第三十七話 ウル輝と限られた本気
毛むくじゃらの、狼の影。
標準語の、荒っぽい声。
ウェアウルフ・ウル輝。
ウル輝
「俺は」
「満月限定芸人だ」
「あの夜だけ、本気が出せる」
四郎
「特別な感じだな」
ウル輝
「……」
「だが」
「普段の俺は」
「ただの、臆病な人間でしかない」
「……」
「満月以外の日は」
「自分が、すごく、弱く感じる」
ドゴォォォォォォン!!
【限定本気結界】
発動。
世界中で。
「特別な条件がないと、本気を出せない」という思い込みが、強まる。
『あの環境じゃないと、力が出ない』
『普段の自分は、本来の自分じゃない』
『限られた瞬間にしか、輝けない』
四郎の力も、急に、出にくくなる。
HP
37000000
↓
20000000
ウル輝
「俺は」
「……」
「満月の夜だけ、強くなる」
「……」
「それ以外の日は」
「ずっと、自分を、隠してる」
「……」
「本当の自分は」
「弱い方なんじゃないかって」
「思ってしまう」
四郎は、考えた。
これは。
「特別な瞬間」に頼りすぎることへの、不安だった。
四郎
「ウル輝」
「……」
「満月の夜の強さも」
「普段の臆病さも」
「両方、お前なんじゃないか」
ウル輝
「両方……?」
四郎
「うん」
「……」
「強い時だけが、本当のお前じゃない」
「……」
「弱い時のお前も」
「ちゃんと、大事なお前だと思う」
静寂。
ウル輝の、毛むくじゃらの体から、力みが、わずかに、抜けた。
四郎の胸の七つの傷が、輝く。
ドクン。
ドクン。
笑界編・第三十七奥義。
湿拳・両面肯定拳
効果。
『特別な瞬間だけの強さへの依存を、ほどく』
『普段の自分にも、価値があると気づかせる』
四郎
「行くぞ!」
ウル輝
「俺は、満月の夜にしか、強くなれねぇ!」
四郎
「普段の弱さも、ちゃんとお前だぁぁぁぁぁ!!」
ズガァァァァァァァァァン!!
直撃。
世界が光る。
ウル輝の表情が、少しずつ、穏やかになっていく。
ウル輝
「俺……」
「……」
「弱くても、いいのかもな」
ぽたり。
ぽたり。
どばぁぁぁぁぁぁ!!
湿拳洪水発生。
【ウル輝を浄化した】
経験値+420
笑石のかけら獲得
称号獲得
『普段の自分を認めた者』
四郎
「三十七体目……!」
その時。
足元の砂が、ぷるぷると、震えた。
標準語の、ゆるい声。
スライム・ドロ子
「あたし、ゆるふわボケ専門なんだけど」
「……ゆるすぎて、誰にも、本気にしてもらえなくて」




