第五十話 インキュと夢に逃げる理由
標準語の、ふわりとした、気配。
インキュバス・インキュ。
インキュ
「俺は」
「夢オチ専門なんだ」
「現実が、ちょっとつらくなると」
「『これは夢でした』って、オチをつけて」
「逃げるんだ」
四郎
「便利な能力だな」
インキュ
「便利、なんだけどさ」
「……」
「最近」
少し、声が、沈む。
「現実の問題から」
「ずっと、夢の世界に、逃げてるだけなんじゃないかって」
「思うようになって」
ドゴォォォォォォン!!
【現実逃避結界】
発動。
世界中で。
「つらい現実から、目を逸らしたくなる」という逃避欲求が、強まる。
『嫌なことがあると、考えないようにする』
『現実より、空想の方が、楽しい』
『問題を、先送りにし続けている』
四郎の心にも、その逃避欲求が、染み込む。
HP
33000000
↓
17000000
インキュ
「俺はさ」
「……」
「現実で、傷つくのが、怖いんだ」
「……」
「だから」
「夢の中なら」
「安全だと思って」
「……」
「ずっと、そこに、逃げ込んでた」
四郎は、考えた。
これは。
ダメダメ影とも、少し似ているが。
インキュの場合は、「逃げる場所がある」という点が、違っていた。
四郎
「インキュ」
「……」
「夢に逃げるのは、悪いことじゃないと思う」
「……」
「でも」
「たまには」
「夢から、ちょっとだけ、顔を出してみないか」
「……」
「現実も、悪いことばかりじゃ、ないと思うから」
静寂。
インキュの、ふわりとした輪郭が、わずかに、はっきりした。
四郎の胸の七つの傷が、輝く。
ドクン。
ドクン。
笑界編・第五十奥義。
湿拳・現実に顔出し拳
効果。
『現実逃避を完全に否定せず、少しずつ現実と向き合う力を育てる』
『逃げ場があることを認めつつ、戻ってくる勇気を与える』
四郎
「行くぞ!」
インキュ
「俺、現実が、怖いんだ!」
四郎
「少しずつでいい、顔出してみろぉぉぉぉぉ!!」
ズガァァァァァァァァァン!!
直撃。
世界が光る。
インキュの姿が、ゆっくりと、現実の輪郭を、取り戻していく。
インキュ
「俺……」
「……」
「ちょっとだけ、現実、見てみるよ」
ぽたり。
ぽたり。
どばぁぁぁぁぁぁ!!
湿拳洪水発生。
【インキュを浄化した】
経験値+410
笑石のかけら獲得
称号獲得
『現実に顔を出した者』
四郎
「五十体目……!」
ヌラリ翁
「おお、五十体じゃ」
四郎
「ようやく、半分以上……」
ヌラリ翁
「あと、二十六体じゃな」
「悪魔区は、もう少しじゃ」
任侠口調の、色気のある声が、響いた。
サキュバス・サキ
「あら、お兄さん」
「あたしの相手、できるかしら」
「……でも、本当は、色気で誤魔化さなきゃ、誰も振り向いてくれないんじゃないかって、不安なのよ」




