第五章 崩れていく灯
秋になり、「希望の灯」を巡る雲行きが怪しくなり始めた。
利用者の一人、刑務所帰りの男・田村が、ある夜、嘉浩の部屋を訪ねてきた。酒の匂いをさせながら、田村は苛立った様子で言った。
「なあ松央、お前も薄々気づいてるだろ。あの女、俺たちを使って助成金を吸い上げてるんだよ。俺たちの工賃、ちゃんと払われてると思うか? 帳簿上はもっと払ったことになってるらしいぞ」
田村の話によると、「希望の灯」は複数の行政・財団から重複して助成金や委託費を受け取り、実際の利用者数や活動実績を水増しして申請していたという。さらに、利用者の個人情報を使って、本人の知らないところで別の福祉サービス事業者に名義を貸すような不正まで行われていた疑いがあった。
「俺、証拠になりそうな書類、何枚か持ち出してきた。でも俺一人じゃ、どうにもできない。お前、事務作業やってるだろ。詳しいこと知らないか」
嘉浩の頭の中で、あの日感じた違和感が、はっきりとした輪郭を持ち始めた。二重計上されていた書類。廣瀬の一瞬の強張った表情。
「……知ってる。書類、見た」
その一言に、田村は身を乗り出した。
「マジか。なら――」
「でも」
嘉浩は遮った。
「廣瀬さんは、俺に……初めて、必要とされてるって、思わせてくれた人なんだ」
その言葉に、嘉浩自身が戸惑っていた。恩と、正しさ。生まれて初めて感じた居場所と、その居場所が土台から腐っていたという事実。頭の中で幻聴のようなざわめきが強くなり、嘉浩はこめかみを押さえた。
「……頭、痛い。今日は、帰ってくれ」
田村は舌打ちして帰っていった。その夜、嘉浩はほとんど眠れなかった。




