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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第三章・煌~対なる扉、想いの狭間で君を待つ~
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転- 10.君の願いなら

 爆風で下降速度と軌道を逸らせば、地面に叩き付けられて死ぬのは回避出来るかもしれない。

 一か八かの賭けだったが、悩んでいる時間はなかった。

 しかし、思った以上の力で負担が大きく、骨にヒビが入っていたであろう右腕から嫌な音がする。

 挙げ句の果てに、気絶したヒナタの体が離れかけて、慌てて引き寄せた。


 まずい……このまま木に突っ込んだらヒナタがやばい。

 約束したからな……こんな事で、死なせる訳にはいかねぇんだよ!


 ちゃんと受け身が取れないこいつを庇い、木々のクッションに突っ込むと、完全に折れて使い物にならない右腕など気にせず、ただヒナタを胸に抱いて背中から地面に落ちた。


「――――っぐ!」


 死なない程度に衝撃を抑えたとはいえ、さすがに意識が飛ぶかと思う程の激痛を感じる。

 ふるふると震えながらも、足と手に力を入れ、動く事を確認した。


 何とか、動くか?

 さっさと移動しねぇと……槐のやつが追ってきちまう。

 今襲われたら二人揃って御陀仏だぜ……。


 全身が悲鳴をあげ、所々血が滴っていたが、急いで左腕でヒナタを担ぎ上げて、足を引きずりながら歩き出す。

 いつもなら“降ろしてよ!”と騒ぐ声が聞こえない事に、少しだけ不安になった。


 ……大丈夫……大丈夫だ。

 まだ、生きてる……。


 呪文のように自分を安心させる為に呟くが、正直体はすでに限界で、だんだん意識が朦朧としてきていた。

 それでも荒い息を吐きながら進むと、崖に洞窟のような小さな窪みがある事に気付き、自然と足が向いてずるずると中に入る。

 しかし、同時に膝から力が抜け、慌ててヒナタを抱え込んだが、耐えきれずにそのまま地面に倒れ込んでしまった。

 ……その衝撃でもこいつは目を覚まさない。


 おい、これでも起きねぇとかどんだけだよ。

 ちくしょう……ここ、までか?


 ゆっくりと霞行く意識の中で、“チリン”と涼やかな音がして暗い穴の中を何かが淡く照らす。


「ヒナタ! 煌! しっかりせい!」

「!?」


 な、何だ!?

 睡蓮の声がしやがる!?


 驚きで気絶寸前の意識がはっきりし、慌てて辺りを見回した。

 そこにはヒナタのポケットから飛び出したであろう、小さな鈴が転がっており、それが淡く光を放っている。


「睡蓮、か?」

「あぁ、我だ! 全て映像で見ておったが、もうじき槐がそこに来てしまう。今から鈴の結界を解放する故、そこから出るでないぞ!」


 御守りの鈴から声がする事に驚いたが、今の現状を振り返り、溜め息を漏らす。


「てか、こうなったのお前関係してるんじゃ……」

「話すのは後じゃ! 今から張るのは幻影結界。気配と姿を惑わし隠すものじゃ! 死にたくなくば、静かにしておれ!」

「……」


 ちっ、一理あるか……とりあえず黙ってた方が賢明だな。

 ヒナタがここに移動して来た事に絡んでそうだけど、今は睡蓮の力に頼るしかねぇ。


 “チリン、チリン”と鈴が揺れ、暗い穴の中が光で満たされると、薄い膜のような物が入り口を塞ぐのが分かった。


 これで少しは時間稼ぎが出来る。

 後は、どうするか――――このままだと、昴達がきっときちまう。

 そうしたら、槐は……。


 チラリとヒナタを見ると、何も知らず安らかな寝息をたてていた。




 ***




 暫く静かにしていると、鈴の光が弱くなり、また睡蓮の声がした。


「うむ、何とかなったな。時間稼ぎにはなるであろう」

「そーかよ。で? お前だろ、ヒナタをこっちにやりやがったのは」


 俺の問いに、“げほん、げほん”とむせる音がする。

 ……図星かよ。


「た……確かに、水面に槐を映して場所を教えたのは我だ。しかし、実際移動したのはヒナタの能力じゃ。すまん事をしたのは分かっておるぞ? 我とて、槐が堕ちかけていると知っていれば、行かせなかった」


 ……話に聞いていた、朔の時出した能力か?

 だったら、ヒナタを置いて行ってもムダだな……何が何でも追いかけてくるはずだからな。

 つーか、今回みたいなのは逆に危ないって事だ。


「――――とにかくじゃ! その体で戦闘は無理じゃ。昴達には連絡した故、そこで待っておれ。よいな!」


 睡蓮は一方的に喋ると、俺の返事を待たずに声がしなくなる。

 くそっ……やっぱり昴達が来るか。


 そわそわと何かいい考えがないか頭を悩ませていると、突然ヒナタが苦し気な声をだし、俺は慌てて近くに寄る。


「……行か…………ないで、待って……」


 夢の中でも槐を追っているのか、指先をピクピクと動かし、眉間に皺を寄せてうなされていた。


「……ここに居るだろ……槐じゃねぇけど、俺がいるじゃん」


 何故か凄く胸が苦しくなり、そっとヒナタの手を取り握る。

 すると、“ガバッ”と両手で抱え込まれ、抵抗する暇もなくぐっと顔が近付いた。


「なっ!? お、おいっ、ち、ちち近っ……」


 戸惑い動けない俺をよそに、ヒナタは先程のうなされた表情から一変、幸せそうに微笑む。


「……く、ん…………煌、君」

「!」


 ……たぶん、俺だけじゃねぇけど……そこには、確かに俺も居るんだよな?

 三人か――――。


 自然と口元が緩んでいる事に自分でも気付く。


「――――――――ば~か……」


 万が一、ヒナタがまた助けたいと言ったなら……その時は、どんな策でも手を貸しちまう…………そんな気がした。

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