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晩餐のおとぎ娘  作者: つぶ貝
少女と皇太子
1/6

一.「さて、何を作ろうか?」

『お前がいると、飯が不味くなる』

『能無し…お前なんて───』

『死んじゃえばいい』


下衆な人間に不快な言葉をかけられている少女はこの状況に慣れてしまっていた。

何故ならこれは「夢」であり、毎晩のように見ているからである。

そう──この「夢」は、()()()()に居た時の己の記憶なのだ。


(段々と、前に居た世界の記憶が薄れてきてるなぁ……。)


小鳥のさえずりを耳にして起床する。


(もう、三ヶ月くらい…かな)


豊かな自然と青い海が美しいこの国の名は()の国というらしい。

すずめは小さな村で料理屋を営む老夫婦に拾われた。老夫婦には子どもはいない。その事に関しては珍しくもなんともないが、すずめはちょっとした()()()となっていた。


「あらあらやっと起きた」

「おはよう、おばあちゃん」

「はい、おはよう。顔を洗って身支度を整えたら、朝ごはんを食べてちょうだいね。」


すずめの養母の朱玲(シュレイ)は、柔らかい笑みを浮かべる。


「そういえば、今日は大事なお客様が来るんだったわ~。」

「大事なおきゃくさま?」

「うふふ…。すずめの料理を食べたいって、わざわざ異国から来るみたいなの。」

「え…、とうとう異国にまで広まってる感じ?」

「それ程…───貴女の料理は美味しいってことなのよ?」

「それは嬉しいけど…、あたしはどちらかというと、食べる方が好きだなあ」


すずめの料理は、村では「特別」な物として崇拝されていた。それを食べた者は、どんな極悪人でさえ善人に人格が変わってしまうと───お陰様で村の治安はとても良い。


「おじいちゃん、おはよ~!」


朝ご飯を食べた後に厨房へ向かうと、養父の山葵(シャンクイ)と端正な顔立ちをした見知らぬ青年が立っていた。


(異国の…昔の中国っぽい着物?。控えめだけど、身に付けている装飾品や着物の素材はかなり高級そう…。)


「おやおや、寝坊娘がやっと起きたか」


養父の山葵(シャンクイ)は採れたての山菜を切っていた。


「えへへ、ごめんごめん。…えーと、そちらの人は?」


頭を掻きながら青年の方に視線をやると、いつの間にか距離を詰められていた。


「君が山葵(シャンクイ)さんが保護した娘さんだね!?。いやあ~~やっと逢えたねぇ~~!!。僕の名前は春 蓮幻(チュン レンゲン)!。(ロン)国の後宮で料理官長(りょうりかんちょう)をしていて、山葵(シャンクイ)さんには昔お世話になっていたんだっ」


(な、なんなの───この、ずけずけと人の心の中に土足で入ってくるような…)


山葵(シャンクイ)が苦笑しながら言った。


「これ、蓮幻(レンゲン)…、すずめが驚いておる。後、距離が近過ぎだ。」

「嗚呼……、すずめ──なんて愛らしい名前なんだ……っ。麗しい小鳥よ……、僕の肩にお乗り。」


肩をずいっと、蓮幻(レンゲン)はすずめに近付ける


「ひ、ひぃっ!?。なんなのこの変質者は!?。おじいちゃんこんな人連れてきちゃ駄目じゃないの!!。」

「変質者ではないぞ。…お前の料理を食べに来たのだから。」

「え…、じゃあ…おばあちゃんが言ってたお客様って……」


今の今まで満面の笑みだった蓮幻(レンゲン)は、真剣な表情に変わった。


「君の料理は……人の心を動かせるらしいね。」

「心を動かす…って、そんな大袈裟な」

「僕は正直、信用はしていないんだ。現実的に考えて、心を操れる──人も食材もある訳がない。」


(なんだか腹立つな…)


「…どうして、そう言い切れるんですか?」

「…現実はそう、餡子のように甘くないって事だよ。」


どうやら陽気な変質者は表向きで、内面はかなり疑り深いらしい。

すずめは口角を上げた。


「では───貴方の心、動かします。」


そんな風に言われて黙っていられるくらいなら、料理もしないし、人の心なんて動かせもしないだろう。

相手が手強ければ手強いほど、この闘争心は燃える。

この男は少女に油を引いたも同然。

さて、何を作ろうか?

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