転- 12.トラウマ!? モフモフ大作戦!
手頃な木を右腕に当て、スカートの裾を切り裂いた布で首に掛けるように固定した。
裾を切り裂く時に、煌君が“あばばばっ!”とか変な声を出したけど、結局顔を背けただけで何も言わないし……。
また私何かしちゃった?
「うん、これでさっきよりマシだね」
「サンキュー……つか、スカート破くくらいなら、自分の服でやったのによ……」
「気にしないでよ。そのケガは私のせいなんだし……」
ヒナタが笑顔をうかべたが、煌の表情は優れず、“俺が後で色々怒られんじゃね?”と呟く。
「もう、さっきからぶつぶつ言って……とにかく、昴さん達が来る前にやるんだよね?」
「あぁ、昴達を説得してる時間はないから、来る前に終わらせたい。ただ、俺がまず動きを止めないとな。その隙を何とかしない事には……」
良い案がないか悩んでいると、ヒナタはポケットから何かを取り出し、煌の顔面に突き付ける。
長い兎のような耳が目の前で揺れ、無言だった彼は瞳をパチパチとさせながら、首をゆっくり傾げ始めた。
「あん? 何だよ……それ、白いモフじゃ――――って! 白いモフ!? 懲りずにまた貰ったのか!? てか、こっちに近付けんじゃねぇ!!」
青い顔で思いっきり体を仰け反らせる煌を見て、ヒナタは確信したように頷いた。
「煌君落ち着いて。これはただの人形だよ」
「!?」
その言葉に我に返ると、大袈裟な反応をした事を恥ずかしがっているのか、ほんのり桃色に染まった頬を指先で掻く。
「ば、バカ野郎! びっくりしたじゃねぇか……んだよ……睡蓮のイタズラか?」
「ううん、さっき私が作ったの。もしかしたら出来るんじゃないかと思って、手の上に白いモフが乗ってるのをイメージしたら、スーッて形になって出てきたよ」
手の中でモフをコロコロと転がし、嬉しそうに話すヒナタとは逆に、流石に驚きを通り越して呆れた表情を浮かべる煌。
「…………お前の能力は未知だな。何でも有りな魔法使いかよ」
「煌君、魔法使い信じてる?」
「おい、“サンタの存在信じてる?”みたいなノリで聞くなよ。魔法使いとサンタはちげぇだろ」
「えー? そうかなぁ……」
無理矢理その場を誤魔化すと、どさくさに紛れて再度白いモフを差し出す。
「だから、俺に渡してどうする――――」
「さっきの煌君を見て、成功する可能性があるって分かったの。煌君、これが嫌いだよね?」
「……」
「槐君も、嫌いだよね?」
「………………」
ヒナタの自信満々な表情に、流石の煌もその作戦に気付いて顔をしかめる。
「お前は鬼か」
「後で謝るから! ね? これしか思い浮かばなかったの!」
「……マジか」
青ざめながら、明らかに嫌なものを摘まむように、指先で受け取る。
「……失敗、出来ねぇなコレ」
「うん、一発勝負だね」
「しょーがねぇーな……」
ブラブラとさせていたモフを、手の平にしっかり収めて立ち上がる煌に続き、ヒナタも右手を強く握り立ち上がる。
そして、そのまま力強く右腕を高々と振り上げた。
「今から、奇襲作戦を決行します!」
静かな森の中、宣誓をするかのような声が響き渡り、その様子に煌は深い溜め息をついて眉間にシワを寄せる。
「………………静かにしろよ……奇襲になんねぇから」
「……」
固まるヒナタに、“ツッコミ役もう一人欲しい”という、煌の呟きがまた聞こえた。
***
広い森の中、相手に気付かれずにその姿を捜す事は困難に思われたが、禍々しい気を放つ槐の歩いた道は草木が枯れ果てており、ヒナタ達は以外にもすぐ見つける事が出来た。
「どうやって元の槐に戻すか分かんねぇけど、お前と一緒に傍まで行って、一瞬でも動きを止めれば、後は任せりゃいいんだよな?」
「うん、それでお願い。大丈夫、きっと上手くいく」
「おう。んじゃ、行くぜ」
目を合わせて頷くのを合図に、煌は左腕に力を込め、全力でモフ人形を槐に向かって投げ付ける。
真っ直ぐに飛んでいく事を確認すると、まるで米俵を脇に抱えるかのように、ヒナタの腰に腕を回して持ち上げた。
「あれ、いつもより雑……」
「片腕がダメだからなっ! こっちの方はかなり揺れっから、舌噛むなよ!」
「――――――っ!?」
慌てて口を閉じると、煌は地面を力強く蹴って、弾丸のような速さで人形の後を駆け抜ける。
「みゅーん!」
「!?」
どうやら音声機能付きだった人形は独特の鳴き声を発し、その音に反応して振り返った槐の顔面に、見事クリティカルヒットした。
「!!」
柔らかい人形が当たったにもかかわらず、その衝撃で一瞬動けなくなった所を、二人が懐に入り込む。
「!」
「おせぇよ!」
我に返えった槐が蔓に変化した右腕を振り上げる。
しかし煌が、がら空きの首に木で固定した腕を押し込み、そのまま続けざまに、威力の無い攻撃を左手で受け止め掴んだ。
「ヒナタ!」
「っ!」
二人の動きは息ぴったりで、煌が動きを止めるのと同時に、ヒナタは流れるような動きで槐の胸に両手を当てると、意識を集中させる。
――――感じる。
禍々しい気が槐君の中で暴れてるんだ。
その中に微かだけど椿さんの時と同じ気配もある。
「……出て行って下さい。槐君は、堕とさせません!!」
自分の中にある不思議な感覚が沸き立つ。
それは全てを押し流す激流のイメージだ。
――――それを両手に集めて……一気に押し出す!!
「――――っああああっ!!」
ヒナタの両手からまばゆい光が放たれ、槐の体を貫く。
それと同時に禍々しい黒いモノが、“ゴポリ”と音をたてて体から離れた。
しかし、黒いモノはまるで意識があるかのように、うねうねと動いて槐の体に戻ろうとした為、ヒナタは慌てて指を差す。
「煌君! あれが原因だよ!」
「うっしゃっ!」
変化した部分が元に戻って気絶した槐を、後ろに下がらせてからヒナタに預け、煌は左手に業火を灯す。
「これで終わりだ。燃えて消し炭になれ――――――っ!」
激しい一撃が黒いモノを直撃し、“ドオン!”と激しい爆音が辺りに響き渡る。
砂煙が舞う中で激しく燃え上がると、あっという間に拡散して、跡形もなく消え失せてしまった。
暫くの静寂に包まれた後、ヒナタは槐を抱えて座り込んだまま、気の抜けた表情で辺りを見回す。
「…………やっ、た?」
その声に煌が振り向くと、ニッカリと笑う。
「おう!」
「!!」
力強いその返事に、ヒナタの表情も満面の笑みになり、気を失っている槐を強く抱き締めた。
良かった、槐君!
これからの事はまた考えなきゃいけないけど、とりあえず今は本当に良かったよ~!!
「おい、あんま強くしたら苦しいだろ」
「煌君もやる?」
「アホ……やらねーよ」
地面にどっかりと座り、呆れた口調であったが、ヒナタを見つめる煌の瞳は、どこか優しい雰囲気であった。




