みんなと作ろう3
焼き上がったパウンドケーキが少し落ち着くと、料理人たちはそれを切り分け、皿に並べた。
愛菜はそのうちの一皿を持ち、エドワードとリベットの待つ部屋へ向かう。
「お待たせしました。料理人の皆さんと一緒に作ったパウンドケーキです」 「ついに完成したのだね」 「一週間、楽しみに待っていたのよ」
二人はさっそく一切れずつ口に運んだ。
エドワードはひと口食べると、ゆっくりとうなずく。
「前に食べたものより、香りが深いね」 「ドライフルーツが生地によくなじんでいるわ。しっとりしていて、とてもおいしい」
前回のケーキも気に入ってくれていたけれど、今回はラム酒に漬け込む時間をかけたぶん、風味に違いが出ていた。
「時間をかけると、こんなに変わるんだね」 「はい。ドライフルーツにラム酒の香りがなじむので、味にまとまりが出るんです」
愛菜が説明すると、二人は感心したように顔を見合わせた。
「料理人たちも、無事に作り方を覚えてくれたそうだね」 「はい。皆さん、すごく丁寧に作ってくれました」 「それは嬉しいことだ。これから本邸でも作ってもらえるのだろう?」 「もちろんです。材料があれば、いつでも作れますよ」
エドワードは、厨房で真剣に取り組んでいた料理人たちの様子を思い出すように笑った。
「新しい菓子を覚えてくれたのは、私たちにとっても喜ばしいことだ。ありがとう」 「こちらこそ、皆さんと一緒に作れて楽しかったです」
しばらくケーキを味わっていたリベットが、ふと思い出したように愛菜を見た。
「よかったら、そのレシピをうちに譲ってもらえないかしら」 「レシピを、ですか?」 「ええ。料理人たちがいつでも見返せるようにしておきたいの」
愛菜は少し驚いたものの、すぐに笑顔でうなずいた。
「もちろんです。喜んでお渡しします」 「本当に?」 「はい。皆さんが作ってくれるなら、レシピもきっと喜びます」
後日、愛菜は今回のドライフルーツの物や基本的なパウンドケーキの材料と手順をまとめたレシピを本邸へ持っていった。
ドライフルーツのラム酒漬けの作り方も添え、漬け込みに時間がかかることや、生地に加えるときの注意点も書き添える。
料理人たちはレシピを受け取ると、熱心に目を通した。
「これで、いつでも作れますね」 「はい。作るうちに、皆さんの厨房に合ったやり方も見つかると思います」
愛菜はそう言って、彼らにレシピを託した。
それから愛菜は、また工房兼住居での日々に戻った。
朝は窓を開けて空気を入れ替え、お茶をいれる。
工房で好きなものを作ったり、暮らしやすいように少しずつ手を入れたりする。
お腹が空けば、使い慣れてきた台所で自分の食べたいものを作った。
ときおり、本邸の料理人たちから「今日はこんなふうに焼けました」と報告を受けることもあった。
「前よりふっくら焼けるようになりました」 「ドライフルーツの量を少し変えてみたんです」
そんな話を聞くたび、愛菜は自分のレシピが本邸の暮らしに溶け込んでいくのを感じて、嬉しくなった。
感謝の気持ちを込めた一台のパウンドケーキ。
それが、料理人たちの新しい楽しみになった。
愛菜は今日も、いつものように工房で手を動かす。
窓から入る穏やかな光のなか、自分らしい暮らしは静かに続いていった。




