第27節:黒と白
「……【アパッチ】と、連絡がつかない?」
ハジメは、ジンの報告に目を細めた。
《黒の装殻》だけを集めたミーティングの雰囲気は、今までとどこか空気が違う。
「ああ、カオリの回線が遮断されてる。今別ルートで人に探らせてるが……Mr.サイクロンを信用したのは、間違いじゃないのか?」
花立を横目に見てジンが言うが、花立は表情を変えなかった。
触れたら切れそうな雰囲気に、新参者のミツキは居心地が悪くなって身じろぎした。
「花立さんの判断にケチをつけるの?」
ケイカも、どこか表情が固いまま突っかかる。
「ケイカ。ジンはそれを調べているんだ。……喧嘩は止せ」
ハジメの言葉に、ジンとケイカは口を閉ざした。
「準備自体は整っているんだろう? 花立」
「ああ、こちらはいつでも動ける。《白の装殻》も呼び、概要を説明した。今はアイリと面会している」
その名前に、ジンがぴくりと肩を震わせた。
ジンに避けられている、と、アイリが溢していたのを、ミツキは思い出す。
何か理由があるのだろうかと、ミツキは今は関係のない事が気になった。
「アイリか……ゴウキさん。彼女は今、装殻化出来ないと聞いていますが、どんな事情が?」
ハジメの質問に、それまでつまらなそうに黙っていたゴウキが投げやりに答えた。
「簡単なこった。霊号の魂と装殻心核は本来一つのもんで、アイリのコアは今の主人をマサトだと認識してる。そもそもの持ち主でもあるし、コアが復帰した時もあいつの人格が表だった。今装殻化すると、霊号としてマサトの人格が引きずり出される。せっかく自分を封印してアイリの魂を元の状態に定着させようとしてるのに、それがおじゃんになっちまうんだよ」
「いつ頃元に戻るか、分かりますか?」
「さーな。怪我と一緒で、治りには個人差がある。長い時間を掛けて変わったモンだし、同じくらい掛かるかもな」
「……それだと、間に合わない」
ぼそりと言うジンに、何を思っているのかゴウキが皮肉げに口の端を上げる。
「間に合うさ。霊号は最後、どうせ死ぬんだ。最後にアイリの人格が霊号でありさえすれば良いだろ」
「……ゴウキさん」
「何だよ。間違ってねーだろ?」
嗜めるハジメに、ゴウキは顎を上げて下唇を突き出した。
そのピリピリとした空気に耐えきれなくなったミツキは、話題を戻すために口を開く。
「その、【アパッチ】と連絡が付かないと、何かマズいんすか?」
「備えが遅れはするが、マズいという程ではない。戦局としては、だが」
「素直に言えよ。見捨てる人間が増えるってな」
どこか含みのある物言いのハジメに、ゴウキが再度茶化す。
さっきから、ゴウキはわざと皆を怒らせようとしているかのように見える。
しかし、誰かの感情が爆発する前に。
そのゴウキが、顔を天に向かって跳ね上げた。
全員が、鋭いその仕草に注目すると、ゴウキは歯を軋るほど噛み締めながら顔を凶暴な笑みへと歪めた。
「来たぜ……!」
ぞくり、と背筋を撫でる冷たさの声に、ミツキが質問を返す前に。
装技研の中に、警報が鳴り響いた。
※※※
「ええと……少尉とミチナリさん以外は、はじめまして? かな」
紹介された《白の装殻》の面々は、アイリの言葉にそれぞれの反応を見せた。
巌のような大男、ミチナリは一つ頷いて。
鋭い目に軽薄な雰囲気を持つケイタは、観察するようにまじまじと。
縁なし眼鏡にスーツ姿のミカミは、安堵とも落胆とも取れない顔で。
ゴスロリシスター風の服にお下げの少女、リリスはまるで変わらない。
そしてロリータファッションに大きめの白衣を羽織ったルナは、深く俯いた。
「ニヒルは……出てこないのね」
ルナがぽつりと言い。
「うん」
アイリは、マサトの事だろうと思ってうなずいた。
「記憶が戻った……って」
「みたいだね。でも、僕からマサトの記憶は覗けないんだ。……なんかごめん」
会ったは良いものの、ぶっちゃけ初対面のアイリには感慨もない。
彼らが異界の零号の使徒で、マサトと共に戦った人物らである事は話を聞いて理解していた。
だが、ケイタはともかく、ミチナリはユナのコアに関する話を持ってきた人物であまり良い印象もない。
「そういえば、少尉生きてたんだね。初対面の時と印象が全然違うけど」
「あぁ……前に会った時は肩凝るような少尉サマの演技中だったなぁ、そういや」
唯一知り合いと呼べるケイタに水を向けると、彼は応じてくれた。
「今代のニヒル……かぁ。記憶喪失から引きこもりされちまうと、流石に頭に来るな」
「そうですね。話くらいは出来ると思っていたので」
ケイタとミカミが、俯くルナを見ながら言うのに、アイリは瞬時に事情を察した。
「ルナ、マサトが好きなの?」
その発言は、どうやら爆弾だったようで、アイリ以外の全員が固まる。
―――あ、マズった?
アイリは思うが、時既に遅く。
「……私が、ニヒルを?」
ゆら、と顔を上げたルナは、凍りつくような無表情だった。
そんな顔をしていると、黒髪と金髪の違いはあるが横のリリスにそっくりだった。
「バッカじゃないの。好きな訳ないし。勝手に死んで次に会ったら記憶喪失で、記憶戻ったら引き込もって私の顔を見て話をしようともしないフザケタ男なんかちっともこれっぽっちも全然全く欠片たりとも好きじゃないし気になんかしてないし泣きたくなんかなってないし生きてる時から素っ気なかったしあんな自分勝手な奴私が気にかけてやる必要が一体どこにあるの?」
「……無呼吸早口で、噛まずにそこまで言えるのはスゴいと思う」
ズレた所で感心してしまうアイリ。
そんなアイリを見て、リリスが納得したように微かに眉根を寄せた。
「……能天気さはニヒル譲り?」
「あの野郎もボケだったからな」
リリスの言葉に、ケイタが頷いた。
「……なんか僕の知ってるマサトとイメージが違う」
少なくとも、マサトは能天気でもボケでもなかった。
しかしそんなアイリに、ルナとミチナリがそれぞれに言った。
「真顔でボケるから始末に負えないのよね。誰かさんより強力なボケがいたのかもしれないわ」
「……能天気で居られないかったんだろうな。より能天気そうに見えるからな」
「あれ、なんか僕バカにされてる?」
アイリの質問に、ミチナリたちは答えなかった。
なんとなく納得いかない感じにそこはかとない懐かしさを覚えつつも、さらに反論しようとマサトが口を開きかけた所で。
轟音と襲撃警報が装技研内に鳴り響いた。




