第七章 崩壊、そして
嘉浩の証言と記録は、県の監査にとって決定的な証拠となった。「希望の灯」は複数年にわたり、行政や複数の民間財団から総額一億円を超える助成金・委託費を不正に受給していたことが発覚した。廣瀬真子は業務上横領および補助金適正化法違反の疑いで逮捕された。
ニュースはそれを大きく報じた。「善意の仮面をかぶった福祉ビジネスの闇」――そんな見出しが並んだ。取材陣が嘉浩のアパートにまで押しかけてきたこともあった。
嘉浩は複雑な思いを抱えていた。廣瀬に裏切られたという怒りと同時に、初めて自分を「必要な人間」だと思わせてくれた相手を告発したという罪悪感。幻聴が悪化し、しばらくは通院の頻度を増やさざるを得なかった。
だが、支えてくれる人もいた。ケースワーカー、そして――坂上カナだった。
「あんたは、正しいことをしたんだよ」
カナは嘉浩の手を握って、そう言った。
「金や恩に流されずに、本当のことを言えるやつなんて、そうそういない。あんたは、私が思ってた通りの人だった」
その年の冬、カナは静かに息を引き取った。享年八十八。葬儀に参列したのは、嘉浩とわずかな親戚、そして地域の民生委員だけだった。
数ヶ月後、嘉浩のもとに一通の書類が届いた。カナが生前、公証役場で作成していた遺言書の写しだった。そこには、こう記されていた。
「私の全財産を、松央嘉浩に遺贈する」
家、土地、そして生前カナが繊維問屋時代から堅実に運用してきた金融資産。合わせて、およそ三億二千万円――嘉浩にとっては、想像もしたことのない金額だった。




