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不遇の氷河期世代がディストピアな未来で若返ったから人生リベンジしてみた  作者: きぬた やじお


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2. 負け組氷河期世代 in 2048

前言撤回。需要がなくても続けます。

 2030年代は激動の時代だった。

 震災、富士山噴火、第三次世界大戦。


 当時、50代に突入した氷河期世代は一部の勝ち組を除き、多くは若い貴重な時期を非正規雇用の労働やブラック労働でつぶされ、生き残った者は中年期にようやくありついた、正社員の職にしがみついていた。

 思えばあの頃はまだ比較的元気が残っていたので、復興のためのボランティアに精を出したり、予備自衛官補に登録したものも多かった。皆、よくやったと思う。


 元気があるのは必ずしも良いことばかりではなかった。

 一部の「無敵の人」化した氷河期世代がとんでもない事件を起こしていたからである。


 この月面基地にいる末端労働者の中にもその手の事件を起こして地球にいられなくなった奴らがたくさんいて、休憩時間にもなると、当時の「武勇伝」に花を咲かせる。

 悪天候で外に出られなくなった今、基地の休憩所ではどの方向からもその手の話ししか聞こえてこない。


「繁華街や観光地でマナーの悪い外人狩りをやっていたぜ。後ろから体当たりしてダッシュで逃げた。」


 ぶつかる対象が違うだけで、やっていることは弱そうな女性をターゲットにした「ぶつかりおじさん」と同じだ。

 強いて言えば「ぶつかりおじさん」のターゲットと違い、ぶつかる相手がどんな奴か分からないのに、勇気があるというか無鉄砲な奴だ。


「マジか。俺も電車やバスの通路を荷物でふさいでいた奴や、優先席で寝ていた奴に注意して無視された時に、荷物を蹴飛ばしたことはあったな。」


 まあ、これくらいなら分からんでもない。


「そんなんじゃだめだ。俺の場合は深夜に騒いでいた奴を鉄パイプで滅多打ちにしてやったぜ。おかげで俺の地元の観光客はすっかり大人しくなった。俺は捕まったけどな。」


 こっちは完全に犯罪だ。というかそれ、本当の話しか?老人になってもホラ噺でイキるのはみっともない。


「氷河期世代を狙い撃ちにした増税と社会保険料の負担増があっただろ?あの時に法案に賛成した議員と圧力をかけていた厚労省や財務省の役人を特定してネットに晒したのは俺だぜ。」

「なんだよ、えらそうに。結構間違えて全然関係ない奴もとばっちり食らってたじゃねえか。俺なんかその情報を信じて凸したら捕まったんだぜ。」

「凸しただけなのか?ダセえな。俺なんか出刃包丁持って議員の街頭演説に切り込んでいったぜ。ほら、「氷河期世代は甘え」なんてふざけたこと言ってたあのゆとり世代の議員。バールを持った奴に先を越されたがな。」


 いわゆる「無敵の人テロ」というやつだ。

 あーいやだいやだ。

 俺も氷河期世代だから全く共感できないわけではないが、あの騒ぎに参加したものは皆、過熱し過ぎて冷静さを失っていた。


 一連の「無敵の人テロ」は戦争やら災害やらが一通り過ぎていった後、ハイパーインフレの大混乱を経て、税制や社会保障制度が変わったりして、これからはよくなるだろうと誰もが予想していた時に起こった。

 新しい税制の課税率と社会保障の自己負担率は独身の低所得高齢者に限って高かったのである。


 2020年代にも現役世代への負担増が大問題となったが、今回は明らかに氷河期世代を狙い撃ちにしていた。


 しかも追い打ちをかけるように、海外から孤児を受け入れることを決定し、氷河期世代の仕事を奪っていった。

 海外からの孤児の受け入れ政策は少子高齢化対策で行った政策だが、当初は氷河期世代の雇用に影響を及ぼすとは考えられていなかった。

 受け入れたのは主に戦争で親を亡くした孤児、そして少数ながらデザイナーベビーの「失敗作」も受け入れていた。


 戦災孤児については説明不要だが、デザイナーベビーの「失敗作」とは早い話しが「親の期待に沿う事が出来ず、ネグレクトされた子供」のことを指す。ひどい話しである。

 しかしデザイナーベビーは養子として人気だったので恵まれていたともいえる。子供の方も賢い子が多かったので、受け入れ先にうまく順応していた。


 最近になって月宮ディアナというVRアイドルの歌を聴くようになった。彼女は見た目がよくて歌や踊りがうまいのはもちろん、14歳にして修士を取得している頭脳の持ち主だ。

 しかしバラエティ動画で素の状態の彼女を見ると、人の気持ちを汲むのが苦手なようで、ポンコツ言動が目立つ。そこが逆にかわいいというファンも多いのファンも多いのだが。

 おそらく発達障害か何かだろう。彼女も養子に出されたデザイナーベビーだ。


 一方、戦災孤児は出身地も文化的背景も年齢もバラバラ、身体的障害やPTSDを抱えるなど、問題を抱えていた。特に「難しい」子供たちには、成長後、それまでも高齢者や障碍者が担っていたような単純労働に就くことになる。

 必然的に数の多い氷河期世代は職を追われた。

 年齢的には引退してもおかしくないが、ろくに年金ももらえないような状態なのに仕事まで奪われたらたまったものではない。


 受け入れを決めた政府も「子供なら日本語や日本文化の吸収も早く、日本社会に溶け込めるだろう。」「弱い立場の子供相手なら反発も起きづらいだろう。」と安易に考え高を括っていたのが、予想外のコスト増に頭を抱える羽目になる。

 当然、孤児が通う学校や就業先などの現場にしわ寄せがいく。


 不満をため込んだ氷河期世代は大いに荒れた。

 一時期はそれが原因で国会、テレビ、新聞の機能が完全にマヒして大混乱になるほどに。


 そんなわけで世間の氷河期世代に対する風当たりは強くなり、年金や介護保険の受給を確約する代わりに月で労働させるための法律ができたり、氷河期世代を追い出すための体制が着々と出来上がったわけである。

 過酷な宇宙空間で労働したところで、年金や介護保険を受給できるまで生きられるわけがない。


 正直この流れに乗るのは癪だった。ようやく見つけた仕事。少ない収入をどうにかやり取りしながら両親を介護し、何度もくじけそうになりながらもなんとか最期を見届けた。

 真面目に生きてきて、人様に恥じるようなことは何一つしていないのに、氷河期世代というだけで一緒くたにされるのは納得がいかない。

 だが地元に残ると仕事の世話をしてくれた恩人とその家族に迷惑が掛かってしまう。

 死ぬなら一人でひっそりと亡くなるのがよい。

 俺が月の仕事に応募した動機なんてそんなもんだ。


 だから月で働き始めた当初、「無敵の人テロ」を起こした前科持ちと聞いて、俺は立石と丸山の「おまいら」コンビを嫌っていた。

 もちろん、仕事に私情をはさまないようにはしていたが。


 だがそんな俺の気持ちなどお構いなしに「おまいら」コンビは俺を勝手に仲間認定して付きまとっていた。

 聞いてもいないのに自分たちの身の上話しもするので、奴らの起こした「無敵の人テロ」の実にしょうもない内容を聞いて拍子抜けし、それ以前に抱いていた嫌悪感が無くなるのにそう時間はかからなかった。

 いや、それでも図々しいからむかつくけど。


「あれは楽しかったですねえ。」

 月でもたまにある飲み会で、酔うと話題は決まってその時の「武勇伝」になる。

「近所に外国人の不良ガキ集団がいましてね、いつも夜中にバイクや車で走り回ってクソうるさいのなんのって。」

「で、俺たち、何したと思う?」

 嬉しそうに聞いてくる丸山。

「はいはい、不良グループの単車と車を痛車に改造したんだろ、こっそりと。」

 俺は素っ気なく答える。

「ただの萌え絵じゃなくて、18禁ものの絵を貼ったんだっけ?公序良俗に反しているじゃねえか!わいせつ物陳列罪!」

「ひどいですねえ、我々はちゃんとモザイクもかけていたんですよ。」

「モザイクが必要な時点でアウトだろうが!」


 それにしても飽きもせず何度も同じ話しをする。こいつら、ボケてるんじゃねぇのか?とたまに思う。

 だが丸山は嬉しそうに続ける。


「それで翌日になって、カンカンに怒った奴らが斧だのバールだの振り回しながら襲ってきたから、慌てて警察署に逃げ込んで自首したんだ。」


 本当にしょうもない話しだ。


 だが思い返してみれば、「無敵の人テロ」は殺伐とした話しだけではなく、こいつらみたいに笑える話しがあったのも事実だ。


 全て、終わってみれば何とやらだ。


「何の話しをしているんだ?」


 いきなり強いインド訛りの英語で話しかけられ、振り向くとインド人作業員のクマールがいた。ひょうきんそうな顔をした背の低い痩せた男だ。


 先にも述べた通り、この基地は日本とインドが共同で管理、運営している。俺の上司はインド人だが丸山と立石は一度もあったことはない。基地内にある自身のオフィスから一歩も出ず、快適な暮らしをしながら俺たちにあれこれ指示を出してくるだけだ。その上司の上司は地球から指示を出している。全くやっていられない。

 月面作業員の中にもインド人がいるが、氷河期世代の「無敵の人」と同じく何らかの犯罪を犯した人たちだ。厄介なことに凶悪犯もいる。凶悪犯たちは電子足輪をつけられて一カ所に固まっているが、そうでないものは比較的自由に歩き回っている。クマールは後者の方だ。


「下らねえことだよ。こいつらが昔やらかした武勇伝を聞いていた。」


 ぶっきらぼうに俺が答えるとクマールはわざとらしく目を見開いてびっくりした顔を作る。


「あーあ!そりゃいいね!」


 そして聞かれてもいないのにペラペラと自分の話しを始めた。


「俺の場合は、まあ始めは大したことなかったのよ。客先にちょっと数字を盛っただけで。そうしたら奴ら、俺を訴えてきやがった。社長と仲のいい取引先だったから、もうそれは怒られて。」

「怒られただけ?」

「いや、首になった。」


 そうだろうな。


「で、むかついたから退職するときに顧客情報を全部引き抜いて、会社のパソコンの中にあった俺の仕事データを全部消した。せいせいしたよ。で、捕まった。」


 よくある話しだ。悪いのは自分ではなく会社や客先だと言わんばかりの口調も含めて。


「運が悪かったんだよ。」


 やっぱり反省していない。


 話すだけ話すと気が済んだのか、クマールはさっさと行ってしまった。

 どうやら今度は凶悪犯たちにちょっかいを出しに行っているようだ。よせばいいのに。

 俺も一時期はインド人の多い荒川沿いの街に住んでいたことがあるし、職場にインド人の同僚がいたこともあった。いろんな人がいたが、クマールみたいなのだけはいなかったなあ。


 クマールが立ち去ってからしばらくして、俺のリストバンドが通知音を発した。確認するとインド人上司からのものだ。


「悪い。呼び出しだ。」


 俺は席を立つと上司のもとへ向かった。


 基地の地下にある指令室は上司の許可がないと入室できないようになっており、中に入るとまず目に入るのはモニターを兼ねた大きな窓だった。操作端末は最低限のものしかないが、非常時に備えてごついアナログ機器がでん、と場所をとっている。ほかには快適そうなソファ、VR式トレーニングマシン、疲労回復や美容に効果のあるらしい酸素カプセルなどが置かれている。

 それとボディーガードを兼ねたアンドロイドが一体。最近、調子が悪いようなので近々、地球へ修理に出される予定だ。

 上司はイラさんという名の40代の女性で、呼ばれた理由は何のことはない、いつもの「相談」という名のおしゃべりだった。とはいっても俺が一方的に彼女の愚痴を聞いているだけなのだが。


「両親がねえ、うるさいのよ。早く結婚しなさいって。結婚できなければせめて卵子を凍結しろだって!いい相手がいるならとっくに結婚してるっていうの!だいたいこんなところでどうやって結婚相手を見つけろっというのよ!」


 こちらもありがちな話しだ。インドでは都市部を中心に晩婚化が進み、合計特殊出生率は二十年以上前に人口置換水準を割っている。最も今では世界全体が晩婚化と少子高齢化の傾向にあるのでインドだけの問題ではない。


「それにしてもこんな場所に勤務しなきゃいけないなんてとんだ貧乏くじね。あなたもそう思わない?聞いてよ!私が大学を卒業した時は仕事がなくて本当に大変だったんだから!じゃなかったらこんなところにはいないっつーの!それなのに最近の若い人はほんっと自分が恵まれているのに気が付かないで仕事をすぐにやめちゃって!」


 どこかで聞いたような話しだ。日本の失われた30年とやらが周回遅れでインドにもやってきていたらしい。


 彼女が俺を話し相手に選んだ理由は単純だ。

 雑談程度の英語はできる。それと特に犯罪歴のない高齢の日本人管理職で、要はこいつなら危害を加えてこないだろうという安全パイ扱い。

 とはいっても普段はあたりのきつい上司が弱音や本音を出してくれるあたり、かわいげがあるといえなくもない。


 そう思ってしまうあたり俺も意外に単純なのかもしれない。


 ただでさえ宇宙空間なんていう過酷な環境で仕事をしているうえ、相手にしているのは凶悪犯を含む囚人たち。ストレスがたまるのも無理は無いし、両親もそんな娘のことが心配なのだろう。

 まあ、今のところは何の変哲もない退屈な日々が続いているだけなのだが。


 小一時間ほど拘束され、おまいらコンビの元へ戻ると、奴らは下ネタで盛り上がっていた。

 70歳近くになっても男同士で集まると下ネタに走るということを、70歳近くになって知った。どうでもいいが。


「立石氏も素人童貞じゃなくて本当の童貞を貫けばよかったのに。俺、30歳過ぎてからちゃんと特殊能力に目覚めたよ。まずは動画のサムネ詐欺やパケット詐欺に騙されなくなったし。」


 へえ、丸山も三次元の動画を見ることがあるんだ。こいつは普段から「二次元としか恋愛しない」と豪語してはばからないのに。浮気者め。


「悔しいですねえ。私なんか、いまだにパネルマジックやサムネ詐欺に騙されますよ。でも私だってちゃんと能力に目覚めましたよ。女の子の胸が本物かどうかってね。」


 立石、しょうもないことで丸山に勝負を挑むな。っていうか何の戦いだよ。


「ふっふっふっ。甘いな。俺なんか、動画を見たら即座に胸の揺れ具合で本物かどうかわかるぜ。」


 勝ち誇ったように丸山がふんぞり返る。

 だから何の戦いだよ。


「横井氏は?なんか特殊能力あるの?」

「ねえよ!」

「丸山氏。横井氏は我々弱者男性と違ってリア充ですから。」

「リア充じゃねえし。」


 実際、生涯独身で、彼女も何年どころか何十年もいないし、付き合った人数も片手で足りてしまう。


「ほら、最近はアゲハとかいう女に入れ込んでいるじゃないですか。」

「ああ、それはVRの18禁のお店の子だ。俺もおまいらと変わんねえよ。」


 技術の発達によって夜のお店も今や仮想空間や拡張現実が主流だ。何と言ってもサービスを提供する側が安心して働ける。

 ただ、VRでの違法な営業も増えて、それに伴い別の問題も増えた。客側が個人情報を抜かれたりぼったくられたり、働く側も住所を特定されて襲われたり。

 そんなわけで今では、サイバー空間の夜のお店は、かつての赤線よろしく各国の政府が管理している。


「でもさ、横井氏。VRで働く嬢の半分以上は中身が氷河期世代の婆だっていう話しだぜ。VRだからごまかせてるけどさ。」

「知ってるよ。こっちもVR若作り爺が挑んでいるんだからお互い様だろ。つかVR空間にいる時くらい現実を忘れさせろよ!」

「うんうん。その通りです。」


 立石は腕組をしながらうなずいて俺に同意した。


「同年代だからこそ、話しも通じやすいという利点もあるのですよ。それはそうと横井氏。最近、VRを使い過ぎじゃないですか?ほどほどにしないと貯金も無くなりますし、早死にしますよ。」


 言われて気づいたが、最近はVRを使用することが増えた。もっとも、立石が考えているように18禁の店に入り浸っているわけではない。


「違えよ!最近はVRで音楽を聴くことにはまっているの!!この前ニュースに出てた月宮ディアナみたいなアイドルとか、後は最近はやりのアフリカ系とか・・・。」

「またまたあ。ごまかさなくていいんだよ。」


 丸山も俺の言うことを信じていないようだ。

 まあいい。

 音楽を聴いているだけなのでそんなにお金もかからないし、体力も消耗しないが、VRをつけながら寝落ちすることが増えてしまった。

 健康に良くないのは事実なので、ほどほどに抑えておこう。

現在では緊急事態に備えてあるいは精密機器への影響を考慮して宇宙ステーションでの飲酒は禁止されているみたいですが、未来の月面の話しなので多分その辺の問題は解決しているのでしょう(適当)

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