第四話 ネクロと沈黙の理由
暗闇だった。
何も見えない。
四郎
「うわっ、何も見えない!」
七海(電話越し)
「四郎、状況は」
四郎
「真っ暗! 声も出せない雰囲気!」
七海
「出せばいいじゃん」
四郎
「いや、なんか出しちゃいけない気がする……」
闇の中。
ネクロの気配だけが、近づいてくる。
足音もない。
息遣いもない。
ただ。
存在だけが、迫ってくる。
ドゴォォォォォォン!!
【無言結界】
発動。
世界中で。
言葉が、出なくなった。
『大丈夫?』
と聞きたいのに。
声が出ない。
『助けて』
と言いたいのに。
声が出ない。
『ありがとう』
と伝えたいのに。
声が出ない。
四郎も。
口を開けた。
だが。
何も。
出てこない。
四郎
「(……声が出ない!)」
恐怖だった。
今までの敵は。
言葉で攻めてきた。
だが。
ネクロは。
言葉を、奪ってきた。
HP
40000000
↓
10000000
四郎は、必死に思い出す。
なぜ。
ネクロは。
言葉を使わないのか。
その時。
闇の中に。
小さな映像が浮かんだ。
ネクロの記憶らしきもの。
昔。
ネクロが。
何かを必死に話している。
だが。
誰も。
聞いていない。
笑われている。
『何言ってるか分かんない』
『つまんない』
『黙れよ』
その言葉たちが。
ネクロの周りを、何度も、何度も巡る。
四郎は。
理解した。
ネクロは。
言葉を捨てたんじゃない。
言葉に。
裏切られたんだ。
四郎の胸の七つの傷が。
声の出ない中で、激しく疼く。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
四郎は、声を絞り出そうとする。
だが、出ない。
それでも。
四郎は。
口を、動かした。
声にならない。
それでも。
動かし続けた。
『お前の』
『コント』
『見たい』
声にならない言葉。
だが。
ネクロには。
伝わったようだった。
闇が、わずかに、揺れる。
四郎は、続けて。
身振り手振りで、伝える。
言葉じゃなくても。
伝わるものがあると。
そのことを。
自分自身が、証明しようとした。
その瞬間。
七つの傷が。
無言のまま、最大の輝きを放つ。
ドクン。
笑界編・第四奥義。
湿拳・無言伝達拳
効果。
『言葉を使わずに、想いを伝える』
『沈黙そのものを、コミュニケーションにする』
四郎は、拳を構えた。
声を出さずに。
ただ。
まっすぐ、ネクロに向かって。
歩いた。
ズン。
ズン。
ズン。
そして。
拳を、そっと、ネクロの胸に当てた。
ズガッ。
派手な音はしなかった。
ただ。
静かに。
響いた。
闇が、晴れていく。
ネクロの輪郭が、少しずつ、はっきりしてくる。
そして。
初めて。
ネクロが、声を出した。
「……ありがとう」
四郎
「(しゃべれるんかい!)」
声には出さなかったが、顔がそう言っていた。
ネクロは、少し笑った。
「ワイ、本当は」
「……」
「しゃべるん、好きやったんや」
四郎
「(やっぱり関西弁やんけ!)」
ネクロ
「でも、怖くなってもうて」
「……」
「黙る方が、楽やった」
四郎は、頷いた。
「分かるよ」
「……」
「でも、もう一回くらい、しゃべってもいいんじゃないか」
ネクロの目から、涙がこぼれた。
ぽたり。
ぽたり。
どばぁぁぁぁぁぁ!!
湿拳洪水発生。
闇が、完全に晴れる。
浜辺に、光が戻った。
【ネクロを浄化した】
経験値+400
笑石のかけら獲得
称号獲得
『沈黙を超えた者』
四郎
「やった……四体目!」
ネクロ
「兄ちゃん」
「……」
「今度、ワイのコント、見てくれや」
四郎
「無言の?」
ネクロ
「いや」
「……」
「しゃべるやつ、考えてみるわ」
その時。
人混みの奥から。
津軽弁の声が響いた。
「おめ、なかなかやるなぁ」
四郎が振り返る。
そこにいたのは。
水かきのある手。
頭に皿。
河童芸人。
カッパ太郎
「おらと、勝負すっぺ」




