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正義の味方はブラック業務  ——転生って異世界がテンプレじゃないの?(涙)——-  作者: 中林 旭G3


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青春ってヤツだな

第十二話




翌朝。



 教室はいつも通りの騒がしさ。


 誰かが笑い、誰かがスマホを覗き込み、誰かが小テストに絶望している。


 昨日の出来事なんて、世界には一切関係ないみたいに。


 大河は窓際でぼんやりと外を見ていた。


 グラウンドでは体育の授業が始まろうとしている。


 平和だ。


 


 ――赤色灯。


 ――無機質なパトカーのドアの音。


 ――地面に崩れ落ちた田島。


 黒い霧が消えたあとの男は、ただの人間だった。


「傷害未遂で現行犯逮捕します」


 事務的な声。


 田島は抵抗しなかった。


 虚ろな目で、連れていかれる。


 


 その横で。


「ほんと最悪なんだけど」


 毛布をかけられたまま、美幸は不満げに言った。


「意味わかんないし。あいつキモすぎ」


 警官に事情を聞かれても、


「わたしちゃんと断ってたし」


 と、自分の正しさだけを並べる。


 涙は出る。


 でも反省は、ない。


 


 少し離れた場所から、その様子を見ていた。


 助けた実感は、無い。


 


「後味、悪い?」


 隣でノアが言う。


 今日も完璧そうな顔をしている。


 なお本人はこの仕事が嫌い。


「……俺も、あいつだったかもな」


 田島の虚ろな目が浮かぶ。


 呪いが消えた瞬間、壊れた男。


 


 ノアは肩をすくめた。


「前世のあんた、わりと残念だったもんね」


「そこ笑うとこか?」


「事実確認」


 


「独身、アラフォー元ヤンサラリーマン。マッチングアプリ連敗中」


「やめろ、記憶ほじるな」



 


 チャイムが鳴る。


 先生が入ってくる。


 日常に戻る。


 


 大河は視線を前に戻した。


「まあ、今は授業中の睡魔との闘いに挑む、ただの高校生だ」



 


 黒板にチョークの音が響く。


 昨日の夜は、もう遠い。




————————-




異形対策室。


 白い室内に、モニターの光だけが浮かぶ。


 ノアは無表情のまま、データを呼び出した。


「対象、田島亮」


 画面に写真が映る


 若い後輩、杉本。


 自信に満ちた顔。


「田島の後輩。会議にて企画を全面修正。結果、杉本案として採用」


 映像が切り替わる。


 非常階段。


 屋上。


 田島接触。


「会議終了後、即日飛び降り」


 田島は直接手を下してはいない。


「精神崩壊までが早すぎる」


 次のデータ。


 岩本統括部長。


 順風満帆。将来有望。


「不倫発覚。立場悪化」


 借りてきた会議映像。


 言葉が詰まる岩本。


 失敗。


「会議前に田島と接触したと考えられる」


 その夜。


 愛人への殺人未遂。


 ノアは淡々とまとめる。


次の結婚相談所運営会社社長山寺のファイルを開こうとしてやめる。


「田島は“奪われた”と認識した相手から、自尊心を奪取」


「奪われた側は、急速に自己否定へ傾く」


 黒い霧の推移が表示される。


「奪った分だけ強化」


「蓄積過多により、異形化」


 数秒の沈黙。


「精神干渉型から変異と推測」


 ノアは記録を保存する。


「本人の主観は“奪い返した”」


 モニターが暗転する。



—————————



昼休み



「タイガー、購買いくよ!」


「行かない」


「青春だよ?」


「並ぶのは戦略的に無駄だ」


「タクちゃん、聞いた? 今の」


霧島が肩をすくめる。


「大河ってさ、たまに先生みたいなこと言うよな」


「落ち着きがあると言いたまえ」


「覇気がない」


 そのとき。


「小春」


 柔らかい声。


 振り向くと、長い髪を揺らした女子が立っていた。


「あ、澪ちゃん!」


 小春が満面の笑みで駆け寄る。


「紹介するね! タイガー!」


「C組の朝比奈澪です」


 控えめに微笑む。


 目が合う。


 澪はほんの少しだけ首を傾げた。


「白川くんってさ」


「俺の事、知ってるのか?」


「高校生なのに、ちょっとだけ疲れてる顔してるよね」


 沈黙。


 霧島が吹き出す。


「それな」


「言うな」


 澪はくすっと笑う。


「でも、いい感じだと思う」


 大河、言葉に詰まる。


「……そ、そう?」




——————————




 学食の一角。


「改めて紹介するね!」


 小春が元気よく言う。


「澪ちゃんはね、小学校三年生の時に引っ越してきたの!」


「急に個人情報」


 澪が苦笑する。


「で、そこからずーっと一緒!」


「ずっとって言ってもクラスは別だったけどな」


 霧島が補足する。


「でもタクちゃんのことも昔から知ってるよ?」


 澪が頷く。


「近所で有名だったしね」


「なにが」


「いつも小春の荷物持ってあげてた」


「今もな」


「兄だから!」


「俺は兄じゃない」


 大河は味噌汁を飲みながら静観。


 澪がふと視線を向ける。


「白川くんは最近目覚めたんだよね?」


「…….ああ。」

 

 知ってるのか。


「なんか不思議」


「昏睡状態からの復活が?」


「昔からいた感じもするし、全然いなかった感じもする」


 一瞬。


 大河の手が止まる。


 霧島が笑う。


「それわかる」


「わからなくていい」


 澪はくすっと笑う。


「でも、ちょっと気になる」


「どの辺が」


「タイガーなのに、虎感ゼロなとこ」


「そこか」


「うん、そこ」


 小春が身を乗り出す。


「えー!? ガオーって感じじゃん!」


「語彙力」


 澪はやわらかく笑う。


「でも、タイガーってなんかいい感じ」


 また、いい感じか。大河は小さく視線を逸らす。


「……俺はライオン派だ」


澪は大河をまっすぐ見る。


「白川くんは….」


「なんだ」


「静かな虎、って感じかな」


 一瞬、空気が止まる。


 霧島が小さく笑う。


「それはちょっとわかる」


 大河は霧島を睨む


「ブルータス、お前もか」


 澪は少しだけ首を傾げる。


「なんか、いざって時は頼りになりそう」


 霧島の視線が鋭くなる。


「……へえ」


 大河はまた視線を逸らす。


「目覚めたばかりの、モヤシっ子だ」


「そうかな」


 澪はそれ以上追わない。


 でも、ほんの少しだけ目が真剣だった



——————————-



 放課後。


 部活の掛け声が遠くに響く校舎裏。

 西日が通路のコンクリートを赤く染めている。


 駐輪場へ向かう途中だった。


 ふいに、足が止まる。


 通路の奥。


 北条が立っている。

 後ろに取り巻き二人。


 逃げ道を塞ぐような位置。


 小春の肩がぴくりと震えた。


「……タクちゃん」


 小春は自然に霧島の後ろへ下がる。

 澪がすぐ横に並ぶ。


「大丈夫」


 小さな声。


 北条が鼻で笑う。


「出たな、邪魔者」


 霧島は首を鳴らす。


「お前が勝手に出てきてんだろ」


 大河が小さく息を吐く。


「バ◯キ◯マ◯かよ」


「誰がだ」


 北条の眉が跳ねる。


 取り巻きAが前に出る。


「てめぇ、どけや」


 霧島の胸ぐらへ手が伸びる。


 一瞬。


 霧島の体が半歩ずれる。


 同時に、足が払われる。


 乾いた音。


 取り巻きAは自分が転んだことに一拍遅れて気づく。


「は?」


 北条の目が細くなる。


 取り巻きBが吠える。


「コラァ!」


 拳が振り上がる。


 一直線に霧島へ――


 その足が、引っかかる。


 大河の靴先。


 ほんのわずか。


 体勢が崩れる。


 次の瞬間、Bは派手に地面へ叩きつけられていた。


 静寂。


 部活の掛け声だけが遠い。


 大河は何事もなかったように言う。


「足元、危ないですよ」


 霧島が横目で見る。


 澪の視線が、静かに大河の足元へ落ちる。


 何も言わない。


 でも、見ている。


 北条の視線が、ゆっくりと大河へ移る。


 今度は“面倒くさい”だけじゃない。


 少しだけ、計算する目だった


  北条の視線が、大河を射抜く。


 取り巻きが起き上がる気配。


 空気が、もう一段だけ張る。


 そのとき。


「お前ら、何やってる!」


 低い怒声。


 通路の向こうから、生活指導の教師が早足で来る。


 取り巻きAが慌てて立ち上がる。


「何もねぇ!」


「勝手にコケただけだ!」


 霧島が肩をすくめる。


「俺ら何もしてませんけど」


 大河は静かに頷く。


「段差、ありますし」


「どこにだよ」


 北条が小さく吐き捨てる。


 教師の視線が北条で止まる。


「北条。またか」


 数秒の沈黙。


 北条は舌打ちする。


 小春を見る。


 霧島を見る。


 最後に、大河。


「……覚えとけ」


 低い声。


「次は邪魔入らねぇとこで話す」


 踵を返す。


 取り巻きが続く。


 足音が遠ざかる。


 張りつめていた空気が、ようやくほどける。


 教師が四人を見る。


「怪我はないな?」


「ないです」


 霧島が即答。


 大河は無言。


 澪が小さく頷く。


「大丈夫です」


 教師は溜め息をつき、北条の背中を追っていった。


 通路に、夕方の光が戻る。


 これって青春ってヤツか……..

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