好きな事
工房兼住居での暮らしにもすっかり慣れ、愛菜は久しぶりに穏やかな日々を過ごしていた。
朝は窓を開けて空気を入れ替え、お茶をいれる。
食事を作り、必要なものを整えたら、あとは自分の好きなことをする。
そんなある日、棚の奥にしまっていた道具箱を見つけた。
「あ……これ、ずっと出せてなかったな」
中には、布や糸、細かな道具がきれいに収められていた。
この世界に来てからは住まいを整えたり、生活に必要な物をそろえたりするのに忙しくて、好きだった人形作りやドールハウス作りにはなかなか手をつけられずにいた。
けれど、今なら時間もある。
「よし。久しぶりに作ろう」
愛菜は作業台を片づけ、道具を並べた。
最初に作るのは、手のひらに乗る小さな人形。
その次は、両手で抱えられるくらいの人形。
そして、その子たちと一緒に遊べる大きめの人形も作ってみたい。
大きさが違えば、顔の描き方や髪のつけ方、服の形も少しずつ変わる。
「この子には、ふんわりした髪が似合いそう」
布を切り、形を整え、縫い合わせていく。
顔をつけるときは、少し緊張した。
目の位置を決め、表情を描き入れると、無地だった人形に命が宿ったように見える。
「うん、かわいい」
愛菜はできあがった人形をそっと手のひらに乗せた。
一体できると、もう一体作りたくなる。
髪の色を変えたり、目元の印象を変えたり、服をワンピースにしたり、上着を着せたり。
作業台の上に、少しずつ個性の違う人形たちが増えていった。
人形ができたら、次はその子たちが暮らす場所が欲しくなる。
「この子たちのお部屋も作りたいな」
愛菜は人形の大きさを確かめながら、ドールハウスの設計を始めた。
大きな人形が使う部屋は、家具も少し大きめに。
小さな人形のためには、細かな家具をそろえる。
小さな椅子。
机。
棚。
ベッド。
ひとつずつ形を作り、置いてみては高さを調整する。
「この椅子、ちょっと大きいかな……」
そう思えば、魔法で少しだけ縮めたり、角を丸くしたりする。
直した家具をドールハウスに置くたび、部屋が少しずつ整っていった。
人形に合う小物も作った。
小さなカップや本。
かごやクッション。
テーブルの上に置く食器まで、ひとつずつ手を加える。
完成した部屋に人形を座らせると、愛菜は自然と笑顔になった。
「ここで遊んでいるところ、かわいいだろうな」
人形作りを楽しんでいるうちに、愛菜は自分で使う小物も作りたくなった。
まずは巾着。
布の組み合わせを考え、使いやすい大きさに縫い上げる。
次はシュシュ。
髪につけたときの雰囲気を考えながら、色や布のやわらかさを選んだ。
「これは普段使いしやすそう」
できあがったシュシュを手首に通してみる。
派手すぎず、けれど地味でもない。
ちょうどいい仕上がりに、愛菜は満足そうにうなずいた。
人形の服を作る細かな作業と、巾着やシュシュのような普段使いの小物作り。
どちらも楽しくて、作業台の上には少しずつ作品が増えていく。
夕方になっても、愛菜は作業をやめたくなかった。
けれど、無理をせず、道具を片づけてからお茶をいれる。
今日作った人形たちを棚に並べ、ドールハウスの小さな家具を眺めた。
生活を整えるために始めた工房兼住居は、いつの間にか、好きなものを作るための場所にもなっていた。
「やっぱり、作るのって楽しいな」
人形も、ドールハウスも、巾着も、シュシュも。
手を動かすたびに、自分らしい時間が戻ってくるようだった。
窓の外が夕暮れ色に染まるころ、愛菜はできあがった小さな人形を棚に飾った。
明日は、この子に合う鞄を作ろう。
それから、ドールハウスの食卓に置く小さなケーキも。
そんなことを考えながら、愛菜は穏やかな笑みを浮かべた。




