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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第7話:人格消滅!? 二人の零号の行方
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第15節:悪意が嗤う

「……見違えたな。結構な美形だ」


 深夜の共用スペースにいたカオリは、シェイドの気配に気付いて顔を上げた。

 驚いたように言うカオリに、シェイドは鼻を鳴らす。


「外面が浮浪者では、余計な疑いを買うからな」


 シェイドは、仕事は仕事できっちりとやる主義だった。

 風呂に入ったついでに髭を剃って散髪し、眠る必要もないので髪も整えている。


 まともなスーツが在庫にないという事で、赤いジャケットと皮のスリムパンツを貰った。

 黒の上着は昔は好みだったのだが、あの忌々しい男を思い出した為に、あえて赤を選んだのだ。


 かつてはそれなりの組織を率いていた自分に、かなり近い姿に戻っている。


「随分、表情は乏しいのが惜しい」

「昔は、よく言われたな」


 シェイドの人生は、笑う事など少ない人生だった。

 あまりに表情が変わらないので、機械のようだと言われた事もある。

 カオリは肩を竦めた。


「まぁ、外身なんかどうでもいいが、協力してくれるのは、正直助かる。うちは【アパッチ】などと大層に名前を付けたところで、力のない弱者ばかりのコミュニティだからな」


 シェイドの素っ気なさを気にもせず、カオリは話を続けた。


「なにせ、人を守るために装殻者となる事を志して挫折したような私程度が、トップクラスの戦力だ」


 シェイドは、カオリの話に興味がなかった。

 だが眠る必要もない身では、この場を立ち去ったところでする事もない。


 シェイドがカオリが座っているテーブルの対面にあるソファに腰を下ろすと、何か事務作業をしていたらしきカオリは、ホロスクリーンを閉じた。


「お前もそれなりに強いと思うが」

 お互いに黙り続けるのも、質問をされるのも煩わしいと思ったシェイドは、軽く話題を振った。

 世間話続ける事が出来る程度の口はある。


 でなければ、裏社会で人を相手に金を稼ぐ事など出来ないからだ。


「私がここを出ると、襲来体への備えが薄くなるからな。雑魚数体ならともかく、最近は数が多い。物資を持って帰ってきて全滅など、笑えない話だ」

「組織が大きくなれば人は不足する。どこも一緒だな」

「人を管理した経験が?」

「言っておくが手伝わんからな。契約の範囲外だ」

「それは残念」

「見切りを付けたらどうだ? 軽く見た限りでもこの組織に未来はないだろう」


 シェイドの言葉に、カオリは首を横に振る。


「それでは、私が裏切った奴等と同じになる。それはプライドが許さない」

「外面に拘るのは愚かしいな」

「いいや、拘ってるのは此処だよ」


 カオリは、自分の胸の間を指で叩いた。


「奴等と同じになるのは、自分がなくなる。生きる意味ってものは、大切なものだろう?」

「生きる意味、か……」


 かつてはシェイドも、カオリと似たようなものだった。


「……そうだな」


 それを失っているから、今のシェイドは脱け殻なのだ。

 力ばかりは増したが、ただそれだけだ。 


「弱者を受け入れるこの組織を維持する事に意味を見出だすお前が、裏切った相手はどんな奴等だ?」

「世界を救おうとしているバカの集まりだよ」


 カオリは吐き捨てた。


「それは確かに必要な事で、その為には力が望まれている。私にだって分かってはいるさ。……だが装殻は、そこにあるだけで人を不幸にする」


 忌々しげに、カオリは自分の腕に填まった装殻具を睨み付けた。


「ベイルダー達に触れて、私はこの力の歪さに気づいた。黒の一号を英雄だと勘違いして従っていた私は、シェイドの言う通り、愚かだった」

「奴に従っていた?」

「私は、元【黒殻(アンチボディ)】だ。だいぶ前から【アパッチ】に内通していたがな」


 彼女は、自嘲するように笑う。


「私は、あの組織で何者にもなれなかった。人類を守るという使命は、私には向かないと言われたよ。総帥の、人を見る目だけは確かだ。結果的にこうして、組織を裏切っているからな」


 人を救う者、黒の一号。

 そして目の前のカオリもまた、人を救おうとする者だ。


 その違いは。

 弱者を必要であれば切り捨てる非情さの有無だと、シェイドは思った。


「……大義、か」

「え?」


 シェイドはカオリの問い返しには応えるでもなく、代わりに嘲るように口の端を上げた。


「自覚がある分、タチが悪い訳だ」


 ―――正義を騙る、とはよく言ったものだ。


 そしてかつての彼の言葉も、思い出す。

 

「殺した相手の事は忘れない……では、見捨てた相手の事はどうなんだろうな。そう思わないか?」

「それは……黒の一号の話か?」


 シェイドはうなずいた。

 米国だけではない。

 『飛来鉱石研究所(フラグメント・ラボラトリィ)』が作り出した寄生殻(パラベラム)とて、元を辿れば装殻者の成れの果てだ。


 黒の一号は、ラボを見捨て、そこにある技術を残したまま消えた。

 その結果がシェイドであり、かつての仲間であり……駆逐された他の無数の寄生殻どもを含む、失敗作たちだ。


「あのベイルダーの老人は」


 シェイドは、気になっていた事を訊いた。


「うん? キタツさんの事か」

「いつから此処にいる?」


 彼は、確実にラボの関係者だ。

 装殻は、初期型に良く似ているが異質なもの。


 再改造前のシェイドと、彼は同型だろう。

 今日交わした会話の最後の発言からも、それは明らかだ。


「【アパッチ】を立ち上げたのがキタツさんだ。いつから四国にいるかは知らないが……私が出会った頃には、既に寝たきりだった」

「……そうか」


 シェイドは、自分でも意外な事に、憤りが芽生えるのを感じていた。

 他者を踏みにじり、それを是としている……あるいは、自覚すらないその行為に。


「なるほどな……奴らはこういう気持ちだった訳だ」


 今なら、黒の一号を含む【黒の装殻(シェルベイル)】がシェイドに対して抱いていた気持ちが理解できる気がした。

 奴等も所詮同じなのだ、という、皮肉な事実と共に。


「他人の悲しみに憤る、奴等自身が……災厄を撒いている事を、奴等は自覚しているのかな?」

「さぁな。解除薬の開発はしていたが、進捗は良くないように、私には見えた。それよりも戦う為の力の開発を優先していたよ」

「だろうな」


 組織の論理とはそうしたものだ。

 目的と理念が守られてこそ、他者に差し伸べる手を持てる。


 揺るがすべきではない部分を、黒の一号はきちんと理解している。


「奴と俺は、似ている」


 シェイドは、その事実を認めた。

 自分の中で飲み下して。


「唯一違う事があるとすれば、それは立ち位置だけ……そういう事なんだろう」

「すまない。先程から話が全く見えないんだが?」


 少し苛立ったように言うカオリに。

 シェイドは、軽く苦笑を浮かべてみせた。


「悪いな。気が変わったんだ」

「……どういう意味だ?」

「そのままの意味さ。一度きりのつもりだったが、俺はこの組織に入る。認められるか?」

「シェイドほどの戦力なら、こちらとしては願ってもない事だが……」


 カオリは疑わしげに続ける。


「どういう風の吹き回しなんだ?」

「ただの嫌がらせ、だ」


 今のシェイドは、決して黒の一号に劣らない力を身に付けている。


「奴等がどう動くかは分からんが、そう遠くない内に事態は激変する。……その時、奴等がどう出るのか。それを見極めたくなった」


 襲来体の大規模侵攻はすぐそこに迫っている。


「奴等がここまでも守るか、見捨てるか。……もし見捨てた、その時は」


 シェイドは、悪意をもって嗤う。


「俺が、奴等の敵となる」

 

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