第20節:代償の重さ
〈グリズリア・エータ〉という装殻は、非常に完成度の高い装殻である。
五種類のメタルジャケットを使い分け、格闘、近接、援護、狙撃、斥候を行う事が出来る。
また追加武装の種類を変える事で高熱、冷却、電撃に加えてジャミングやロッカスのブレードスラスターに類似した特殊兵装すら操る事が可能な、汎用型の装殻。
重装甲により飛行能力こそないものの、これ一つで歩兵の機能全てを網羅できる程の完成度を誇る装殻であるからこそ、マイナーチェンジされたベアードが米国で正式採用されている。
しかし、そうであるが故の欠点もある。
特化装殻に専門分野で劣る点と、コスト、それにジャケットの恩恵がない場合に機動力で劣る事。
零号装殻を相手にするのに、その欠点は致命的だ、とコウは思う。
全ての装殻のオリジナルである零号装殻は、自己進化を行う装殻であり、装殻者の意思と感情の高ぶりに合わせて己を最適化する装殻は、理論上、性能限界がない。
「出力解放……!」
狙撃から格闘形態へとジャケットを変更してコウに対応していたエータに対し、エネルギーを集中する段階で胸に一撃を喰らわせ、強制的にそれを中断させた。
遅い。
何もかも。
「出力解放継続……」
『要請実行ーーー限界機動継続』
コウが、瞬時に超知覚領域へと突入した。
『5』
最初の一撃。
爆轟銃剣を引き抜き、ニ閃の刺突でエータの両肩の機動補助機構を破壊し。
『爆轟』
最後の突きを胸元に突き込み、振動破壊を注ぎ込もうとするが、それは反応機動で同様に加速したエータの両腕に防がれた。
しかし、両腕のナックルガードは破壊されて破片を撒き散らす。
『4』
続いてコウは、全身を液化した。
絡みつくように腕を伸ばしてエータを締め上げると肉体を無数の極小針に変化させ、エータの装殻細胞一つ一つを破壊するように全身に突き立てる。
「出力解放!」
エータが吼え、液化による攻撃が深部に到達する前に全身にエネルギーを巡らせて遮断する。
コウは固執せず、エータの背後に肉体を再形成すると、頭上へ両腕を伸ばして背部にマウントされた破殻鎚砲を掴んだ。
そのまま、エータを叩き潰すように振り下ろす。
『3』
「剛鎚……!」
エータが咄嗟に前に踏み出すが間に合わず、鎚砲の打撃が、彼の背部外殻と機動補助機構を根こそぎ破壊して、こぞげとる。
「ぐ、ガァ……!」
装殻と人体は感覚を共有している。
実際に背中を抉られたような痛みを感じているだろうエータに、しかしコウは容赦なく追撃を放った。
ーーーオ前ガ、ユナニ与エタ痛ミハ、コンナモノデハナイ……!!
『2』
鎚砲を手放し、両腕に雷撃を纏わせたコウは、そのままこちらを振り向いたエータの頭を掴んだ。
「ギィガァああああッ!!」
極大電流を頭部に流し込まれては、幾らエネルギーフィールドを装殻と人体の間に形成していようと苦痛までは遮断できない。
それでも、コウの腹に蹴りを放つエータの動きに合わせて手を離し。
後ろに軽く下がったコウは、雷撃形態のもう一つの出力解放である極超加速を行った。
そのまま、身動き出来ないエータに拳のラッシュを降り注がせる。
拳の痕を刻まれながら、徐々に動きを鈍らせるエータ。
『1』
最後に顎を蹴り上げてエータを宙に浮かせ、コウは限界まで体を後ろに捻って、右の拳を握り込む。
最初に、黒の一号を想像して作り上げた己の。
シンプルにして、最も力を発揮できる、拳打を。
「―――《黒の一連》」
踏み込み。
体を瞬転させて解き放った拳は。
エータの腹に、完璧なタイミングで突き刺さった。
『0―――限界機動解除』
補助頭脳が、限界機動の終了を告げるのに合わせて、ボロクズのようになったエータが吹き飛んで地面を転がる。
コウはエータに歩み寄るとその頭を踏みつけた。
そのまま踏み殺そうと、足に力を込めたところで。
「エータ!」
声と共に襲い掛かって来たブレード・スラスターを、コウは両手でその腹を叩いて弾き返した。
「邪魔ヲ、スルナ……!」
煩わしい羽虫を先に始末しようと、コウは腰から再形成された銃剣を抜き放って跳ね、動きの鈍いラムダを叩き落とす。
「ッキャア!」
コウは墜落したラムダの前に着地すると、ラムダは今の攻撃で飛行装置が破壊されたのか、じりじりと腰を落としたまま後ろに下がる。
コウは、離れようとするラムダに無造作に近づくと、拳を構えた。
遠距離型の非力な装殻など、今のコウの相手ではない。
「出力解放」
『要請実行』
拳にエネルギーを込めたところで、ラムダが最後に残った一本のブレードスラスターを構える。
コウから見れば、隙だらけの構え。
「あんたなんかに……っ!」
ラムダは諦めていなかった。
これ程圧倒的な力量差を見せつけられて、まだ戦意を失わないその様に、コウは余計に苛立ちを覚える。
―――足掻クナ、邪悪メガ。
「あんたなんかに、負けるわけにはいかないのよ……! エータも、パイルも! 私たちは……!」
ラムダが跳ね起きて、コウに斬撃を繰り出す。
「私たちは、戻る……! 戻って、私たちの世界を……救うんだ!」
だが。
凄絶な決意と共に放たれた一撃も、コウにしてみればただの遅い攻撃でしかない。
ブレードを振るう手首を掴んで捻り上げると、そのままラムダの体を放り出した。
「―――《黒の拳打」
コウ、、ぐ、と身をたわめてラムダへと拳を繰り出した。
回避は出来ない。
「私は……!」
ラムダの声が、泣きそうな弱々しさで響くと同時に、コウの拳が突き刺さる。
間に飛び込んだ、ミツキの胸元へと。




