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黒の零号〜最強の装殻者〜  作者: 凡仙狼のpeco
第7話:人格消滅!? 二人の零号の行方
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第6節:亡者は出会う

「ちっ……」


 彼は舌打ちした。

 どこか荒廃した雰囲気の街並みが、周囲には広がっており。

 そこで、襲来体に襲われている人々がいる。


 彼らの多くは、体のどこかが装殻化していた。

 不具合なのだろう、本来なら超人的な能力を発揮するはずのその部分が動かない重石であるかのような様子で、逃げ惑っている。


「目障りな……」


 特に彼らを助ける気もなく、彼がその場を去ろうと振り向いた先にも……二体の襲来体がいた。

 キシキシと岩が軋むような鳴き声に似た音を立てて、道の先からこちらを見ている。


 彼は、余計に苛立ちを募らせた。

 襲来体どもから少しでも離れようと北に向かったが、奴等には関係ないらしい。

 本土襲撃の為に、まずは四国全域を落とすつもりなのだろう。


「調子に乗るなよ」


 彼は、右の拳で自分の左胸を叩いた。


「……纏身」

認証(インストール)


 彼の体から、流動形状記憶媒体(ベイルドマテリアル)が染み出した。

 空気に触れる側から硬化して外殻を形成し、一瞬にして彼は異形へと変わる。


 曲線で構成された外殻。

 両手足と背部には機動補助機構(コンバット・スラスター)


 握った拳には、相手に叩きつける部分に凶悪な突起が並び。

 膝には、刺突用の突貫角(ニーホーン)


 その色は、鈍く光る銀色(シルバー)

 全身を走るのは、双眼と同色の出力供給線(グリーンライン)


 どこかレトロな印象ながら、凶悪さも併せ持つ頭部外殻に覆われた頭を、ゆっくりと一度回して。


「―――消えろ」


 言葉とともに、彼はゆらりと体を揺らめかせた。

 襲来体は、瞬時に移動した彼の動きに全くついてこれていない。


 彼は、見当違いの方向を見ているそれぞれの襲来体顔面に、一発ずつ左拳を叩き込んだ。


 弾けるようにその頭が吹き飛び、襲来体の体が崩れ落ちるところに。

 苛立ちを発散するかのように全力の回し蹴りを打ち付けて。


 力任せに二体とも薙ぎ払い、残った体をも爆散させる。


「歯ごたえの無い……」


 たった二発。

 彼は自身の苛立ちを発散しきれなかったが故に、さらに怒りを募らせる。


「この程度の奴らが、人類最大の脅威だと? ……限界機動(ブレイク・アップ)

認証(インストール)


 紛い物の補助頭脳(サポーター)が、再度歪んだ声で彼の求めに応えるのと同時に。

 彼は、跳躍した。


 街中に光る敵性反応に片っ端から近づき、力任せに、無造作に叩き壊していく。


 それは、暴虐で一方的な虐殺だった。

 掃除のように、無感動にゴミを箒で払うように。


 姿すら見せないまま、大して数もいなかった襲来体を殺し尽くした彼は、最後に残ったビルの向こうの反応に目を向け。

 地面を、その踏み込みによって破壊しながらビルを飛び越えた。


 美しいラインを描く背面跳躍から、片方の膝を真下に立ててスラスターを吹かして落下した彼は。

 そこに居た襲来体を頭の先から粉微塵に砕いて、地面に着地した。


限界機動解除(ブレイク・オーバー)


 出力解放すら使用せずに、全ての襲来体を殲滅して。

 彼は、ゆっくりと立ち上がる。


 すると。




「銀色の……黒の一号?」




 それまで反応はあったが意識すらしていなかった、襲来体と対峙していた装殻者が声を上げた。

 声音からして女だろう。


「あんな奴と、俺を一緒にするな」


 どいつもこいつも俺を苛立たせやがって、と。

 顔も見ずに吐き捨てた彼は、再び左胸を叩く。


「解殻」


 人の姿に戻った彼は、結局苛立ちを発散出来ないままに、歩み去った。


※※※


「ちょっと待ってくれ」


 何故か追いかけてきた女は、彼に声を掛ける。

 返事もせず、歩みを止めない彼の肩を掴み、女は再度言った。


「少し話がしたい」


 歩みを止められた事に舌打ちしながら、彼はようやく女の顔を見る。

 日焼けした肌に、赤み掛かったセミショートの女。


 気の強そうな整った顔立ち。

 昔なら食指も動いただろうが、今の彼には興味もない。


「失せろ」


 それだけ言って肩を掴んだ手を払おうとしたが、女は真剣な目のままそれを拒否して、さらに指先に力を込めた。


「あなたは、正常な装殻者なんだろう? 話がしたいんだ」

「俺にはそんなつもりはない」

「なら何故、私たちを助けてくれた?」

「俺は、俺をムカつかせる奴らを潰しただけだ。貴様も潰してやろうか?」


 彼は女の腕を掴み、その目を殺気を込めて覗き込んだ。


「もう一度言う、失せろ。それとも、この場で俺に犯されるか?」


 しばらくぶりの独り言以外の会話にも関わらず、慣れた脅しだけはすらすらと口に出た。

 しかし女は、怯んだ様子もなく言い返す。


「それで力を貸してくれるなら、喜んで差し出すよ。話だけでも聞いてくれないか?」


 彼は、ふと周囲の気配に気付いた。

 見ると、子供がいる。


 10代半ばから幼児まで様々だが、年長のものは襲われていた者たちと同様に手足が装殻化していた。

 しかし、体格に比して腕や足が小さく、短い。


 生体でない装殻化部分は成長しない。

 今の年齢に達する以前に不良を起こし、そのまま体の成長から取り残されたのだろう。


 子どもたちは、じっと彼を見ていた。

 服は薄汚れている。

 不衛生ではないが、古びた服を買い換える余裕もない事が伺えた。


 子どもたちの目に浮かぶ感情は様々で、不安を覚えている者もいれば、警戒している者も、そして理解しがたい事に、笑みを浮かべている者もいた。


 彼らの姿に、かつての自分が重なる。

 スラムで、暴力に怯えながら暮らしていた頃の自分に、彼らはそっくりだった。


「ッ……何なんだ、お前らは」


 彼が言葉を交わす気になったのを察して、女が手を緩めた。


「我々は【アパッチ】。ベイルダーの集団だ。今は、襲来体が襲ってきて物資の補給もままならなくてね」


 女がどこか安堵した様子を見せたのは、彼に対して緊張していたのかもしれない。

 声を沈めて、女は続けた。


「強い装殻者を、雇いたいと思っていたんだ。一緒に来てくれるなら今でも飯と風呂くらいは提供出来る。一緒に来て欲しい」


 彼の体は、今や食事や睡眠を必要としない。

 空腹を覚える事もなかったが、目的もなく家もない状況に多少、辟易としていた。


 どうせやる事もない。

 不愉快なら消えれば良いだけの話だ。


 彼は復活してから着の身着のままだった。

 スーツはだいぶくたびれていて、ヒゲも髪も伸び放題、浮浪者のような姿をしている。

 昔はそれなりに身なりにも気を使っていたが、今となっては無意味な話。


 しかし風呂には多少、心を惹かれた。

 今の体が心地よさを感じるかどうかは別として、味わってみたいと思った。


「良いだろう。面倒だと思えば消える。次は引き止めるな」


 彼の上からの肯定に、女は頷いた。


「私は森宮カオリという。あなたは?」


 彼は少し考えた。

 元の名も、かつて名乗っていた名も、今の彼にはふさわしくない。


 今の彼を表す言葉を考えて、彼は。

 自嘲を込めて、こう名乗った。


「〝亡者(シェイド)〟……」

 


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