みんなと作ろう
飴を渡した日の昼過ぎ。
工房兼住居で片づけをしていた愛菜のもとへ、本邸から使用人がやって来た。
「愛菜様、エドワード様がお呼びです」 「私ですか?」 「はい。お時間がありましたら、本邸へとのことです」
急な呼び出しに愛菜は少し首をかしげたが、断る理由もない。
「わかりました。すぐに行きます」
軽く身なりを整えてから、本邸へ向かった。
通された部屋では、エドワードとリベットがそろって愛菜を待っていた。
「ああ、来てくれたね」 「突然ごめんなさいね」 「いえ、大丈夫です。何かありましたか?」
そう尋ねると、エドワードが機嫌よく笑った。
「君がくれたパウンドケーキが、とてもおいしくてね」 「え」 「料理人にも食べさせてみたんだが、ぜひ作り方を知りたいと言っているんだ」 と、リベットも続けた。
愛菜はぱちぱちと瞬きをしたあと、小さく笑った。
「そういうことでしたか」 「本邸でも出せたら喜ばれそうだって話になってね」 「もちろん、レシピを教えるのは大丈夫です」 「本当かい?」 「はい」
自分の作ったものをそこまで気に入ってもらえたことが、愛菜には素直に嬉しかった。
けれど、すぐに焼けるわけではない。
「ただ、一度で全部というより、何日かに分けたほうがいいと思います」 「何日かに分けて?」 「はい。昨日お渡ししたものは、時短で作ったドライフルーツのラム酒漬けを使ったんです。でも、料理人の方にちゃんとお教えするなら、最初からきちんと作るほうがいいので」
リベットが興味深そうにうなずく。
「つまり、仕込みから始めるのね」 「そうです。まずはドライフルーツをラム酒に漬けて、それをしっかりなじませてから使います」 「どれくらい時間がかかるんだい?」 「少なくとも一週間は見たほうがいいです」
その言葉に、エドワードは少し驚いたようだった。
「一週間か」 「でも、そのぶん香りも味もよくなります。教えるなら、そのやり方のほうがいいと思います」 「なるほど。きちんとした作り方をというわけだね」 「はい」
エドワードは納得したようにうなずいた。
「では料理人にそのように伝えよう」 「明日からでも始められます」 「助かるよ」
本邸を出たあと、愛菜は工房兼住居へ戻った。
教える相手が本邸の料理人なら、なおさら準備はしっかりしておきたい。
「焼き型とか、説明しやすいようにそろえておこうかな」
愛菜はホームセンターで、焼き型や混ぜるための道具を買い足した。
作業を見せながら説明しやすいよう、必要なものをひとつずつ確認していく。
「うん、これなら大丈夫そう」
材料や道具がそろうと、翌日の流れも考えやすくなった。
最初に材料を確認する。
次にドライフルーツを刻む。
それからラム酒に漬ける。
初日はまず仕込みだけ。
そのほうが料理人にも伝わりやすいはずだ。
翌日。
愛菜は必要な道具を持って、本邸の厨房へ向かった。
広い厨房には、すでに本邸の料理人たちが集まっていた。
いつもの仕事場であるはずなのに、今日はどこか落ち着かない空気がある。
その中で、一番年長らしい料理人が一歩前へ出た。
「本日はよろしくお願いいたします」 「こちらこそよろしくお願いします」
愛菜は少し緊張しながらも、きちんと頭を下げた。
人に教えるのは嫌いではない。
けれど、相手は毎日厨房に立っている料理人たちだ。
いい加減なことはできない。
「今日はまず、ドライフルーツのラム酒漬けを作ります」 「昨日の菓子に使われていたものですね」 「はい。でも昨日のものは時短でした。今回はきちんと一から作るので、焼けるのは一週間後になります」 「なるほど」
料理人たちは真剣な顔で聞いている。
愛菜は持ってきた材料を並べながら説明を始めた。
「まず、使うドライフルーツの大きさをそろえます。大きすぎると生地の中で偏りやすいので、適度に刻んだほうがなじみやすいです」 「ふむ」 「それから容器に入れて、ラム酒を加えます。全体にしっかり回るようにしてください」
料理人たちはうなずきながら、手元を見ている。
愛菜は実際に刻って見せ、それから一緒に作業へ移った。
「こういう感じで大丈夫です」 「思ったより細かくするのですね」 「はい。そのほうが切ったときにもきれいですし、味もなじみやすいです」
広い厨房で、何人もの料理人と並んでドライフルーツを刻む時間は、愛菜にとって少し不思議なものだった。
けれど、相手が真剣に聞いてくれるので、自然と説明にも力が入る。
「漬ける酒の量は、少なすぎてもだめです。全体に行き渡るくらいひたひたにしてください」 「保存はどうされますか」 「蓋のできる容器で大丈夫です。あとは置いて、なじむのを待ちます」
やがて仕込みが終わり、いくつもの容器が並んだ。
料理人のひとりが、並んだ容器を見ながら感心したように言った。
「これがあの味につながるのですね」 「はい。時間をかけたほうが、香りも落ち着いて生地になじみます」 「勉強になります」
愛菜は少し照れながら笑った。
「今日はここまでです。ラム酒を置いておくので、ドライフルーツがラム酒から出ていたら継ぎ足してください。次は一週間ほど置いてから、生地に入れるところを一緒にやりましょう」 「よろしくお願いいたします」 「こちらこそです」
本邸の料理人たちは礼儀正しく頭を下げた。
工房でひとり好きなものを作っていたはずなのに、いつの間にかこうして人に教える立場になっている。
そのことが少し不思議で、でも悪くない気分だった。
愛菜は並んだ容器を見つめながら、一週間後にはまたここで甘い香りが広がるのだろうと思い、そっと目を細めた。
パウンドケーキ焼き型10個 7980ニウム
保存用瓶5個 8800ニウム
ラム酒5本 12900ニウム
ドライフルーツ5袋 3980ニウム
計33,660ニウム
残金
54,763,641ニウム




