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『頭脳特化の弱小国家に転生した第三王子、ガリ勉が嫌で「筋トレ」と「十分な睡眠」を推奨したら、1年後には国民全員が文武両道の最強戦士になっていた件〜  作者: はりねずみの肉球
第7章:人類史上最大のピクニック

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シーン2:精神論の終焉と、世界最強の有酸素運動

「怯むなァァッ! 相手はたかだか数万の小国だ! 我々には百万の兵がいる! 数の暴力で踏み潰せェェェッ!」


世界大連合軍の本陣から、各国の将軍たちが血走った目で号令を飛ばす。

『ラジオ体操』という未知の儀式ウォーミングアップを見せつけられ、一時的に気圧されていた連合軍の兵士たちも、将軍たちの怒号と、自分たちの周囲を埋め尽くす圧倒的な『味方の数』を頼りに、再び狂気じみた闘争心を取り戻していく。


「そうだ! 数ならこっちが圧倒的だ! 押し潰せ! ルミナスの悪魔どもを皆殺しにしろォォッ!」


地響きを立てて、百万の軍勢が突撃を開始する。

先陣を切るのは、鉄鋼同盟の重装歩兵団と、神聖王国の聖騎士団だ。彼らは分厚い鋼鉄の鎧に身を包み、密集陣形ファランクスを組んで、巨大な鉄の壁となって迫り来る。


「……愚かだな」


俺は最前線の高台から、その『分厚すぎる壁』を冷ややかに見下ろす。


「百万という桁外れの人間が、極度に密集して一斉に激しい運動(突撃)を行えば、周囲の空気はどうなるか。……少し考えればわかるだろうに」


「きゅぃっ!」


俺の肩の上で、ハリーが小さな前足で自分の鼻を覆う仕草をする。


「そうだ、ハリー。圧倒的な『酸欠』だ。彼らが吐き出す大量の二酸化炭素が陣形の内側に滞留し、ただでさえ睡眠不足で低下している彼らの血中酸素濃度を、限界まで引き下げる」


さらに、ここはルミナスの国境防衛線である『大深緑の森』の入り口周辺。足元は綺麗に舗装された石畳などではなく、水分をたっぷりと含んだ柔らかい腐葉土と泥だ。

重い鎧を着込んでそんな足場を走れば、地面に力が吸収され、泥に足を取られ、関節と筋肉に通常時の何倍もの『無駄な負荷』がかかる。


「スッ、ハッ、スッ、ハッ!!」


そこへ、完璧なウォーミングアップを終え、関節の滑液かつえきが十分に分泌されたルミナスの軍勢が激突する。

先頭を走るのは、第一騎士団長ガイアスだ。


「さあ来い、不健康な侵略者ども! 俺たちの研ぎ澄まされた広背筋と大腿四頭筋の出力、とくと味わえェッ!」


ドゴォォォォォォンッ!!


ガイアスの持つ巨大なタワーシールドが、連合軍の先頭を走っていた聖騎士の盾と激突する。

だが、その威力は文字通り『大人と子供』だった。

踏み込みの深さ、筋肉の連動、そして脳から筋肉への神経伝達速度。すべてにおいて完璧な状態にあるガイアスの一撃は、疲労困憊の聖騎士を盾ごと軽々と宙に吹き飛ばした。


「第一フェーズ! 『HIIT(高強度インターバルトレーニング)』機動、開始! 全力で制圧しろ!」


ガイアスの号令と共に、ルミナス軍の数万人が一斉に戦闘を開始する。

彼らは武器を振り回すだけでなく、体幹を活かした投げ技や、関節の可動域を限界まで使った打撃で、連合軍の兵士たちを次々と無力化していく。


「ぐはァッ!?」

「な、なんだこの力は……ッ! 鎧の上からでも、骨が……ッ!」


ルミナス軍の圧倒的な『暴力フィジカル』の前に、連合軍の最前線は瞬く間に崩壊していく。

だが、連合軍の将軍たちはまだ余裕の笑みを浮かべていた。


「フン、小賢しい。だが、奴らは全力で動きすぎている! あのペースで戦えば、数分で息が上がるはずだ! 疲労したところを、後ろから次々と新しい部隊で押し潰せ!」


将軍たちの『常識』では、それは正しい。

人間の身体は、無酸素運動の領域である「全力の戦闘」を長時間続けることはできない。必ず筋肉に乳酸が溜まり、動きが鈍る瞬間が来る。


「――はい、そこまで! 六十秒経過! アクティブレスト(積極的休養)に移行!」


俺が魔導スピーカーを通して号令をかけた、その瞬間だった。

ルミナス軍の兵士たちは、目前の敵を殴り飛ばした姿勢から、まるで糸が切れたように『スッ……』と力を抜き、同時に数歩だけ後方へとバックステップを踏んだ。


「な……ッ!?」

「敵が退いたぞ! 逃げる気だ、追えェェッ!」


連合軍の兵士たちが歓声を上げ、ルミナス軍を追撃しようと前へ踏み出す。

だが、ルミナス軍は逃げているのではない。

彼らは後退しながら、深く、長い『深呼吸』を行っていた。


「スッ……、ハァァァァ……」


一分間の全力運動(無酸素運動)。そして、次の一分間を『完全な呼吸とステップによる休息(有酸素運動)』に充てる。

これこそが、脂肪燃焼と心肺機能強化の究極系である『HIIT(高強度インターバルトレーニング)』を軍事転用した、ルミナス王国の新戦術だ。

彼らは戦闘の最中でありながら、血中に溜まりかけた乳酸を大量の酸素で分解し、筋肉のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を猛烈な勢いで再合成しているのだ。


「フゥーッ! よし、息が整った! 乳酸の除去完了!」

「心拍数、百二十まで低下! いつでもいけます!」


わずか一分後。

ルミナス軍の兵士たちは、先ほどと全く同じ、いや、それ以上の『100%の出力』で再び突撃を開始した。


「な、なんだとォッ!?」

「あいつら、休んでないのか!? なんでまた同じ速度で動けるんだ!」


連合軍の兵士たちはパニックに陥る。

彼らはルミナス軍が休んでいる一分間、重い鎧を着て泥に足を取られながら「追え! 追え!」と無駄に体力を消費していた。

そこへ、エネルギーを完全に回復させたルミナス軍が再びフルスロットルで襲いかかってきたのだ。


ズガァァァァンッ!!

「ぎゃあァァァッ!」


一方的な蹂躙が再開される。

一分全力で殴り、一分間深呼吸して下がる。

たったこれだけの反復運動ループが、連合軍にとってこれほどまでに恐ろしい悪夢になるとは、誰一人として想像していなかった。


「退くなァッ! 根性を見せろ! お前たちには気合というものがないのかァッ!」


連合軍の将軍たちが、後方から泡を飛ばして絶叫する。


「気合だ! 気合で筋肉を動かせ! 疲労など幻だと思い込めェェッ!」

「そうだ! 死んでも倒れるな! 進めェェェッ!」


その非科学的で残酷な命令が、連合軍の兵士たちに致命的なトドメを刺した。

すでに極度の酸欠状態にあり、筋肉に乳酸が溜まりきっている彼らが、将軍たちの命令に従って無理やり身体を前に押し出そうとした瞬間。


「あ、が……ッ」

「息、が……吸えねェ……ッ」


最前線の兵士たちの足が、ピタリと止まった。

彼らはルミナス軍の攻撃を受けたわけではない。ただ、自分の身体を支えることができなくなり、次々と白目を剥いて泥の上へと倒れ込み始めたのだ。


バタッ……、バタバタバタッ!!


まるでドミノ倒しのように、何千、何万という連合軍の兵士たちが、泡を吹いて気絶していく。

極度の酸素欠乏による脳のシャットダウンと、筋肉の完全な稼働停止ストライキだ。


「な、何が起きている……!? なぜ誰も攻撃されていないのに倒れるのだ!」

「呪いだ! やはりルミナスは、不可視の呪いを……ッ!」


本陣の将軍たちが、恐怖で顔を青ざめさせる。


「呪いではない。ただの『生理現象』だ」


俺は高台から、自重で崩壊していく百万の軍勢を冷徹に見下ろす。


「気合や根性で、酸素は生み出せない。精神論で、筋肉のATPは合成できない。……お前たちの言う『努力』は、ただ人体の限界を無視して、兵士の命をすり減らしていただけだ」


一分間のインターバルを終え、三度目の突撃準備を整えたルミナス軍の兵士たちが、全く汗をかいていない涼しい顔で、バタバタと倒れ伏す連合軍の兵士たちを見下ろしている。


もはや、これを『戦争』と呼ぶことはできない。

これは、圧倒的な健康知識を持った国による、間違った常識に対する『残酷なまでの解体作業』だった。

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