第19節:真実の欠片
「ヒルメ」
パイルは、ミツキを追う前にミカミの方を振り向いた。
「何ですかぁ~?」
険のある声に苦笑しつつ、パイルはマテリアル化を解除した青い球体をミカミに投げる。
受け取ったミカミは、息を詰めた。
「……これって」
「フリード・コントローラーだ。……お前用の、な」
「何で……」
「何で?」
パイルは、自分に良く似た装殻を纏う彼女を見て、少し苦い気持ちが胸の内に広がるのを感じながら、レールガン・システムを展開する。
「それが、俺が元の世界に戻ろうとした目的の一つだからだ」
パイルとミカミ……ケイタとヒルメは、恋人同士だ。
今となっては、かつて恋人同士だった……と言った方が正確かも知れないが。
共に、ニヒルに従って世界を救おうと装殻者になり、先にミカミが改造手術を受けた。
その結果、フリード・ハイクラスの制御に関する問題が発覚し、パイルの装殻にはフリード・コントローラーが組み込まれたのだ。
だが、ミカミのコントローラー開発は、決戦に間に合わなかった。
「何故、と訊くなら。俺も聞きたい。何故お前は、俺たちが裏切った、と、そう思った?」
あの決戦に、ミカミは参加していなかった。
襲来対母体を撃破する直前、時空震に巻き込まれたとは、パイルは思ってもいなかったのだ。
コントローラーの開発は、ルナがいなければ望めない。
だからこそ、パイルはルナにこちらでフリード・コントローラーの開発を願い、元の世界へと戻る方法を、強硬な策を打ってまで探っていたのだから。
第一の目的は、自らの世界を救う事だったとしても。
パイル個人の願い……大切なヒルメの命を繋ぎたいと望んだ事が、嘘だった訳ではないのだ。
「……私も、決戦の場に居たのよ」
「何!?」
ミカミが、いつもの間延びした口調ではなく真剣な声で言うのに、パイルは驚いた。
「ニヒルからの通信で。貴方がやられたと。私は……待っていられなかった」
「ニヒルが……? それはあり得ない」
「え?」
「あの時、俺が撃墜されたのは本当だ。だが、ニヒルはあの場にいなかった。あいつが来たのは、時空震の直前……それまでその場に居たのは、母体複製体に自らを偽装していたマザーだけだ」
「まさか……ならマザーが? でも、なら何で、こっちで私が貴方たちに接触しようとした時、貴方たちは私を攻撃したの!?」
「……そんな話は知らない。お前は、一体誰と接触した?」
ミカミは、少し躊躇ってから答えを口にする。
「……エータよ」
「エータ? あいつが、お前を……?」
パイルの胸に、疑問が過る。
彼はあの時の事を思い返した。
時空震が走る直前、襲来体母体は死んでいなかった。
パイルの窮状に気付いたニヒルとエータが、彼の元へ駆けつけて、追い詰めてはいたが……。
と。
そこでパイルの頭に、衝撃にも似た閃きが走る。
あの時、母体は追い詰められていた。
あと一撃で存在が消滅する、というくらいまで。
もし、仮に。
マザーもパイルたち諸共、転移していたとしたら?
そして、さらに思い出す。
ミツキの父、井塚カズキの死に際。
パイルはあの光景を、隠れて見ていた。
奴は言った。
自分は、マザーに寄生されていた、と。
同じ事が、エータにも起こっていたとしたら。
思い出せ。
誰だ、最初に黒の一号が原因だと言ったのは。
誰だ、最初にマザーが生きている可能性を示唆したのは。
誰だ、黒の一号を殺せば元の世界に還れると言ったのは。
誰だーーー《白の装殻》と《黒の装殻》が争うように、仕向けたのは。
「あの、野郎……!」
パイルは、知らず知らず拳を握って肩を震わせていた。
そして黙っているリリスに目を向ける。
彼女は、いつも通りの静かな佇まいで、パイルを見ていた。
「お前は……気付いていたのか? リリス」
「言ったはず。……私は、今のあなた達は嫌いだと」
そう、彼女は確かに言っていた。
自分たちに、再三、リリスは言っていたのではなかったか。
―――『黒の一号が原因だと、なぜ思うの?』と。
「はは……」
パイルの口から、乾いた笑いが漏れる。
「俺たちも、洗脳されてたのか……」
疑問にすら思わなかった。
リリスの言葉を、考えもせずに一笑に付した。
「俺たちを、よくも……」
パイルの空虚だった心に、ぽつりと火種が灯り。
瞬く間に、激怒の色に燃え上がる。
「よくもコケにしてくれやがったな! マザああああ……ッ!」
「ケイタ!」
ミカミの呼びかけに、パイルは答えなかった。
「出力解放! ―――〈対潜迫撃殻弾杭〉!」
レールガンシステムにより加速して撃ち出されたパイルは、ミツキを追う軌道で、エータの元へと一直線に向かった。




