第4節:ホントに裏切ったのか?(前編)
「カオリは、ミカミと似てる」
話を聞きに来たミツキとゴウキに、黙ってベンチに座り缶コーヒーを飲んでいたジンが言った。
その横には、同じようにコーヒーを手に俯いたケイカ。
より憔悴しているのはジンの方だが、生来の気質から人を無視する事は出来ないのだろう。
億劫そうに、ジンは続けた。
「あいつは、コンベンションで落とされたプランBの伍号だ。……最後まで俺と争った」
実力で言えば俺よりも上だった、とジンは言う。
「カオリさんが、黒の伍号……」
「元は【黒殻】の試験装殻者さ。そこはお前と同じだな、ミツキ」
ジンは面白くもなさそうに笑う。
それでも最終的に選ばれたのは、ジンだった。
黒の一号が連れて来た、ポッと出のならず者。
黒の一号への憎しみをはばかる事なく口にし、実力は大した事はなく。
大口だけは一丁前の、気合しかそこにはない軽薄な男。
「あいつが結果に猛抗議したのも当たり前だよな。でも、ハジメさんは譲らなかった」
納得がいかない、というカオリに。
お前では足りない、とはっきりと口にしたハジメ。
「出自は知らねぇ。あいつは自分の過去を一切喋らなかった。だがそのコンベンションの後、あいつは試験装殻者をやめた。元々ケイカさんを纏う事に対してある程度の適性があったから、ここの警備に異動になった」
「……カオリは」
ぽつりと、ケイカがジンの言葉を引き継ぐ。
「何度か、不良装殻者について、口にしていたわ」
ベイルダー。
装殻の問題で、肉体の一部が流動形状記憶媒体と融合したまま元に戻らなくなった者。
ミツキが、ケイカらを除けば四国で最初に知り合いになった少年、タカヤとその仲間たちが、それだった。
「彼女は、装殻を世に送り出したハジメさんに疑問を抱いていた」
『ケイカは、彼らを見て現状が正しいと思うのか?』
そのカオリの問い掛けに。
「私は言ったわ。装殻がなければ、先の米国との紛争や大阪隕石襲来体事件で、より多くの犠牲が出ていた、と」
しかし、カオリは納得しなかった。
『そもそも、総帥が存在しなければ、その後の紛争もなく、襲来体の再来もなかったんじゃないのか?』
ケイカは、その問いかけに答えられなかったという。
「私もカオリも、ミカミたちの事情を知っていたから」
カオリの離反は、異界の者たちがそれぞれに道を違えたのと、同じ理由。
しかし、彼女はおそらく洗脳されている訳ではない。
それだけに、問題の根が深いようにミツキは感じていた。
リリスたちが、《白の装殻》から離反したように。
カオリもまた、ミツキらとは相容れなかった。
そういう事なのだろう。
「で、どーすんの?」
そんな二人の告白に何を感じた様子もなく、頭の後ろで手を組んだゴウキが軽く言う。
「どう、って……?」
完全に頭が回ってない顔で、ジンが問い返す。
「いや、腑抜けてても仕方ねーだろーよ。探して連れ戻したり話したり、別にいらねーってんなら腑抜けてないでハジメちゃんの手助けしたり、色々やる事あんだろ?」
「探したって、仕方ないじゃない。彼女は自分の意思で……」
「いなくなったから、だからどーだっつーんだよ。バカかお前は。今のまんまじゃ事情もなんもさっぱり分かってねーだろ。今お前らの言ったカオリの裏切った理由って、ただの推測じゃねーか」
ゴウキは、ケイカの言葉を遮って告げる。
「話もせずに分かった気になってっから、ヘコたれんだよ。ザコめ」
「ちょ、ゴウキさん!」
ゴウキは、デリケートになっている相手に気を使うタイプの人間ではない。
留めようとしたミツキだが、時既に遅く。
ジンが、荒んだ目で立ち上がっていた。
「お前が、どれだけ偉いのか知らねーがな」
元々長身のジンは、立ち上がって底光りする目で見下ろすだけで迫力がある。
「お前こそ、何もかも分かってるようなクチ利くんじゃねぇよ!」
「へぇ? 俺が分かってないって? じゃあ何をどう分かってないのか言ってみろよ情弱」
ゴウキはジンを見上げると、片方の眉を上げて笑みを深くする。
「この忙しい時にどーしてヘタってんのか、分かってるからからかいに来てんだよ。くだらねーってな。これだからイヤだねー、ハジメちゃんに負担ばっかり押し付ける口先だけのアホタレは」
「っサボってんのは、テメーもだろうが!」
「そーだけど、俺別にハジメちゃんが苦労しようがどーでもいーし」
「ならほっとけよ!」
「へー、ならお前も、ハジメちゃんが幾ら苦労してもどーでもいーんだ? 仲間だな!」
「一緒にすんな!」
「一緒だろーよ。仲良くしようぜー? なんなら今から遊びに行くか?」
「誰が……ッ!」
と、ジンが覆い被さるように前のめりになると。
ゴウキは、いきなり彼の襟首を掴んで前に引き寄せた。




