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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第7話:人格消滅!? 二人の零号の行方

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第20節:三人寄れば文殊の知恵


 愛媛隕石落下から、十日ほどが過ぎた。


(ボン)が居た、と思われる場所は見つけたんだがよ……」


 難しい顔をしたおやっさんが、少し砕けた口調で言う。


「どこなんです?」

「旧香川だ」


 局長室で報告を受けているのは、局長席に座ったハジメと、横に立つ花立だった。


 ケイカはアヤ、ヤヨイと共に研究室に籠りっきりになっている。

 ミカミは《白の装殻》とのパイプとして、PL社に出向させていた。


 おやっさんは、護衛に付けたリリスとタッグを組んで捜索に当たっていたが、リリスは旧香川に残り、報告の為に彼だけ帰還していた。

 リリスの代わりに、この場にはジンが同席している。


 【アパッチ】とのパイプ作りの為に向こうにいた時にたまたま出会い、合流したらしい。

 ハジメの所在がバレた時にフラスコル・シティで動いた四人の集まりに、花立は少し懐かしさを覚える。

 

「見つけた部屋は、使われてる痕跡がなかった。聞いた戦場からトンボ帰りした後、坊は一日二日でいなくなったようだな」

「流石ですね。こんな短時間でそこまで突き止めるとは」


 報告書に事前に目を通していた花立が賞賛の言葉を掛けると、おやっさんは少し苦味を含んだ笑みを返した。


「居た場所見つけても、本人が見つからねーんじゃなぁ……」

「何処へ行ったか、は、これからですね」


 ハジメも口を開くと、おやっさんは首を横に振る。


「だが、こっからはきっと難航する」

「……何か理由が?」

「俺が坊を早く追えたのはな、ハジメ。アイツが、俺の仕込んだ方法で手掛かりを残してたからだよ」


 おやっさんの言葉を、ジンが頭を掻きながら引き継ぐ。


「マサトの方が残した緊急の為の措置だったんだろうけど、あの野郎、食料を用意してなかったんだろう。飯なしで一週間となりゃ、ギリギリ。水もなきゃ三日が限度だ。アイリはそれで、セーフハウスを出たんだろうな」

「坊は、元々マサトなしでも有能な装殻者だ。襲来体が相手でも滅多な事にゃならんだろうが……それなら何でこっちに連絡を入れねぇのかが分かんねぇ」


 おやっさんの疑問に、花立は自分の推察を述べる。


「アイリは、現状を把握していない可能性があります。ここしばらくは、マサトが表でした。マサトが表の間はアイリは眠っているんです」

「そうなのかい?」


 おやっさんが首を傾げるのに対して、花立はうなずいた。


「ええ。〝装殻者〟が活動している間は、故意に与えない限り〝転生者〟側の記憶が連続しない、というのは、ゴウキさんにも確認したので間違いないでしょう。であれば、アイリにはフラスコル・シティ失踪以降の記憶はほぼない、と見ていい」

「……何か、記憶を与えない理由があるのか?」


 ハジメの問いかけに、花立はジンと目を見交わした。


「以前マサトと話をした時に、俺の『アイリは納得しているのか』という問いに、奴は否定を返した。あの時は、コアの移植でアイリを救えると全員が思っていたからな。その為にユナを犠牲にする可能性があった事を、アイリは許容しない。そういう奴なんだ」


 花立の言葉に、おやっさんとジンも頷く。


「なるほどな……だから俺たちを頼らない、か」

「あいつが、自分の復調をまだユナからのコア移植によるものだと思っていたら……合わす顔がない、とでも思うだろうな」


 ハジメが局長席に腰を下ろしたまま顎に指を当てると、ジンが補足した。


「だが、俺たちはアイリを見つけて説得しなければならない。……戦場に、引きずり出す為に」


 ハジメのあえて悪意のある表現を選んだ言葉に、ジンが眉をしかめて、おやっさんがこめかみを掻く。


「見つける気ぃ失せる事を言うなよ」


 おやっさんが嗜めると、ハジメは軽く微笑むと手を上げて謝罪した。


「人類を救う、という目的の為に、犠牲を強いる事を赦されるつもりはありません。だが、止まるつもりも、ない」

「俺ぁ、お前にも坊にも、コウ君にも死んで欲しくはねぇんだ。……どうにもならねぇのかよ?」

「生きて帰り、その後で考えますよ。今のままではどうしようもない、としか言えませんが……なるべく早く、アイリを見つけて下さい」

「……努力はするよ」


 その言葉で、この場は解散となった。

 

※※※


 その頃、研究室で画面に見入っていたケイカ、アヤ、ヤヨイの三人は。

 しばらくの間表情を変えないまま、止まっていた。


 周囲が不審に思うほどの長い時間が経過した後に。

 椅子に座って画面の正面にいるアヤが、ぽつりと呟く。


「出来た……?」

「三人寄れば文殊の知恵、とはよく言ったモンだけど」


 ヤヨイが太い笑みを浮かべて、手を掛けていた背もたれから体を起こした。


「穴はない? 本当に?」


 逆の横から覗いていたケイカは、まだ画面を食い入るように見つめている。


「解除薬作成のネックは、装殻と人体の霊子的結合を、人体を傷つけないように解除出来ない点にありました」


 アヤは、シミュレート画面の一部を指差した。

 D.EX(ダウン・エクシード)の適合率低下の効能は、ナノマシンによるもの。

 人体に結合の緩和ではなく機能停止に近い情報を入力したナノマシンを注入することで、それ以上の結合を抑制するものだった。


 対症療法であり、根治療法ではない。

 解除薬が目指すのは緩和からの分離であり、そこが問題だったのだ。


「装殻ってのは、機械と人体の融合……霊子的には〝混ぜて一緒くたになる〟のと同じだからね。形状記憶が正常に働いている間は、分離出来るけど、それがイカれちまったらどうしようもなかった」


 装殻側に外部から正常な情報を入力しても、エラーが返って来る。

 人体との結合中に初期化を行えば、人体側にどんな弊害が出るかが分からなかった。


 人体は、逆に脳領域における記憶と霊子の関係が未だに解明されていない。

 その状況に穴を開けたのは、ヤヨイの思いつきだった。


『ケイカの体は、ほぼ100%人体細胞と装殻細胞、そして襲来体細胞が結合してる。なら、それがどう行われているか解明出来れば応用出来るんじゃないのかい?』


 そして、まずはケイカ自身の装殻化プロセスを解明する為にミツキを引っ張り出した。

 ヤヨイと交代でひたすら装殻と解殻を行い続けたミツキは、全てが終わった後に現在死んだように眠った。


 軟弱、というケイカとヤヨイの誹りを受けたのは、今となっては可哀想かな、とアヤは思う。

 自分の体の事だからか、体感を持つケイカが変化過程をきちんと解明した。


『私の装殻化プロセスは、今までは纏身と類似の現象だと思っていたけれど、どちらかと言えば出力変更に近いみたい。装殻そのものよりも、追加装殻(アームドシェル)のシステムを応用する方が良いんじゃないかしら?』


 追加装殻は、通常のワンセットで纏身する装殻と違って、部分的に人体へ追加される。

 元々の記憶装置に情報がなく、言わば外部記憶装置に近い状態で管理されているものだ。


 そこまで来ると、今度は装殻調整士(シェルスミス)の領域になる。

 一番理解の深いコウの記憶を持つゴウキにお出まし願い、ソフトとケイカたちの考えに関する見解を聞いた。


『融合が進行してない奴ならこれで良いだろうが、末期の奴には効果がねぇな。むしろハジメの巨殻(ギガンテス)のシステムを参考にしな。ありゃ中々よく出来てる。巨殻化と追加装殻のスイッチが切り替えれるようにしてある。それで完璧だ』


 最後はアヤである。

 アヤ自身は、適合率理論に関する知識が深い。


 ハジメの巨殻システムは、それ自体が適合率調整による段階分けで形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)を操り、特化形態、強襲形態、巨殻形態を使い分けれるようにしていた。


『ナノマシンによる内部からの干渉で、一度、装殻本体眠る最初の人体情報を引き出して外部記憶装置にコピーします。追加装殻の情報領域に人体情報が入ったら、今度は段階的出力変更プロセスを結合停止状態の装殻にインプットして出力変更を行えば、理論上は人体と装殻が分離します』

『記憶領域に余裕がない場合は? 初期の装殻には追加領域自体が存在しない事があるよ?』

『情報未入力のナノマシン数を増やして、記憶領域の代わりをさせます。ナノマシン自体は、人体には無害です。装殻を解除してしまえば自然に排出されます』


 そうして、今。

 理論上は完璧に、解除薬が機能した。


「これで……ようやく」


 アヤが言い、ケイカが満面の笑みで頷いた。


「ええ。【アパッチ】との交渉材料と、不良装殻者(ベイルダー)が救済出来る!」


 三人は、それぞれに手を打ち合わせて歓声を上げた。





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