小話.槐3
館を出てから急速に僕の体は侵食され、頭の中をゆっくり掻き回される感覚に身を震わせながら、木に空いた穴の中で動けなくなった。
既に右腕は、人の感覚が感じられなくなってしまっている。
もしかしたら、煌が僕の元に着く頃には、自我なんて残ってないかもしれない。
だって、今も心の中で別の誰かが囁いているから。
殺せ、壊せ――――全てを破滅させろ、と…………。
「嫌だ……たす…………」
……駄目だ、その先は言っちゃいけない。
弱音を吐けば、それだけ意識がもっていかれる。
まだ、僕は僕で居なくては……煌に余計な負担がかかる――――――そう思っていたのに、突如僕の目の前に一番居て欲しくない人が現れた。
光輝く中で安堵した表情を浮かべる彼女に、思わず手を伸ばしかけたけど、自分の醜い姿を思い出す。
見られたくない思いから出した手は、傷付けたくない彼女を攻撃し、あろうことか自分の手で殺そうとしてしまった。
僕の中に僅かにあった欲望。
光が……ヒナタが……欲しかった――――殺してでも。
もう、僕の中の願いまで、侵食されて歪んでいる事に気付かない程、おかしくなっていた。
「コ、ウ……」
口元をニタリと歪ませて、落ちていった二人を追いかけ森の中を歩き回る。
「……ドコ……サガ、サナキャ……コロ、サナキャ……」
既にほとんどいうことを聞かない体の中で、僕の意識はそれでもほんの少し残っていた。
何故か楽しい思い出に浸ると、侵食の力が弱まったので、それを守る為に思い出したのは、とある夢。
時折見る夢の中……見知らぬ場所で、煌に似た人物と勝負に明け暮れる毎日は楽しかった。
そして、今の僕なら絶対にしないとある願いを、笑顔で協力してくれると約束してくれた。
夢の中なのに、今の君と何故か重なる。
……朧様が蛍という守護者を見ていたように、僕も気付けば煌を見ていたのかもしれない。
ヒナタがこの世界に来てからは、余計にそんな感じがした。
彼がやり過ぎないように……手加減出来ない性格だから。
また酷い言い方をしていないか? ……彼は不器用だから。
最後に聞けば……ううん、もっと早く聞けば良かった。
……煌も同じ夢を見ていたら……きっと、面白い事や今とは違う結果になっていたかもしれない。
……結末は残念だけど、既に決まっている。
この、僅かに残った意識を最後の瞬間にかける。
煌、君が僕の思っているような人物なら……きっと、やってくれるはず……僕の願い、叶えてくれるよね?




