡に映る自分を見つめる。


「……俺、今までが間違ってたんだ」


その目は、もう引き返さない光を帯びていた。

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