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巻き込まれたアラフォー20歳若返る  作者: 虎太郎


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家電を魔改造

翌朝。


 山口愛菜は工房兼住居の作業台の前に立ち、腕を組んで考え込んでいた。


 生活できる環境はひとまず整った。

 食事もどうにかなった。

 けれど、日本から持ってきた便利な家電は、まだほとんど使えないままだ。


「どうにか使えるようにしたいんだけどなあ」


 そうつぶやきながら室内を見回したとき、愛菜の目が壁際のランプに留まった。


 この世界では、灯りに魔石を使う。

 火ではなく、魔石から力を引き出して明かりをともしているのだ。


「あ」


 愛菜はふっと目を見開いた。


「魔石を使えば、家電も動かせるかも」


 思いついた瞬間、胸が高鳴る。


 魔石の力をうまく使って、日本の家電が動く形へ変換できれば。

 この家での暮らしは一気に便利になるはずだ。



 とはいえ、いきなり大事な物から試すのは怖い。


 もし失敗して壊れても、まだ被害の少ない物がいい。


「最初は電気ケトルかな」


 愛菜はアイテムボックスから電気ケトルを取り出し、作業台の上へ置いた。


 それから、ランプの構造を思い出しながら、魔石の力を受ける部分と、それを家電に合う形へ変える部分を考えていく。


 足りない部品は魔法で作る。

 内部のつながりも、壊さないよう慎重に確認しながら整えていく。


「ここで受けて、こっちで流れを落ち着かせて……たぶんこれでいけるはず」


 細かな調整を何度も重ねてから、愛菜はそっと魔石をはめ込んだ。


 少し緊張しながら様子を見る。


 すると、電気ケトルがきちんと反応した。


「えっ」


 思わず身を乗り出す。


 さらにじっと見守る。

 異音はない。

 おかしな匂いもしない。

 そして少しずつ中の水が温まり始める。


「ほんとに動いた……!」


 やがて湯が沸き、きちんと止まったところで、愛菜は顔を輝かせた。


「やった!」




 成功を確かめると、愛菜はその湯でお茶をいれた。


 湯気の立つカップを手に、小さな机に座る。


「はあ……」


 ひとくち飲むと、ほっと肩の力が抜けた。


 ちゃんと動いた。

 壊れなかった。

 思いつきが、本当に形になった。


「これなら、ほかの家電もいけそう」


 嬉しくなって次に手を伸ばしかけたところで、愛菜はふと気づく。


 使った魔石は、さっき外して借りたランプの物だけだ。


「……あれ」


 愛菜はカップを置いて、電気ケトルと魔石を見比べた。


「魔石、これ一個しかないんじゃ、次ができない」


 家電をいくつも動かすなら、当然それだけ魔石が必要になる。

 ひとつずつ付け替えて使うのでは、さすがに不便すぎる。


「どこで売ってるんだろう」




 愛菜はすぐに立ち上がり、本邸へ向かった。


 玄関先で使用人に声をかけ、エドワードたちの都合をうかがう。

 ほどなくして通された先で、愛菜は少し遠慮がちに切り出した。


「あの、魔石ってどこで手に入りますか」


 エドワードは少し意外そうに目を瞬かせた。


「魔石?」 「はい。工房のランプを見ていて、生活の中で使うのに便利そうだなと思って」 「なるほど」


 細かな事情までは言わないままでも、そこは特に不自然ではなかったらしい。


 エドワードは軽く考えてから言った。


「街でも買えるが、うちにも予備があるよ」 「えっ」 「ランプや簡単な道具に使う分なら、いくらか余らせてある」 「そうなんですか」


 愛菜が目を丸くすると、リベットがやわらかく微笑んだ。


「必要なら使っていいわよ。古いものや余っているものもあるし」 「いいんですか?」 「もちろんだとも」


 エドワードもあっさり頷く。


「どうせ保管してあるだけの物もある。必要な分を持っていくといい」 「ありがとうございます」


 思っていた以上にあっさり譲ってもらえて、愛菜はほっとした。




 余っている魔石をいくつか受け取って工房兼住居へ戻るころには、愛菜の足取りはかなり軽くなっていた。


「これで続きができる」


 まずは電気ケトルに使った仕組みをもとに、次の家電へ取りかかる。


 炊飯器。

 電子レンジ。

 冷蔵庫。

 どれも日常生活ではかなり重要だ。


 愛菜は改造のたびに、魔石の力を受ける部品を魔法で作り、内部へなじませるように整えていく。


 炊飯器と電子レンジは、うまく動けばかなり便利になる。

 米が安定して炊けるだけで、いつでも温めなおせるだけで食生活の安心感が違う。


「これは絶対使いたいんだよね」


 慎重に調整して、無事に動いたとき、愛菜は満足そうに頷いた。


 冷蔵庫はさらに慎重だった。

 途中で止まったら困るからこそ、力の流れが不安定にならないよう何度も確かめる。


 時間はかかったが、どうにか冷え始めたのを見て、愛菜はようやく肩の力を抜いた。


「よかった……本当によかった」




 家電の改造が進むうちに、愛菜は部屋の明かりにも手を入れたくなった。


 この世界のランプでも暮らせる。

 けれど、夜に作業するには少し心もとない。


「もうちょっと明るくしたいよね」


 そこで愛菜は、ランプ型のLEDライトを取り出した。


 見た目はこの世界の灯りになじむ形のものを選び、中身だけを魔石で動くよう改造していく。


 ここでも魔法が活躍した。

 必要な部品を作り、内部を傷めず整え、力が自然に流れるように組み直す。


 いくつか仕上げて部屋に置くと、夜になったときの明るさは見違えるほど変わった。


「すごい……」


 住居スペースも。

 工房側も。

 今までよりずっとはっきり見える。


 これなら日が暮れてからも不便が少ない。

 手元の作業もしやすいし、食事の支度も片づけも楽になる。




 その日の終わり、愛菜は明るくなった部屋の真ん中に立ち、ぐるりと見回した。


 お湯が沸かせる。

 ごはんが炊ける。

 温めなおすことができる。

 食材を冷やしておける。

 夜でも明るく過ごせる。


 昨日までとは比べものにならないほど、生活が便利になっている。


「いいなあ……」


 思わず、しみじみと声が漏れた。


 最初はランプを見て思いついただけだった。

 けれど、そのひらめきがここまで形になるなんて、自分でも少し驚いている。


 しかも本邸に余っていた魔石を譲ってもらえたおかげで、思ったよりずっと早く進めることができた。


 愛菜は満足そうに笑った。


「これで、かなり快適になったかも」


 工房兼住居は、もうただ寝起きするための場所ではない。

 愛菜の工夫と魔法で、少しずつ理想の暮らしに近づいていく場所になっていた。

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