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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第三章・煌~対なる扉、想いの狭間で君を待つ~
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転- 8.困った時のっ!

 廊下が少し静かになった頃。

 ヒナタの瞳に強い光が宿っていた。


 閉じ込められて諦める私じゃない。

 前の私なら、どうしようで終わってたけど、今なら……この世界なら出来る事が一つだけある。

 朔さんを庇った時の、あの力が出せれば……確かめた事ないけど。

 成功するか分からないし、力に気付いて朔さんと蛍が入って来るかもしれない。

 一応、蛍には“さっきの事がショック過ぎて話したくないから、暫くの間ほっといて”と冷たく突き放しておいた。

 ……本気で涙声で謝られて、罪悪感から私の心がチクチクしたけど、今は手段を選んでいられない。


 ヒナタはゆっくりと部屋の隅に移動し、できるだけ扉と窓から離れ、胸の前で両手を組む。


 思い出すんだ、あの景色が流れる感覚を。

 そして、強く願う……煌君と槐君の元に行きたいと!


 ヒナタが強く手を握り締めると、ほんの少しだけ音が遠ざかるような感覚が現れる。

 しかし、それ以上は高まる気配がせず、そのうち辺りの音は戻ってしまった。


「………………」


 ……無理、みたい。

 あの時のような感覚は僅かにするけど、何かが足りない。

 気持ちが足りないのかな……。

 あの時は必死だったから、どうやったのかあやふやだ。

 覚えてるのは、“朔さんの傍に!”って感じだけ……。


「はぁ……」


 ヒナタは座り込んで深い溜め息をつく。

 すると、スカートのポケットから“チリリン”と涼やかな音がして、紐がついた鈴が転がり出た。


 これ……睡蓮さんにもらった御守り――――の“残り”。

 本体の白いモフは暴走して消えちゃったんだよね。

 …………そういえば、あれから睡蓮さんも館に全然来ないから、部屋の結界は進んでないし、槐君の事も言ってない。

 タイミングよく来てくれないかな……今味方になってくれそうなのは、睡蓮さんだけなんだよね。


「あぁ、会いたいなぁ……。今すぐ睡蓮さんに会いた――――」

「――――ぐぇっ!!」


 ――――ん?

 さっきのカエルが潰れたみたいな声は何?

 と、いいますか……固い床が……柔らかくて、暖かい?


「何、者じゃ!! やんごとなき身の我に、このような暴挙を働くとは! はよう退けぬか!!」


 え、まさか……。


 ヒナタは青ざめながらも恐る恐る下を見る。

 白銀の髪を踊らせ、バタバタと下でもがく人……紛れもなく、会いたがっていた睡蓮であった。


「す、睡蓮さん!? ご、ご、ごめんなさい!!」

「ぐぇっ!」


 飛び跳ねるように下りた為、また睡蓮を押し潰した事に気付かず、ヒナタはアワアワと慌てる。


「ヒ、ヒナタ……!? どうやってここに来たのだ? 護衛は……いや、そもそも突然上から降ってくるとは一体……?」


 ん? ――――ってこの場所は睡蓮さんの屋敷!?

 じゃあ、睡蓮さんが来たんじゃなくて、私が移動したって事になる。

 もしかして……成功した!?


「や、やったぁ~! よし、じゃあ二人を捜しに行――――」

「待たぬかヒナタ! 説明なくば、ここから出さぬ」


 うっ……やっぱり?


 首根っこを掴まれたヒナタは苦笑いをし、また床に座り直すのだった。




 ***




 ヒナタが簡潔に事のあらましを伝えると、睡蓮は深刻な表情をうかべる。


「うむ……暫く行かぬ間に色々あったのだな……。ヒナタにやった白いモフもあまり役に立たなかったうえ、逆に悪い状況になってしまったようだ」


 そう言い、指先で紐を持ち上げると、鈴だけになった御守りが小さく揺れた。


「槐君に何かあったみたいなんですけど、煌君は何も言わずに行っちゃうし、他の三人は私を部屋に閉じ込めたんですよ!」

「……で、辛抱ならずに、能力を使って我の元に来たか」

「最初は失敗しちゃったんです。次に、睡蓮さんの屋敷をイメージしながら、“会いたいなぁ~”と思ってたら、いつの間にか移動してました」


 “うむ”と言い目を閉じて暫く何か考えている様子に、ヒナタは固唾を飲んで見つめた。


「……椿の時もそうだったが、能力の発動には、漠然としたものではなく、“明確なイメージ”が必要みたいだの」

「じゃあ、場所とか具体的にイメージしないと、その場所に行けないんですね」

「そうじゃのぅ……それか、複数の対象が離れておると無理なのではないか?」


 そっか……“煌君と槐君の元に行きたい”ってやり方はだめだったんだ。

 でも、そうなると二人はまだ会ってない。

 嫌な予感がするし、早く槐君を見つけないと……。

 う~ん……場所と人物……イメージがはっきりとしていれば、出来るんだけど、場所が分からない。


「ヒナタ、もしや場所のイメージが分からなくて困っておるのか?」

「はい。出来れば槐君の所へ行きたいんですけど、何処にいるか分からないので、瞬間移動は出来ないなぁと……」


 睡蓮は何て事無い様子でニンマリ笑うと、自分の胸に手を当てる。


「我は結界を張りし者ぞ。屋敷や館の辺り一帯には、敵が侵入した事を知らせる特殊な結界を張っておる。その中に二人が居れば、水面に映す事が出来るのだ」

「じゃあ、その映像を見て念じれば!」

「あっという間じゃ!」


 キャーっと歓喜の声をあげ、ヒナタはガバッと抱きついた。


「よしよし、この我が力になろう。困った時の睡蓮じゃな」

「ありがとうございます! 睡蓮さん!」

「うむ」


 突然ではあったが、睡蓮はしっかりと受け止め優しく抱き締めると、ゆっくりと体を離した。


「では、急ぐぞ。――――どうやら二人は近い。煌より先に槐に会うのだ」

「はい!」


 睡蓮は急いで庭に降りると印を組む。

 すると、庭の中央にある大きな池が光輝き、水面に大木が映る。

 その大木には人が入れる位の穴が空いており、その中に槐の姿が現れた。


「居ったな……ヒナタ、おそらく我は共に移動できぬ。後で必ず追い付くが、それまでは一人になり、危険が及ぶかもしれん。心して行くがよい」

「はい、何かあったら無理せず睡蓮さんを待ちます」

「良い返事じゃな。……決して忘れるでないぞ。我は、そなたが望めばいつでも傍におる」


 睡蓮の言葉を胸に刻み、ヒナタは力強く頷くと水面に映る槐を見つめる。


 ――――槐君、今行くよ!


 辺りの音が消えてヒナタの体が軽くなった瞬間、水面の中の槐は驚愕の表情をうかべ、こちらを確かに見ていた。


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