第四章 カナさんとの出会い
その頃、「希望の灯」は新しい事業として、高齢者の見守り訪問サービスを始めていた。利用者の就労実績作りの一環として、嘉浩は週に二回、中村区の外れに住む一人暮らしの老女、坂上カナの自宅を訪ねることになった。
カナは八十七歳。夫を早くに亡くし、子供もいない。若い頃は繊維問屋を営み、羽振りが良かった時期もあったというが、今は古い平屋にひっそりと暮らしていた。
初めて訪ねた日、嘉浩はどう話しかけていいか分からず、玄関先で立ち尽くしていた。カナはそんな彼を見て、くすりと笑った。
「あんた、口下手だね。まあ、お入り」
嘉浩はカナの家の庭木の剪定を手伝ったり、買い物の付き添いをしたりするようになった。会話は多くなかったが、カナは嘉浩の不器用さを咎めることなく、ただ静かに受け入れてくれた。
「あんたみたいな人は、嘘がつけないんだね。今どき珍しい」
ある日、縁側でお茶を飲みながら、カナがぽつりと言った。
「私にはね、身寄りがないんだよ。この家も、貯めてきたものも、死んだらどうなるのか分からない。国に持っていかれるくらいなら、誰かちゃんとした人にあげたいと思ってたところさ」
嘉浩は返す言葉が見つからず、ただ湯呑みを両手で包んでいた。金の話をされても、実感が湧かなかった。それよりも、カナが自分に見せてくれる、屈託のない笑顔の方が、嘉浩には大切だった。




