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不遇の氷河期世代がディストピアな未来で若返ったから人生リベンジしてみた  作者: きぬた やじお


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13/17

13. 統一韓国

「まったく「アムールの紅い虎」は一体何をやっているのだ!せっかく奴らに手土産となる情報まで与えたのに襲う列車を間違えるとは!」


 平壌の高級ホテルでスクリニク夫妻の夫の方は苛立っていた。

 ディアナとアザミが不用意に流出させた動画は夫妻にとって思わぬ収穫となったはずだ。情勢が不安定で夫妻がひそかに資金提供を行っている武装勢力のいる極東沿岸諸国でディアナを捕まえることなど容易だったのに、その機会をみすみす逃してしまったのだ。

 ディアナが乗ったアジア・エクスプレスは国境を越えてすでに統一韓国内を走行中だ。旧韓国領内に入ってしまうと途端に捕獲が困難になってしまう。


「何としてでも38度線を超える前に捕まえないと。」


 旧北朝鮮地域であればまだ統一後の官僚機構がうまく機能していない部分もあるので、買収などして有利に事を運ぶことができる。


「慌てることはないわ。日本に入る前に捕まえられたらそれでいいのよ。」


 苛立ちを隠せない夫に対し妻は冷静だった。

 それを聞くとせわしなく部屋の中を歩き回っていた夫も立ち止まり、しばらく考え込む。


「ふうむ、そうだな。念のため、南の空港や港にも手をまわしておくとしよう。」

「北の方はすでに人を配置しておいたわ。連中の乗った電車は襲撃のせいでソウルまではいかず、平壌止まりに変更されている。うまくいけば平壌でことは済ませられるわ。」


 そういうと、妻はスマートグラスを身に着け、誰かに連絡を取り始めた。


*********************************


 襲撃のせいで思いがけなく、平壌で降りることになってしまった。

 00年代、俺が若いころは、北朝鮮は閉ざされた国で、それでも物好きな連中が旅行に行くこともあった。

 友人の一人が北朝鮮を旅行するツアーに参加し、夜にこっそりホテルを抜け出し、酒場でツアーでは聞けない北朝鮮の人たちの本音を聞いた話しをしてくれたことがあった。

 曰く、北朝鮮の人たちは日本政府には良い印象を持っていないが、日本自体は好きなんだそうな。


 あれから50年も経てばその頃と同じでないことくらいはわかるが、平壌は想像以上に変化しているようだ。

 どこもかしこも、再開発でにぎわっている。

 とは言っても統一後の韓国は北も南も人手不足。

 作業用ロボットや、アフリカ諸国から来た労働者たちがせわしなく歩き回る。


 出稼ぎ労働者とは別に住民らしい人たちもたくさんいるが、見た目の印象から推測するに、おそらく旧北朝鮮や旧韓国の人よりは、中国や中央アジア諸国から移住した朝鮮族が多いようだ。

 そして彼らから見ると、明らかに外国人の俺たちは浮いていた。じろじろと見られ、落ち着かない。


 それにしても工事現場が多い。普通に稼働しているオフィスビルや住宅、商業施設がなかなか見つからないほどだ。

 そろそろお昼の時間なので飲食店の一つでも見つかれば休憩もかねて入ることができるのだが。


 きょろきょろと周りを見回し、店を探していると、ふいっとアザミの姿が消えた。

 正確に言うと、俺が振り返った瞬間、裏小路から手が伸びて、彼女が引っ張り込まれるのを視界の隅に捉えた。


 一瞬、何が起こったのか分からなかったが、すぐに「おい!」と大声を上げながら、裏路地の方へ猛ダッシュした。 

 裏路地には小汚い一台のバンが停まっていて、数人の男たちによってアザミが中に連れ込まれようとしていた。

 この距離だと走って間に合うか間に合わないか。

 考えながらも俺は走るのを止めなかった。


 息を切らせながら走ってくる俺に気がついた男たちの一人は、拳銃を取り出し、こちらに銃口を向ける。

 このままでは撃たれる。

 そう思っても俺は走るのを止められなかった。


 だが、男は引き金を引く前に膝から崩れ落ちる。

 後ろから飛び出した人影が、男の持っていた拳銃を蹴り上げ、次々とほかの男たちもなぎ倒していく。

 小柄でよく動く少女のようなその人影は、グダニスクの食堂で出会ったバウンティハンターのホワイトフォックスだった。

 アザミを取り押さえていた男はバンの中にアザミを押し込み、運転席にいた男は慌てて車を発進させようとする。

 ホワイトフォックスは蹴り上げた拳銃を手にすると、まずは運転席の窓に一発、続いてアザミを抑えていた男に銃口を向ける。


「待ってくれ!」

 男は両手を上げ、アザミを放す。

 俺たちがアザミを保護している隙に車に飛び乗り、バンは急発進して消えていった。


 視界からあっという間にバンが消え、俺は警戒気味にホワイトフォックスを睨む。


「そう怖い顔をしないでよ。外じゃ目立つから、どこかお店に入って話しましょう。」


 服に着いた埃を払いながらホワイトフォックスは言う。

 ふいに人の気配がして振り返ると、いつの間にいたのか、ほかのメンバーたちも裏路地に集まっていた。


*********************************


 ホワイトフォックスの案内で、一軒の食堂に入る。

 昔ながらの平壌冷麺を出してくれるお店らしいが、店員は南アジア人だ。

 大丈夫か?

 だが俺の心配とは裏腹に、冷麺は美味しかった。疑ってごめんよ、店員さん。


「助太刀できなくてすまなかったね。」


 まず口を開いたのは黒岩教授だった。

 いや、あんたがどうやって助太刀するんだよ。

 突っ込みをいれそうになったが、列車の中でテロリストの何人かは彼女が取り押さえたことを思い出した。

 どうやったのかまでは知らないけど。


「念のために聞くけど、まだスクリニク夫妻とつながっているわけじゃないだろうな。」


 警戒しながら俺は聞いた。


「失礼ね。前にも言ったけど、ディアナは日本政府が保護することになったことで契約はとっくに解除されているわ。単に経由地が一緒だっただけよ。」


 ぷくっと頬を膨らませてホワイトフォックスは憤慨している。

 この人、一体いくつなんだ。

 その疑問には黒岩教授が答えてくれた。


「彼女は私が若返った時の調査の時に、偶然、同じ病院にいてね。その時に知り合ったんだ。本名はタチアナと言ってね、まあ、悪い子じゃない。加齢が遅いタイプのデザイナーベビーで、まあ、そうは言ってもまだ若い。30歳だったか。」

「失礼ね、27歳よ。」


 まじか。

 どう多めに見積もっても十代の少女にしか見えない。

 まあ、30代どころか40代でも、俺から見たら子供みたいなものだ。安心しろ。


「今回の件については礼を言おう。」


 そう言うと、黒岩教授は金貨を封筒に入れ、渡す。


「私が勝手にやったことだから別にいいのに・・・。それに相場よりちょっと多くない?」


 封筒の中を見たホワイトフォックスが言った。


「ひょっとして私から何か情報を聞き出そうとしていない?」

「ご名答。」

「相変わらず食えないわね。」


 そう言ってホワイトフォックスは封筒をしまう。


「まあいいわ。さっきの連中は出稼ぎ労働者に交じって入国してきた、犯罪組織の連中よ。違法薬物の売買、人身売買、不法入国や不法労働に手を貸したりしている。お金次第で誘拐や殺人を請け負うこともあるわ。」

「雇い主はわかるか?ディアナの両親か、はたまたアザミの親族か。」

「どちらかはわからないわ。でもバウンティハンター仲間からは他の情報を聞いている。ディアナの両親は元工作員を雇っているって。」


 それを聞いて黒岩教授は眉をひそめた。


「元工作員は厄介だな。旧北朝鮮の領内だけじゃなくて旧韓国領内でも注意する必要がある。」


 しばらく思案した後、黒岩教授はホワイトフォックスに向き直った。


「悪いが韓国を出るまでの間、私たちと同行してくれないか?追加で報酬は払う。」

「いいわよ。私もちょうど、日本に用事があるの。青森で大きなメタルフェスがあるのよ。」


 それは意外だ。可憐な見た目からは想像もつかない過激なご趣味をお持ちのようである。


「ちょっと!軍か公安から応援を呼ぶならまだしもバウンティハンターに頼むなんて!」


 ここまで黙っていた佐竹が口をはさむ。

 ごもっともだ。


「ホワイトフォックスはちゃんとした訓練を受けていて、これまでにも政府の依頼を何度か受けている。それに本国から応援を呼ぶとして、手続きも含めてどれくらい時間がかかる?仮に統一韓国の軍や警察に応援を頼むとしたら?」


 黒岩教授がそういうと佐竹は黙った。

 どうやら現時点ではホワイトフォックスを雇うのが最適解のようだ。

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